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□膏火自煎
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「うんっ!とっても美味しいわよ、ルーシィ!」

「ホント!?良かった〜」



カウンターから黄色い声が上がる。

向かい合う2人の間に何やら広げられた包みと黒いモノ。

ギルドに入ってきて直行、ミラの元へと向かったルーシィ。

それよりも手前にいた俺を無視して、だ。



―何やってんだ?ってか何だアレ。



まず最初に俺のところへ来てもいいだろ、なんて思いながら立ち上がる。

かすかなヤキモチ。

「おや?美味しそうなものがあるね。ルーシィが作ったの?」

「ロキ!」

いつの間にか、ルーシィの横でその物体を覗き込んでいる影ひとつ。



…って、お前どこから湧いてきた!?



「そうなの!久しぶりに作ったんだけど…ちょっと自信がなくて」

「そう?とっても美味しそうだけど」

「えへへー。そう?」

なんて、嬉しそうに破顔させるルーシィ。

思わずカウンターへと歩み寄っていた足が止まる。



「どれどれ。僕もひとつ頂いていいかな?」

「ん!はい、どうぞ」



ルーシィがひとつ摘んでロキへと差し出した。

俺はその手を。



「なっ!何やってんのよ、グレイ!」



彼女の手ごと、ソレに食らいついた。

途端、口の中一杯に広がるチョコレートの味とくるみの香ばしい香り。



「甘ぇ…」



正直、甘いものは得意じゃない。

というか、はっきり言って苦手だ。

久しぶりに口にした甘さに、思わず落ち込む。



「文句言うなら食べないでっ!」

「…何これ」

「ブラウニーよっ!」



カウンターの上を見ると、キューブ状に切り分けられた焼き菓子のような物。

口に広がったチョコレートの味からして、ふんだんにチョコレートの使われているお菓子のようだ。



「せっかくルーシィが作ったものにケチつけるなんて。グレイも失礼な奴だね」

「ホント!文句言うなら食べなきゃいいのに」

『ねー』なんて顔を合わせて頷く2人。

チョコレートの味が充満した口元を押さえながら、じろりとロキを睨む。

そんな俺を見て、ロキはふふんと不敵な笑みを浮かべた。



―…むかっ!



「じゃ、改めて頂きます」

そう言って、ロキが摘み上げたソレを。



「だから、アンタは何やってんのよ!?」



今度はロキの手から直接食ってやった。

(あまり気持ちがいいものではないが…)



「やっぱり甘ぇ…」

「お菓子なんだから、甘くて当たり前でしょ!?っていうか、文句あるなら食べないでよっ!」

ぷりぷりと怒りを露わにするルーシィ。

せっかく作ったものを良く言われなきゃ、気分を害するのは当然だろうが…。

「そうはいくか」

「はあっ!?」

“何訳わかんない事言ってんのよ、アンタは!”…なんてルーシィの文句が響くけど、俺はあえて無視。

口にある固まりを必死に噛み砕いて飲み込んだ。

カウンターの向こう側には、にこにこ笑うミラジェーン。

…もしかして、気付かれて…?



「グレイったら、もっと素直になったらいいのに」

「っ!!」

「ミラさん?」

「ルーシィ、グレイったら…」

「わーーーーーっ!!!」



頼むから言うな、ミラっ!

こんなところでそんな事言われたら立ち直れないっ!



「くすくす」

「何ですか、ミラさん」

「ううん、止めとくわ」

“言ったら私が凍り漬けにされちゃいそうだし”…なんて、サラリとヤバい事を言う。

とりあえず、ミラの口を塞げた、なんてホッとしたのもつかの間。



「おー、ルーシィ!何だそれ!美味そうだなっ!!」

「あぃっ!」



…出た。

食い物と見ればどこへでもすっ飛んでくる滅竜魔道士!

今日は仕事で来ないと思ったのにっ!!



「オレも食っていいかー?」



なんて、さも当然とばかりに手を出そうと…。



「だぁぁぁっ!!」

俺はガッと包みを掴むと、一気に残りを口の中へと詰め込んだ。



「あぁぁぁぁっ!!何してんだよ、グレイ!!」

「…グレイ、少々おイタが過ぎるんじゃないかい…?」

がしっ、とナツとロキに首を捕まれ。

「さぁ、出せっ!出すんだっ!!」

「そうだぞ、グレイ!吐ーけー!!」

ぐわんぐわんと頭を揺さぶられる。

口の中の甘さに加えて、頭を揺さぶられる浮遊感。

思わず“うっぷ”となるが。



―…何が何でも吐かねぇっ!!



俺は若干、涙目になりながらも必死でソレを飲み込んだ。

後に残ったのは、口一杯のチョコレート味。

目的を果たせた達成感と、一気に飲み込んだ息苦しさから荒い呼吸を繰り返していると。

背後にゆらりと不穏な気配が2つ。



「君にはお仕置きが必要だね…」

「グレイっ!お前、何すんだよっ!許せねぇ!」

パリパリと光を放ち始めるロキの手に、炎を纏ったナツの両手。



「ふふんっ、知るかっ!」



すかさず応戦体制へと切り替える。

あとはいつもと変わらない風景。



「ほんと、グレイも素直になればいいのに」

「ミラさん?」

「グレイはヤキモチ妬いてるのよ」

「はぁっ!?」

「ルーシィが作った物を誰にも食べられたくなかったんでしょうね〜」

“私は女だから除外かしら?”なんて、うふふ、と笑う。

「…そっ、そうなのかな…」

顔を真っ赤にして俯くルーシィ。

ちらり、と背後で乱闘を続けるグレイを覗き見る。

真剣な顔で戦っているその姿を見て、ふふふっと笑った。




◆膏火自煎(こうかじせん)◆
 (ロキ→グレイ×ルーシィ←ナツ?)



「テメェだけは絶対に許さんっ!」

「おぉ!?やってみろよっ!」

「そんな事言ってられるのも、今のうちさ…」






こんなグレイが見られるのなら、またお菓子作ってこようかな〜、なんて。

恐ろしい事を考えているルーシィを、グレイは知らない。




■意 味:自分自身の才能によって災いを招くことのたとえ。


********************

2010.10.20

コメディになってしまいました…。

こんな一幕があってもいいかなぁ、なんて思ったもので。

グレイは煙草吸っているので、あまり甘い物は食べなさそうだなーと。

あー、ブラウニー食べたいなぁ。

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