『花』小説2

□猫の恩返しC
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指に何度も、弱い力で噛みついてはじゃれてくる。

…訂正、結構強い力だ。

(こいつ…噛み癖あるんだよな…、)

膝の上で楽しそうにじゃれている黄金色の猫を見て、政宗は無表情のまま小さく溜息を吐いた。



『…政宗さ、最近傷だらけだよね』

『Ah?』

『ほら、手。俺様、政宗の手に傷ついてんの初めて見た』

『あー確かに。彼女〜?とか言いたいとこだけど、手に傷付けてくる彼女とかねえ』

『!まさかDV!?』



人の色恋に首を突っ込むのが大好きな友人二人が、嬉々として話しかけてきたのを思い出し政宗は更に態とらしく溜息を吐いた。

政宗は潔癖と言って良いほど他人に触らないし、触らせない。気を許した友人なら話は別だが、それでも幾らか人に一線を置いた風なやり取りが目立った。いつ見ても真っ新、殆ど乱れもなく生活している彼が(否、夜遊びは過ぎている)、最近人臭さを滲ませているのが気になってしようがないらしい友人達である。



「…お前の所為だぜ…?」



政宗は手元でじゃれている猫…幸村の頭を軽くデコピンしてやった。「ぶみ」と外見に似つかわしくなく不細工な泣き声を漏らした猫に、政宗の顔が僅かに緩む。本人が思っている以上に、彼は少しずつ変わっていた。

例えば、煙草を吸うと咽せる幸村に、気を使ってベランダに出て吸うだとか。例えば、幸村の好みの食事を用意するだとか、猫に優しい食材は何だろうと本屋に行って見るだとか。部屋の中には小さなぬいぐるみやボールが置いてあって、それらは全て政宗が通販で購入した物だった。夜遊びもあまりせず、大学が終わるなり帰宅するようになったのもつい最近で。

自分ではない誰かを、こんなにも気に掛けたことはあっただろうか。

…彼はそれすら気付かない程、幸村(猫)に夢中といっても過言ではなかった。






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