『花』小説2

□始まりの詩
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Episode1:優秀な上司





出会いは悪くなかった。俺が就職した会社はものすごく条件が良く、社内環境もどが付くほど素晴らしいものだった。すぐに友達ができたし、上司にも恵まれ仕事ははかどる一方。

…俺の上司はそう、ものすごく優秀な人だった。



「片倉さん、書類ここ置いておきますね」

「ああ」

「あの、他にやることあります?」

「今のところは…いや、そうだな。これを頼もう」



渡された書類を受け取り、与えられたデスクに舞い戻る。

今し方会話していた男性は名前を片倉小十郎といって、この会社の部長であり社長の秘書のような人だった。会社にいる間は一寸の隙もなく仕事をし、休憩時間をいつ取っているのか分からないくらい書類と睨めっこしている。

顔は多少いかついが(おっと失礼)話をすれば堅実だし、人に仕事を割り振るのが上手で更には面倒見まで良いときたもんだ。

(これで独り身なんでしょ?まあ彼女たちが騒ぐのも無理無いかあ)

彼女というのは、社内の若い子から壮年のおば…お姉さん達の事。片倉さんは独身で恋人はおらず、その真面目で誠実な性格ともろもろのステータスが彼女たちの心を鷲掴みにしているらしかった。

まあ、社長の伊達政宗に比べれば、その比では無いのだけれど。



「部長〜!今日は飲みに行きましょうよ!!」



社員の一人がそう声をかけた。成実と言ったか、確か社長の従兄弟とかなんとかだったと思う。彼が手持ちの書類を提出しながら提案すると、いつもはその誘いを断る堅物の部長が「是」と首を縦に振った。



「仕事に早く片が付きそうだからな。たまにはいいだろう」

「やったー!!!!佐助、社内の可愛い子集めておいで!」

「はああ?何で俺様が!」



飲みに連れて行って貰えると言うことは、きっと片倉さんの奢り。しかも毎回良いお店に連れて行って貰えるから、その日はあっという間に大人数の集まりになってしまった。

それでも嫌な顔一つせず世話をしてくれる片倉部長は、とにかく「いい人」というシールが貼られていた(俺様印の)。

けれどそれが「今日この日まで」だったと、この時の俺様が気付く筈はなかった。






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