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□落花流水
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「寄らないでっ!こっち来ちゃ駄目なんだからぁぁぁ…っ!」

「…え……?」



差し出した右手が、虚しく空を切る。

手の先にいたルーシィは僕を振り返ることもなく猛ダッシュで逃げ。

その後姿は、あっという間に豆粒ほどに小さくなり、見えなくなる。



「…お前、ルーシィに一体何したんだよ」

「ロキ、謝るのなら早めに謝るんだぞ」



左右をグレイとエルザに挟まれ、肩にぽんとグレイの手が置かれる。

その上から目線の癇に障るグレイの手を思い切り払ってやりたいところだが。

今はそんな事はどうでもいい。



「ちょ…、ルーシィ、待って………っ!!」



木々の向こうへと消えてしまった後姿を追いかけて。

その姿を捕らえるべく、全力で駆け出した。





◆落花流水(らっかりゅうすい)◆
 (ロキ×ルーシィ)





太陽が空でさんさんと輝く昼下がり。

今が初冬だというのを忘れるぐらいに暖かく。

更に空気は冬らしく乾燥していて、心地よい。

こんな日はルーシィと2人、湖の畔でデートしようかなぁ〜、なんて妄想を膨らませながらフェアリーテイルへ足を踏み入れて。

ギルドでルーシィの姿を1番に発見した事に、“今日はラッキー”なんて思いながら近寄ったら。

―――いや、正確には近寄ろうとしたら。



猛ダッシュで、逃げられた。



そして。

ルーシィの後姿を追いかけている今に至る。



「あ〜…、ルーシィに何かしたっけ〜…?」

ぐるぐると必死に考えながら、徐々に近付いてくる後姿を見つめ続ける。



ルーシィに嫌われるような“何か”。

彼女が近寄るなと言いたくなる様な“何か”。

最近の彼女との日々を片っ端から思い出してみるものの。



―…さっぱり、何ひとつとして思いつかない。



この間、2人で買い物に行った時も。

ご飯を食べに行った時も。

彼女の部屋でいちゃいちゃ(死)していた時だって。

ルーシィは何も拒否なんかしていなかった。

むしろ、照れ笑いなんか浮かべて嬉しそうにしていたのに。



忘れていない。

最後に彼女に会った時も、ルーシィは“いつも通り”だった。

なのになぜ、今僕はこうして彼女を必死で追いかけているんだろう。

まったくもって理由が分からない。



とりあえず、今のままでは僕に近寄ってくれないのは間違いなくて。

そんな生き地獄のような日々はまったくもって勘弁して欲しくて。

だから、1秒でも早く解決する為に死に物狂いで走った。



走って。走って。ひたすら追いかけて。



「…きゃ…っ!」

後から、その左手を掴まえた。



ルーシィは、僕に掴まれた腕を滅茶苦茶にぶん回し。

体を全体重をかけて仰け反らして、必死に手を外そうと足掻く。

ここまで拒否される原因は何なんだろうなんて少し不安も抱えながら。

暴れるルーシィの両手を何とか押さえ込んで。

その表情を覗き見ると。



「あ、れ?」

―…真っ赤…?



こういうのを茹蛸のように真っ赤になってるというんだな、なんて思えるほど。

それはもうそりゃあもうこれ以上ないぐらいに見事な赤色。

加えてこの表情は、怒っているというよりも………、照れてる?



「やーだっ!はーなーしーてーーー!!」



とりあえず怒っているんじゃないと分かって気が抜けたら。

僕の中に、ちらりと悪戯心が顔を出した。



両手両足をジタバタさせてもがくルーシィを。

がしっと、両手で抱き締めて。

その耳元へふ〜っ、と。

―――息を吹きかけてやった。



「……うにゃあぁぁ!」



全身から力が抜けたらしいルーシィが、その場にぺたんと座り込む。

そして、その赤い顔のまま耳を手で押えて僕をじろりと睨み上げた。

…とは言っても、可愛いだけなんだけど。



「………ロキのえっち!」

「えっち!?」



この紳士な僕を掴まえて“えっち”なんて…心外もいいところだ。

ルーシィにあれやこれやそれこそあんな事までしてみたいと思っているのを必死で我慢してるのに。

付き合い始めてまだ日が浅いから、手も出さずにいるこの僕の自制心を褒めてくれてもいいぐらいなのに。



僕もしゃがみ込んで、ルーシィと視線を合わせる。

少しだけうろうろと視線をさ迷わせた後、ルーシィは。

ぷうっ、と頬を膨らませて僕を睨んだ。

(そんな顔しても以下同文)



「ロキの視線がえっちくさいのっ!」

「気のせいだよ〜」

(視線がえっちくさいって…どうしようもない気が)

「絶対変なこと考えてる!」

「変な事なんて考えてないよ〜」

(それは痛いところだが、今はあえて肯定しない)



「それで何で僕から逃げる事になるの?」


―…一呼吸置いたルーシィが。






「…だって…ロキ見るとドキドキするんだもん…」



ぽつりと恥ずかしそうに。

僕から視線を外して、明後日の方向を見ながら呟いた。



―――僕の中で、何かがぷつんと切れた音が聞こえた(気がした)。



ルーシィを無言のままがしっと掴んで。

肩に担いでそのまま連行。

耳元で聞こえる抗議は聞こえないフリして。



「…え…っ、 ちょ、ちょっとロキ…!?待ってっ」

「もう待たない」



理性の吹っ飛んだ僕がルーシィを襲ったのは。

―…僕のせいじゃないよね?




意 味: 落ちた花が水に流れるということから、過ぎて行く春の景色のたとえ。転じて、男女が相互に慕いあうこと。

********************

2010.12.03

残業続きでぶっ飛んだ脳みそが暴走しました。

砂糖吐きそうです。バカップルです。そうですね。

私の人生に潤いが足りないせいだ。あぁぁ。

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