Main<book>

□雑然紛然
1ページ/7ページ


■365のログ抜粋。

捧げ物。※お引き取り済


ゆん様へ捧げるこぶるー

▽第一弾。

―…ヒトの心など、読めなくていいと思っていた。

笑顔を浮かべて。偽物の言葉ばかりを並べて。
その実、裏で考えている事は反吐が出る程に醜悪で。

それは自分が“ヒト”であるという事すら、認めたくない程に。

「俺はお前さえいればいい、…なぁ」

すり、と顔を寄せてくるキュベリオスの頭を、そっと撫でる。
コイツは、コイツだけは。
俺を裏切らない、穢れた心を持ったりしない―…。

だから、ずっと俺はコイツとだけ生きていくんだと思っていた、のに。

「ったく、何辛気臭い顔してんのよっ」

突然現れたあいつは。
自分の思いに正直で、嘘偽りの言葉など、何ひとつ口にしないで。
ただ真っ直ぐ、俺の目を正面から見つめ、笑っていて。

「もっと、顔を上げて生きなさい!」

さらり、と。その金糸の髪が揺れ。
その髪に太陽の光が反射して、とても綺麗で。
まるで太陽が降りてきたような気すらして。
思わず、息が止まったといったら。
お前はどんな事を思うのだろうか―…。



▽第二弾。

「きゃ、突然何よこの雨!」

予告なく、青空から落ちてきた雨粒に、町行く人は皆一様に迷惑そうな表情を浮かべ、逃れられる場所へと駆け出す。
その心の中は、“迷惑”だと文句を言うものばかり。

―…この雨に、どれだけ恩恵を受けているんだ。貴様らは。

都合が悪い時は切り捨て。
無くて困れば、請うくせに。

何て身勝手な生き物。

今更知る必要もない事にため息を落とせば、雨の中、響いてきたひとつの“声”。

『綺麗ー…』

何気なく向けた視線の先、雨の中に佇んだ金色の髪。
落ちてくる雨をまるで掴もうとするかのように手の平を空へと向けるその姿に。
驚き、思わず見つめ続けてしまう――…。



アル様に捧げる夕暮れ時の2人

「きゃ、っとと」
「おねーちゃん、ごめんねっ」

街角から飛び出してきた小さな体に驚き、ルーシィは思わずよろめく。
走り去るその子へ“気を付けて帰りなさいよー”と声を掛ければ。
“お姉ちゃんも!”と振り返りざまバイバイと大きく振られた小さな手。

ちゃんと家に帰るかしら、と何気なくその背中を見送り。
少し先の民家から出てきた女性に受け止められたのを確認して、視線を外した。

「…綺麗な空」

見上げた先、地平線まで続く空は、見渡す限りオレンジ色。
花の咲き乱れる季節になって、もうすっかり肌寒さ感じる事もなくなって。
1日の時間も、少しずつ。でも確実に長くなって。

今日もまた。ひとりの時間をほんの僅かだけ持て余す。

「あーぁ、何だか寂しくなっちゃったなぁ」

こんなにも空は綺麗なのに。
部屋へと向かう足は、少しだけ重くて。
1歩。1歩。また、1歩。
地面を踏みしめていたルーシィの足がその場にぴたり、と止まった。

「…もう少しだけ」

せめて太陽が沈むまでは。
人の気配が溢れるこの街中にいようか。

ここにいればきっと、大丈夫だから。

くるり。部屋へと向いていた体を翻せば。
オレンジの中にぽっかりと浮かび上がった桜色。

「よう、何やってんだよ。ルーシィ!」
「ナ、ツ?」
「どうしたんだ?忘れ物か?」

にかっ、といつも通りの笑顔を浮かべて。
高く上げた手を、ぶんぶんと勢いよく振り回すナツ。
なんでここに、とか。どうしてこのタイミングでとか。
次々と喉元から飛び出そうとしたけど。

ルーシィは全てこくりと飲み下して。
気を抜けばうっかり緩んでしまいそうな頬を引き締めて、顔を上げる。

「べっつにー。何だか嫌な気配がしたから振り返っただけよ」
「嫌な気配?何かあるか?」

きょろきょろと辺りを見回すナツに。
ルーシィはくすりと笑って。

「どこかの破壊魔さんのねー」
「…って、オレの事かよ!」
「あら。一応自覚はしてるのね」
「うがー!オレは破壊魔なんかじゃねぇー!」
「へぇ?町を半壊させた人が?報酬ゼロにした人が?」
「うぐっ。…あぁっ、もう帰ろうぜっ!」

「ナ、ナツ!?」

悔し紛れだろうが―…。
乱暴にルーシィの腕を掴んだナツのそれに、ぐいぐいと引っ張られ。
ナツの動きに合わせて、力強く見事な弧を描く自分の腕。

オレンジ色の景色の中に。
ぽん、と現れたピンク色。

まるでこのオレンジの世界は、ピンク色の炎が放つ光のよう。

「痛いってば、ナツ!」
「早く帰ろうぜー、腹減った」
「ちょ、ちょっと。私の部屋で食べるつもり!?」
「いいだろー。ひとりで食うよりふたりの方が絶対にうめぇって」

なぁ?と向けられた笑顔は、どんな意味があるのか。
きっとナツの事だから、深い意味なんてないと。…そう思うのだけれど。
それでもちょっとだけ心が軽くなったような気がして。

「ったく。…文句、言わないでよ」

ふわりとひとつ。
ルーシィは、幸せそうに笑った。



歌海様、お誕生日記念

「ロキ…?ちょっと、どうしたの!?」

先ほどの戦闘でかなりの魔力を消耗したからと、星霊界へ帰ったロキ。
自ら召還した門の向こうへと消えたハズなのに、すぐにひょっこりと現れたその姿にルーシィは何事かと詰め寄った。

「ん〜、ちょっと。ね」
「まだ魔力戻ってないでしょ!?」
「そうなんだけどー…」

間近から覗き込むルーシィの視線を外し、天井を見上げるロキ。
バツが悪そうに頬を掻くのは、自覚があって悪さをしている時のロキの癖だ。

「ロ、キ」

襟元をぐっと掴み引き寄せる。
まるでキスしようかという距離まで迫ったルーシィの唇なのに。
その表情も、唇の形も、甘い雰囲気のソレではなくて。

「…だってー」

しゅん、とうなだれたロキ。
それをただ無言でルーシィは睨みつける。

ルーシィは彼の魔力が限界である事も。
その体が深く傷ついている事も、十分知っていた。
だからこそ、星霊界でしっかり魔力の回復をして欲しいと願うのは、オーナーだからという理由だけではなく。
ロキの事を、特別な相手だと認めているからだ。

それなのに、この星霊ときたら。

肩を落としうなだれるロキを見つめる事、しばし。
はーっという深いため息と共に、ルーシィは“仕方がない”と視線を和らげる。
魔力も乏しい体で、残り少ない魔力を使って、自らゲートを開いて人間界へやってきたロキ。

その理由は多分、自惚れではなく――…。

「ほら!何の為に来たの!」
「そ、それはっ、…って、ちょ、ちょっとルーシィ!?」
「まだ立ってるのも辛いくせに。―…無茶し過ぎよ」

突然、横から首をかっさらわれて。
驚き反応する間もなくぽすん、と柔らかな場所に受け止められたロキの頭。

「………ぇ?」
「とりあえず、―…寝なさい。今は」
「…怒らない、の?」
「今は、ね」

ふわりと受け止められたルーシィの膝の上。
その柔らかさと温もりに、ロキはゆっくりと目を閉じ背中を丸める。
ルーシィはそんなロキの髪を優しく撫でながら、くすくすと小さな笑い声を残して本を開いた。

ぱらぱらとめくる本の音すらも、子守歌のように。

「お休み、ロキ」

弱った時ほど、愛おしい人の傍にいたいと願うのと同じように。
弱っている愛しい人の傍にいたいと思ってしまうのも、また恋心。

「大好きだよ、ルーシィ」

ばか、と小さく返ってきた返事を受け取って間もなく。
ロキは深い微睡みの中へと意識を落としていった――…。



夏初月様、お誕生日記念

向かい合って手を合わせる。
視線を絡ませ微笑みあう。

一見すれば“ロマンチック”かもしれないが。
その実、会話の中身は別に特別なものではない。

「関節1つ分ぐらい違うのねぇ」

大きさの違いを面白そうに笑うルーシィ。
そんな彼女を見つめているロキの視線も、楽しそうに。

「そりゃ、一応男だからね」

くすくすと笑い、ルーシィの動きを目だけで追う。

右に左にと位置を変え、角度を変え。
合わせた手の平に意識を集中しているルーシィ。

何がそんなに不思議なのだろうか、…と思ったりもするのだが。

「―…っ、ちょ、ちょっとロキ…!」
「なぁに?」

ルーシィの顔が赤く染まっているのを知りながら。
いつも通りの笑顔を浮かべたまま、つぅ、と指の腹でラインを辿る。

ぴくっ、と揺れた手のひらと、ふるり震えた体。

手に集中している今なら隙だらけだな、と感じたのは間違いではなかったらしく。
僕からの不意打ちに、ルーシィの頬がかぁ、と赤く染まった。

「…えっち…っ」
「どうして?僕は指に触れてるだけだよ?」

互い違いに差し込んだ指で、ルーシィの甲を引っ掻くように触れる。
途端に恥ずかしいと言わんばかりに細められた瞳と、逸らされた視線。
薄っすらと開かれた彼女の唇から零れ落ちるのは。

―…ほんの僅かに、艶を滲ませた吐息。

「ルーシィってば。…なに考えてるの?」
「なっ、何も…!」
「そう―…?」

逃げようと手を引いたルーシィの抵抗を押さえ込んで。
引き寄せた反動のまま、とん、と飛び込んできた柔らかな体を受け止める。

「思い出してるんでしょ?」

“何を”、などと言わなくても、十分伝わる。
重ねた手。絡めた指。
逃がさない、と彼女を捕えたのは、記憶に新しい昨夜の――…。

「…っ!バ、カ…ッ」

必死に突っぱねるルーシィの腕を易々と閉じ込めて。
くすくすと、楽しそうに笑いながら目の前の顎を捉え、その視線を絡め取る。

こくり、と喉を鳴らしたルーシィの瞼が、そっと下ろされたのを確認して。
僕はゆっくり、彼女へ唇を寄せた。

「好きだよ、ルーシィ」

重ねた唇の合間から伝えた告白の言葉は。
首に回された彼女の腕とより深く重なった唇に、吸い込まれていった。



ナギ様、お誕生日記念

あと1歩。たった1歩なのに。
踏み出す勇気が、なくて。

前後に揺れる手さえ繋げなくて。
空を切った手の平を握り締める。

別に戸惑う必要なんかないのに。

「どうしたの?」

向けられた視線を外して誤魔化すしかないオレ。
誰かが見ていたら、意気地なしだと笑うのだろう。

「…いや、何でもねぇ」

ズボンのポケットに両手を乱暴に突っ込んで。
興味ない素振りで、のらりくらりと歩く。
ほんの少しだけ前を歩くルーシィの背中で揺れる、金色の髪。
サラサラと音を立てる度に、きゅっと締め付けられる心臓が痛くて。

浅くなった呼吸に、酸欠になった喉が喘ぐ。

「変なグレイー」

空を見上げたオレを、くすくすと笑うルーシィ。
どうしてそんな事をしているのかなんて、気付きもしないで。

楽しそうならばそれでいいかと思えてしまうのもどうかと思うが。
それが一番大切な事だと思ってしまうのだから。

「好きに笑え」

仕方がないと肩を竦めて、ルーシィの後ろを歩く。
時折、思い出したように振り返るルーシィへ視線を向けて。
“ちゃんといるから安心しろ”と、笑いかける。

不安そうに振り返った瞳は、それだけで安心したように微笑み。
また前へと戻りながら、歩み始める。

そんな仕草ひとつひとつが胸に引っかかって。
やっぱりもう一度、手を差し出すのだけれど。

「情けねぇなー…」

舞い戻った手を握り締め、自嘲を込めてぽつりと零す。

ただ、踏み出せばいいだけなのに。
ただ、手をまえればいいだけなのに。

ひらひらと、まるで飛び跳ねるかのように足を進めるルーシィの背中。
角を曲がった彼女の肩越しに太陽の光が目に飛び込んできて。
あまりの眩しさに一瞬、手を翳して視界からルーシィを外す。

手を下ろして再び前を見つめた時。
その後ろ姿が見当たらない事に、慌てて周囲を見回した。

「ルーシィ!?」

外したのは、ほんの一時の事だったのに。
姿形も、それこそ気配すら消え失せていて。

だから、捕まえておけば良かったんだと後悔しても、遅い。

ずっと一緒にいてくれるなんて、勝手に安心して。
その手を離していても平気なんだと強がって。

素直になれなかった、自分。

「どこへ…?」

駆けだそうと足に力を込めた時。
とす、と背中にぶつかってきた衝撃。

前へと回り込んできた見覚えのある腕に、ホッとして。

手を重ねて、指を絡ませる。
ルーシィの手にも力が込められて。

「もう離さないでね?」

背中から届いた声に。
グレイは“あぁ”と力強く頷いた。





お引き取り済みのログ。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ