『花』小説2

□初恋G
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好きという言葉が、嫌いだった。

幸村を送っていった政宗は、仲間に合流せず一人バイクを止めて煙草に火を点けていた。細い煙がじわりと闇に滲んでは消えていく。

(彼女を家に送っている気分だ、)

脳内でぼそりと呟いて煙草を揉み消し、すぐさま二本目の煙草に火を点ける。

政宗にとって、幸村は既に特別な存在になっていた。今までに仲良くなった仲間のような女性は何人かいたが、幸村のように送ってやったり自ら関わろうとした相手はいない。

幸村と遊ぶのは楽しかったし、見ていて飽きないし、夜道が危ないから送ってやろうと思う位には気に掛けていた。最初は妹みたいだとか、世話が焼けるとか、そんな風に思っていたけれど。

(セックスしてえ)

3本目の煙草を口に引っかけて政宗はバイクのエンジンをかけた。夜道を走りながら、幸村の笑顔を思い出して「不快」を露骨に表した顔をする。

単純に言うと、政宗は幸村を性的対象として捉えるようになっていた。幸村は恐ろしく可愛らしい。童顔ながら胸やお尻も大きく、女として十分発達しているように見える。

自分を見ると一目散に駆けてくる、一番の笑顔をくれる、どんな所にいても真っ先に自分を見つけてくれる。名前を呼んでくれる。

可愛い可愛いと思っているうち、政宗は幸村を「抱きたい」と思うようになった。

(……shit)

政宗は性行為しか思い浮かばない自分を叱咤していた。幸村とセックスしたいと正直に思いつつ、そんな事ではない何か、彼女の事を「何か」で表したい自分がいる。

彼女の事が、好きかと聞かれれば答えは分からなかった。

今まで自分に好きと言ってきた人は何人もいる。その度に受け入れるような振りをして身体を繋げ、繋げ繋げて「好き」という言葉を軽んじていた。

幸村に好きかと問えば、間違いなく「好きだ」と返ってくるだろう。けれど、政宗はどうしてもそれが納得いかなかった。

見境無く与えられてきた「好き」という感情が、彼女の好きと同等であると?それは彼女の自分に対する思いが軽くー…

母が父に使う「好き」と、同じである筈がない。






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