1.M気質のシンデレラ



「あーぁ、ホント嫌になっちゃう。毎日毎日、雑用ばっか…」

ふぅ、と重いため息を吐き出しつつ、ルーシィは雑巾を絞る。
無駄にだだっ広いこの屋敷。
使わずに放置されている部屋も多い。

とはいえ、使ってなくても汚れは溜まる。
使ってないから掃除しません、という訳にはいかない。

「お父様もこんな屋敷、手放せばいいのに」

商取引があると出ていき、未だ帰ってこない父。
戻ってこない理由は商取引の問題か、…それとも。

「ルーシィ、ルーシィ!どこにいるの!」
「あぁ、また始まった…」

はーい、と声のした方へ返事をし、よっこらしょと腰を上げる。
さっきの声は多分「オカアサマ」だ。

「お呼びですか?」
「遅い!返事をしたら3秒以内に来なさい!」
「えー?お屋敷の端からここまでどれだけ頑張っても最短で10分はかかりますが」
「口ごたえしない!」
「でもジュビアお義母様…」
「お義母様と呼ぶのは止めなさい!」
「でも、おか」
「お黙り!!」

ルーシィを怒鳴りつけられるのはジュビアしかいない、という安直な理由で継母にされたジュビア。
初っ端からそのストレスがルーシィに一直線である。

「まぁまぁ、落ち着いて。おか…、じゃなかった。ジュビア」
「そうだよ。一応、目立つ意味では準主役なんだから」

ねー?と顔を見合わせて笑うのはルーシィの義姉2人。
左に立つのはドレスに身をつつんでニコニコしているミラジェーン。
右に立つのはタイトなドレスに派手なスリットを太ももまでいれたカナ。
お姫様みたいなドレスは着たくない、だそうだが、その格好もいかがなものかとルーシィはこっそり思う。

「馬車は玄関に用意してあるのかしら?ルーシィ」
「そういや、そろそろ出掛ける時間だな。思う存分飲むぞー!」
「カナったら。王子様のお相手探しパーティなんだからハメ外しちゃダメよ?」
「そんなの興味ない」
「あらあら」

ふふふ、と笑うミラジェーン。
王子を狙うつもりはないが、心を射止められるかどうかカナと勝負するらしい。
何とも悪趣味だ、と思ったりもするが、ルーシィに口を出す権利はない。

本日、お城で開かれる舞踏会は別名「王子の嫁探し」。
国中から年頃の女性が全て集められるらしいが、残念ながらルーシィは参加しない。

舞踏会といえば正装というのが決まり。
だが、ルーシィに与えられている服はボロのワンピース1枚だけだった。

「さぁ、行きましょう。ミラさん、カナさん」
「嫌だわ、お母様ったら。そんな他人行儀」
「そうそう。カナって呼べばいいって」
「そんな訳にはいきません!」

ガラガラと車輪の音を響かせながらお城へと向かう馬車を見送り、振っていた手を下す。
ようやくひとりきりの時間になったと、ルーシィはコキコキ肩を鳴らしながらふーっと息を吐き出した。
まだまだ仕事は残っているが、とりあえず邪魔される事はなくなった訳で。
それだけでも、かなり楽だ。

「やぁ、そこのお嬢さん。そんなに落ち込んでどうしたんだい?」

一難去ってまた一難。

ようやく自由時間になったのに話しかけてくるのはどこのバカだ!とルーシィは勢いよく振り向いた。
そこに佇んでいたのは、見るからにあやしい年齢不詳の青年。
見た目だけは一応悪くない。

「…あんた誰」
「冷たいなぁ。見れば分かるでしょ」
「黒スーツに金髪の?どこのホストの営業よ。お金持ってないから無理」
「違う違う」

スッと片足立てて跪き、手を差し出すホスト。
ルーシィの全身にぞわっと鳥肌が立った。

「僕は君を素敵なレディに変身させる為の魔法使い」
「用事はありませんのでお帰り下さい。では」
「え、ちょっと、待…っ!」

返事を聞くまでもなく、ダッシュで玄関先へと飛び込み勢いよくドアを閉める。

「ルーシィ!話を聞いて!君も舞踏会へ…!!」
「舞踏会へ行くつもりはありません!」
「そんな嘘つかなくてもいいんだ!僕が魔法で服も馬車も全部用意してあげるから!」
「絶対にいらない!」
「なんで!?」
「おいしい話には裏がある、騙されるなってお母さんの遺言!」
「えぇぇぇぇぇぇ、違うから!僕だけは信じて!」

ドンドンと乱暴に叩か続けるドア。
しばらく放置してみたが、止めるつもりは毛頭ないらしい。
どれだけ騒がれたとしても文句を言ってくるようなご近所さんは近くにないが。
(というか、敷地が広すぎて隣のお屋敷ははるか彼方だ)
ようやく手に入れたひとりの時間を邪魔する奴は、例えこの国の王様であろうと許さない。

ドアノブを回し、重いドアをゆっくりと少しだけ開ける。
僅かに出来た隙間から視線が合い、相手がホッと笑顔を浮かべた瞬間、ひとこと。

「ピーーーーーー」(自主規制)

相手がビシッと硬直したのを確かめ、ドアの鍵を2重ロック。
ついでにセキュリティ会社のスイッチもオン。
(最近は物騒だからね)

オカアサマ達が帰ってきた時、もし寝てしまっていたらセ○ムが飛んでくるけど、まぁそれも仕方ない。
諦めて捕まってもらえば問題ないだろう。

「さーて、早速少し寝よー」

ベッドにごろんと寝転がり、ふかふかのお布団に顔を埋める。
窓の外でカサカサしている黒スーツがセコ○に連行される場面を想像しながら、ルーシィは瞼を閉じた。

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2014.05.02

勢いだけで書いた。
後悔している。
ごめんなさい。

拍手ポチありがとうございました。








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