『花』小説2
□初恋K
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新聞にでも載りそうな「小さな事件」は、翌朝紙面を彩ったりはしなかった。
今回の事は穏便にすませよう、世間に公開しないでおこう。マスコミが介入すれば政宗も幸村も、普段通りの生活…とはいかないだろうから。そう判断した政宗の実家が、大人の事情というもので内々に処理したそうだった。
「全治…二ヶ月だそうです」
「Ha、一ヶ月で治してやる」
「…はあ…貴方って人はまったく、」
そんな大人の事情でどうにもならなかった事と言えば、政宗と幸村の肉体的外傷であった。幸村は入院する程では無かったものの、政宗は足の骨を両方折るという大怪我を負ったのである。広い個室内で一人横になり、両足を吊られ身体の節々に包帯の嵐。主の情けのない格好に、小十郎が眉間を押さえて大きく溜息を吐いた。
「まあ何とかなったんだからいいじゃねえか」
「何とかなったのは偶然です!ただの不良のいざこざならまだしも、大きな組織が関わってくるような一大事に、何故小十郎に一言声をかけてくださらなかったのですっ」
「…oh, Sorry。そこは反省してる」
大きな組織、と言うのは政宗がボウリングのピンの様にはじき飛ばした相手ではない。今回不良達に声をかけ、政宗にわざわざ電話までしてきた人物に関わりがある。
「で?相手の方の動きは」
「無いですね。どういった理由で関わってきたのかも謎です」
「Hum…確か天海、とか言ったな」
「はい。父君のライバル社である、小早川家の身内者であるとか、無いとか」
「…えらく曖昧だな」
「得体が知れぬ男なのです。身元が分からず、本当に小早川家の者かも妖しい」
「…」
得体の知れない男が(しかし敵対勢力ではあることは確かだ)政宗に接触してきた理由は一体何だろうかと。伊達家も警戒し過剰な詮索をしたが、それ以上の詳しい情報は得られなかった。うやむやの内に打ち切られた「小さな事件」は、後に引き起こる「大きな事件」の発端になるのだが、今の政宗には予想する術も無い。
大きな事件は政宗と幸村が社会人になってからの、また別の物語。
「…政宗様、良い機会です。一般女性を争いに巻き込むなど言語道断。勿論、友人知人もです」
「…」
「ですが、それが「奥方様」と「仲間」であれば話は別でございましょう」
「!」
「今後のお付き合いを…良く、お考えくださいませ」
今まで分かっていたつもりだった、自分の“立場”というもの。政宗には幸か不幸か、夏休みまるごと一回分という「考える猶予」が与えられていた。