お題<book> 1

□舐める
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※舐め※ (ヒビキ×ルーシィ)









「ヒビキ、あーん」

「………ぇ」

「いいから、ほら!あーんして!」

「あーんしてって…今、ここで?」

「そう!」



僕の正面からにこにこ笑顔で見つめてくるルーシィ。

とても楽しそうなその様子にこちらまで笑顔になってしまいそうだけれど。

今は、それよりも。




「…なんで、今ここでしなきゃいけないのか聞いてもいいかな?」




今、僕の背中に無数の殺気籠った視線が突き刺さってるのを感じながら。

とりあえずルーシィへと疑問を投げかける。

ここは、いわずとしれたフェアリーテイルのギルド内。

今日はギルドで過ごすという彼女の傍にいたくて(他の男共に対する牽制も込め)、ルーシィのところへ訪ねてきたものの。

2人でテーブルについた途端に、“あーん”っていうのは。

いくらなんでもさすがに……抵抗が、ある。



戸惑う僕を前に。

笑顔のまま、眉間にきゅっとしわを寄せるルーシィ。



―――あぁ、その笑顔が怖いよ。ルーシィ。



「嫌ならいいのよ。嫌なら」



僕からふいっと視線を逸らしたルーシィが、ぐるりとギルド内を見渡す。

そして、こちらの様子を窺っていたグレイ(敵その1)とバチッと視線が合ったのが見えた。途端。

ルーシィが僕に対してくるりと背を向けた。



―…何だか嫌な予感がする。



僕の予感は、自慢じゃないがほぼ完璧な確立で当たるんだ。

きっとこれからルーシィが何か僕にとって良くない事をしようとしてる。



そしてその予感の理由は、すぐに判明。



僕に背を向けたルーシィが。

それはもう見事なまでのご機嫌な声で。



「グレイ〜、こっち来て〜」



なんて、ソイツを呼び寄せる為に声を掛けたんだ…っ。



「ちょ、待ってよルーシィ!」

「…なによヒビキ」

「何って…。何でグレイ君を呼ぶ訳?」

「ヒビキが“あーん”しないから」

「しない、から?」



僕を振り返ったルーシィが、相変わらずの笑顔で微笑んでくる。

その背後にどす黒い気配がある気がするのは…僕の気のせいだと思いたい。



「分かった。ルーシィの言う事に従うから」



こうと決めたら梃子でも動かないのがルーシィのいいところ(?)。

諦めて“ギブアップ”と万歳をした僕に、ルーシィは満面の笑顔を浮かべた。

とりあえずライバルがしゃしゃり出てくるのを止められた事にはホッとするが…。



「じゃ、あーん」



繰り返される同じセリフに少しだけ(こっそりと)ため息をこぼして。

僕は大人しく口を開けた。

―――さすがに、恥ずかしくて目を閉じたけど。



「えいっ」



なんて、可愛い掛け声と共に口の中に何かが放り込まれて。

開けていた口を閉じたと同時に、覚えのある甘い味が口一杯に広がる。

これは――…。



「チョコレート?」

「どう?美味しい?貰い物なんだけど」

「あ、うん。美味しいけど」

「変な感じとかしない?」

「え。…いや、別に普通だけど」

「ホント!?良かった〜」



僕の返事になぜだかホッとしたような表情を浮かべるルーシィ。

ただのチョコレートなのに、なぜそんな安心したような顔をする…?



「これ、美味しいから食べてって言われたけど、ちょっと怖くて〜」



ドン、とテーブルの上に出されたのは。

大きめの箱の中に色とりどりの丸やら四角やらの形をした…。



ソレハナンデスカ?



「ルーシィ、今僕が口にしたのって…?」

「そう!コレ!!」



ルーシィが箱からそのうちの1つを取り出して、僕へと差し出す。

それは見事なまでに凶悪な色をした物体。

その色からは、食べ物である事なんて微塵も想像つかないもので。

口の中に残る味は、確かに極上とも言えるチョコレートの味、なんだけど。

それがアレだと思うと…ちょっと、気分が悪くなってきたような気がするようなしないような。

早い話、―…僕は毒見役、か。

まぁ、でも。



「良かった。ヒビキが食べてくれて安心したわ〜」



これ以上ないほど見事な笑顔で微笑むルーシィを見られたのなら。

―――毒見役でも良しとしますか。



それでも、やっぱり。

やられっ放しじゃ“男が廃る”、よね?



「ねぇ、ルーシィ。もうひとつ貰ってもいい?」

「え、これ?うん、いいよ〜」



箱の中からひとつ、手で摘み上げて僕へと差し出す。

予想通りのルーシィの行動に僕は心の中でこっそり笑みを浮かべながら。

大人しく差し出された物体を口にする。

体温ですぐにとろりと溶けるその物体は、口に入れた途端にその姿を消し。

そして想像した通り、摘まんでいたルーシィの指先にもソレは付いていて。



「ルーシィ、指に付いてるよ〜」



にっこりと笑いかけながらソレを指差し。

“え、どこ?”なんて自分の指を確かめようとしたその腕を捕まえて。



ぱくっと。



「ひゃわっ!?」



一気に真っ赤になったルーシィを横目に。

見せつけるよう、わざと口に含んだルーシィの指をゆっくりと舌先で舐め上げる。

付いてたソレがなくなっても。

ソレが付いていない指も。

ルーシィの瞳を見つめたまま、ゆっくりと。丁寧に。



そして、時間をかけて小指の先まで堪能してから。



「ごちそうさま」



パッと手を放して、ルーシィへとにっこり笑顔を向ける。

当のルーシィは、といえば。

真っ赤になって、ぷるぷるして、毛を逆立てて…?



「ヒビキのえっち!!」

「えー、酷いなぁ。あーんしてって言ったのはルーシィでしょ?」

「そそそそっそうだけど!誰も指を舐めろとは言ってないーっ!!」

「何を今更。こんな事で恥ずかしがらなくても夜にはあんな事やこんな事も…」

「いやーっ!何を言う気なのあんたはー!!」

「現に昨日の夜だって…」

「きゃーっ!!いやぁぁぁっ!!」








『どっか外でやってくれ!!!!』







「ん?」

「あ」



周囲から一斉に響いた声に。

僕とルーシィは同時に振り返り。

そして。

ここがギルドであったことを思い出したルーシィが全身からぷしゅーっと蒸気を出してしゃがみ込んで。

僕は、野次馬達の視線の中に紛れる嫉妬混じりの殺気立った視線の主達を見つめて。

ふふん、と唇の端だけを上げて笑う。

途端にぎりっ、と歯軋りをした音が聞こえた気がしたのは、多分、気のせいなんかじゃない。



―――ルーシィは僕のものなんだから、手ぇ出すなよ?



勝者としての笑みを浮かべた僕を。

きっと君は知らない――…ね?

********************

2010.12.28

ただ単にいちゃついてるだけですね。あはははは。

このお題は誰で書くか悩みました…。

できれば今までに出た人は外したかったので、消去法で決めたらヒビキに。

ある意味、一番しっくりくるシチュエーションだとは思いますが、意外性がナイ。むぅ。

個人的には、周りの殺気立ってる人達を書く方が楽しそうだなぁ、なんて思ったりします。(笑)


次は最後のお題。

消去法で残るのはひとりだけなんですけどねぇ。

さて、どうしましょう…;;

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