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□多情多恨
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マスター・ボブの言葉が、心に刺さる。
『星霊にも心があるのよ。カレン』
―――そんな事は、オーナーである私が一番知っている。
私の自分勝手な想い。願い。決断。
誰にも理解されないと分かっている。
だから、理解して欲しいだなんて望まない。
『本当にそれでいいのかい?カレン…』
寂しそうな笑顔を浮かべたヒビキに。
何も言葉を返せなかったのは…何故なのだろうか。
◆多情多恨(たじょうたこん)◆
(カレン+ヒビキ)
「今日も綺麗だね、カレンちゃん」
「その美しさは罪だよ、カレン」
「マイハニー、カレン。ボクに微笑をっ」
ギルドに踏み入れた途端に纏わり付いてくる鬱陶しい奴ら。
白々しい笑顔を浮かべて、媚びへつらってくる。
へらへらと笑うその顔の下にある欲にまみれたドス黒いその本心。
その体を引き裂いて全てを白昼の元に曝してやりたいと思う。
―…こいつらが私へまとわりつく理由は、分かっているのだ。
「開け、白羊宮の扉、アリエス!」
星霊が姿を現した途端、一斉に移動する男ども。
吐き気がする。
汚い。汚れた心。汚れた男達。
泣きそうになっているアリエスの顔が視界の隅を横切る。
―――アリエス。
きっと貴女は、私を恨んでいるだろう。
心の底から憎んでいるのだろう。
それでいい。
私を憎んで憎んで。
恨むだけ恨めばいい。
貴女が私をそう思うように仕向けているのだと言ったら。
貴女はどんな事を思うのだろうか。
「僕達は物じゃない。君の駒じゃない!」
勝手にゲートをくぐってきたレオが悲痛な顔でそう叫ぶ。
言われなくても分かっている。そんな事ぐらい。
全て承知した上で、そうしているのだ。
「それがどうした?お前達は所詮ただの駒なんだよ!」
言い放った私を睨んで、ぎりりと唇を噛み締めたレオ。
悔しいだろう。哀しいだろう。辛いだろう。
こんなオーナーと契約した自分を恨んでいるのだろう。
―――それでいい。
「星霊のくせに!!」
身を翻した私の背中を、ずっと睨み付けている視線を感じる。
殺気立ったその視線の意味など、考えなくても分かる。
自分の魔力でゲートをくぐってきたレオ。
自分の命をかけて、私を変えようとしているレオ。
―…すまないねぇ…レオ。
お前の望みは、叶わない。
そう私が決めているから。
“変わらない”んじゃない。
“変えない”んだ。
レオが人間界に居座り続けて3ヶ月。
私を恨み続けて、3ヶ月。
―――もうそろそろ、大丈夫だろう。
「死にたいのなら勝手にすればいい!!」
星霊界へと帰りそうにないレオに言葉を吐き捨てて。
もう2度と会うことがないであろう星霊達の。
ひとつひとつの顔を、脳裏に思い描いて。
「…さよならだ、レオ」
聞こえないように、そっと呟いて。
ひとり、クエストを受けた依頼者の元へと向かう。
レオが人間界にいる以上、他の星霊は呼び出せない。
星霊のいない私は、確実に死ぬだろう。
クエストの内容を見ればそれぐらい分かる。
でも、だからこそ。私は行く。
大切な星霊達が次こそは幸せになるようにと。
そう心の底から願いながら―…。
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2010.12.10
暗い話で申し訳ありません…;;
唐突にダークになりまして、カレンが降ってきました。(笑)
今回のSSではカレン実はいい人っていうオチです。ヒビキも出てきます。
次はヒビキ視線。