『花』小説2
□初恋G
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蒸し暑い放課後の事だった。
幸村は抜き打ちテストで赤点をとってしまい、放課後残って勉強をする羽目になった。佐助は用事があると言って先に帰り、いつもなら勉強を教えてくれる元就も外せない用事があるのだと言う。幸村は一人で分からない問題と向き合ったため、酷く時間がかかり部活にも出られない時間になってしまった。
今日は政宗と試合う事ができなかったなあ、そうしょんぼりしていたところ予期せぬ珍客が現れた。
「Hey、居残りだって?」
「伊達殿!」
教室に入ってきた政宗に、幸村は歓喜の声をあげた。机に筆記用具を出したまま立ち上がり、政宗の側へ駆け寄る。政宗は滅多に教室に来たりしないのだ。今日は生徒がおらず注目の的にならないからだろう、政宗は人前にいる時よりも柔らかい空気を纏っていた。
「解けたのか、」
「う…す、少しくらいは先生も見逃してくれるだろうと」
「Ha?お前、こんなんも解けないのか」
「!み、見ないでくだされえ」
問題用紙を摘まれ、幸村がぴょんぴょんと跳ねてその用紙を奪おうと手を伸ばす。狭い机の隙間で跳ねた為か、幸村は着地する際うっかり机に引っかかってしまった。前のめりに倒れ、目の前の政宗の胸に縋るような形になる。政宗は咄嗟に幸村を抱きとめ…否、抱き締めてしまった。
政宗の胸に頭突きをしてしまった幸村は、すぐに謝罪し身体を離そうとしたのだが。
「…?伊達…?」
政宗の腕が自分の腰から離れない。これではまるで抱き合っているみたいでは無いか。そう思い立った幸村は顔が爆発せんという位に真っ赤になったが、ここからどう動いて良いのか、どう言い訳すれば良いのか分からない。戸惑い慌てふためいた結果、ただ政宗を上目遣いに見つめるだけに終わる。
その時だった。頭上から分かりやすく舌打ちがし政宗が英語で何か呟いたかと思うと、急に視界が真っ暗になった。
否、真っ暗なのではない。政宗の睫毛が視界一杯に広がり、前が見えなくなっていたのだ。