『花』小説2

□初恋G
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「…これで全部か、」



幸村は狭い路地で「ぱんぱん」と埃を払うように手を叩いた。彼女の目の前には若干汚らしい道筋…ではなく、小汚く汚れた男達が数人倒れている。



「よし、朝練には間に合うだろう」



道路上に落としていた鞄を肩に掛け、軽やかな足取りで明るく陽が差している方へと駆けていく。

幸村は全く気に掛けていないが、いじめが一段落した頃から今度は「襲われる」回数が格段に増えていた。何に襲われるのかと言えば、その大抵が暴力を振るうことしか脳のないちんぴらや不良達で。皆口々に「妥当真田幸村」と言うのだが、肝心の幸村にその心当たりはない。

幸村に自覚は無いが、校内で撃退した不良や街中で喧嘩を買ってしまったその他諸々。片っ端から叩き伏せていれば噂にもなるだろう。

そう、幸村は強かった。女の子とは思えないほどに。最初幸村を見た相手は、童顔で華奢な可愛い幸村を「雛の首を捻るようなもの」と油断した。それを逆手に取ったかは分からないが、幸村に全く歯が立たなかったのである。

噂が広まった事によって幸村に恨みを持つ者が増え、襲われる回数が増えたと言うわけだが、幾ら襲ってこようとも幸村自身が全く無傷で撃退してしまうのだからさして問題はない。

問題はない。幸村はそう思っていた。自分で解決できる問題だから、特に佐助や皆に言う必要はないと。

幸村は知らなかった。「噂」の内容が“2つ”に増えていることに。






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