『花』小説2
□僕が君の手を
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握り返したのは、
言葉より確かなものを、俺自身、欲していた所為なのかもしれない。
Episode1…言葉にならなかったからで、
ふらりといなくなって、ふらりと現れて、ふらりと気まぐれに、気が付くと側にいる。そんな男だった。
「政宗、今日はお土産があるんだよ。一緒に飲もう」
片手に酒瓶を抱えて、満面の笑みで慶次が言う。道場で静かに竹刀を振っていた政宗は、それには返事をせず稽古を続けた。
ああだこうだと文句を言いつつも慣れているらしい。慶次は道場に似つかわしくない酒瓶を抱えその場に座り込んだ。じっと、竹刀を振る政宗を見る。
(今日は機嫌が良いみたい)
美しい男だとこっそり思う。流れるような太刀捌きにお似合いの、まるで剣のような美しさ。慶次はもう一人剣と似た男を知っていたが、美しさで言えば政宗の方が上なのではないかと思う。
しばらく政宗の稽古を見ていて、政宗の舎弟(多少語弊がある)が伝えにくそうに「夕餉です」と言いに来た。俺が伝えるから帰っていいよ、そう人の良さそうな顔で告げて立ち上がる。舎弟は心底ありがたそうな顔をして立ち去っていった。
(ありがたく思われる筋合いはないよ…今の政宗に、誰も触って欲しくないだけ)
慶次がぽつりと苦笑した。
「政宗!ご飯だってさ。戻ろう」
声を掛けるが、返事は無い。余程集中しているのだろう。それでも慶次は構わず、ずかずかと政宗に近寄っていった。竹刀を弾き落として、その腕を取る。
「…Ah?何のつもりだ、」
「だから飯だって。行こう」
「俺はまだ」
「いいから」
無理矢理、そんな勢いで手を強引に繋がれる。大きな手にしっかりと握られて、政宗は至極迷惑そうな顔をして悪態を吐いた。
「迷惑な男だ」
言葉とは反対に、握り返された掌は熱い。