お題<book> 1
□唇に触れる
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「ん〜、美味しいっ!」
“やっぱり週ソラのお勧めに間違いはないわっ”…なんて、満面の笑顔を浮かべるルーシィ。
俺は手に取ったカップを傾け、中に注がれた琥珀色の液体をこくりと一口飲む。
途端に口一杯に広がるすっきりとした珈琲の味に“確かに美味いな”なんて思いながら。
アイスやら生クリームやらが盛りつけられた大きなグラスに笑顔を向けるルーシィを見つめていた。
※唇に触れる※ (リオン×ルーシィ)
―――オレは、はっきり言って人混みが嫌いだ。
ずっと独りで戦ってきたせいだろうか。
自分のすぐ近くに誰か他人の気配がつきまとうのは、好きじゃない。
だから、人でごった返す休日のマグノリアを出歩く事なんて、本当はしたくないのだが。
「ねっ、たまにはこういう所もいいでしょ?」
笑顔を浮かべてオレを見てくるルーシィに。
“そうだな…”なんて、少しだけ笑顔を浮かべて答える。
ルーシィが突然オレの部屋を訪ねてきたのは、今朝の事。
「出掛けるわよっ!リオン!」
なんて、雑誌片手に乗り込んで来た時は一体何事かと思ったが。
―…ルーシィからオレを訪ねてくるなんて、まずないのだ。
「このお店に行きたいのっ!」
なんて、押しつけるかのように週ソラのページを見せられて。
『最近人気のスイーツの店』のキャッチコピーに、思わず“勘弁してくれ…”とも思ったのだが。
あまりにも一生懸命なルーシィの姿に負けて。
大人しく、マグノリアへと足を向けたオレ。
街へ出てまず、予想していたよりもはるかに人が多いことに少なからずともうんざりして。
そういえば今日は休日だったかー…、なんて思うも、後の祭りで。
でも、楽しそうに隣を歩くルーシィの笑顔にやっぱり勝てなくて。
1分でも早く用事を済ませて抜け出そうと足を進めていたら。
「リオンは私と出掛けるのイヤだった…?」
心配そうな、不安そうな顔を浮かべたルーシィに覗き込まれた。
「い、いや。そんな事は…」
「嘘だ。嫌々って顔してる」
「別にルーシィと出掛けるのが嫌なんじゃないさ」
やっと晴れて“両思い”になれたルーシィと出掛けられて。
嫌だなんて思う訳がない。
それに、自分だけだったら絶対に出掛けない町中へ行こうとしてるのだ。
オレの中でルーシィがいかに大きな存在か、分かろうというもの。
―…でも、それはルーシィには伝わっていないようで。
“ふーん。別にいいけど…”なんて、納得していないような様子のルーシィに。
何かフォローをしなきゃいけないと思うのだけれど。
悲しきかな。
オレは言葉にするのは苦手なんだ。
「オレはルーシィと出掛けられて嬉しいぞ?」
何とか捻り出せたのは、そんなどうしようもないほど普通の言葉で。
自分の粗雑さを恨みたくもなるが―…。
でも、そんなオレに“それなら良かった!”と笑顔を向けてくれたルーシィ。
「さぁ、早く行くぞ!」
赤くなっているであろう自分の顔を見られないように。
オレはルーシィの手を握り締めて、ずんずんと歩き出した。
引っ張られるようにオレに連れられたルーシィが、大人しくオレの後ろを歩いてくれている事にホッとしながら――…。
「…でね、……ちょっとリオン、聞いてる?」
突然、“現在”に引き戻されてハッとする。
気が付けば、正面に座ったルーシィがオレを睨みつけていた。
“しまった”と思うが、やっぱり上手いフォローは出来ないオレ。
慌てて“ちゃんと聞いてる”と告げても。
「絶対に上の空だった!」
ぷう、と頬を膨らませたルーシィに抗議された。
「本当に聞いてたから」
「へー。じゃ、私が何話してたか教えてよ」
「う…っ、そ、それは……」
「…やっぱり聞いてないんじゃない」
ぷいっ、とオレから視線を外すと“べっつにぃー、来たかったのは私だけだしぃ?”なんて不機嫌そうな顔。
「すまない。ちょっと考え事をしていたから…」
せっかく2人きりで出掛けられたというのに。
それも、ルーシィから迎えに来てくれるという特典まで付いていたのに。
この貴重なデートを台無しにだけは絶対にしたくなくて。
“すまない…”と再度告げる。
でも、ルーシィの怒りは治まらないらしく。
「私はこれが食べたかっただけなんだから、別にいいんだもんっ!」
なんて、ルーシィは勢いよく目の前にあるパフェへをぱくついた。
―――あぁ、オレは何をしているんだ。
このままでは、せっかくのデートが嫌な雰囲気のまま終わってしまう予感。
こう見えても、そういう勘だけは鋭い自信があるんだ。
何とか挽回しようと勢いよくパフェを食べるルーシィへ視線を向けると。
その形のいい唇の横に付いた白いモノを見つけた。
ソレは今、彼女がその口にかき込んでいる生クリームの欠片。
怒り心頭という様子のルーシィは、どうやらそれに気付いていないらしい。
「ルーシィ。クリーム付いてるぞ」
子供のようなそんな姿も可愛いと思うけれど。
知らんぷりをしたら、ソレに気付いたルーシィに怒られるのは間違いないから。
イスに座ったまま、その存在を指し示した。
「えっ。本当?どこどこ?」
ルーシィが自分で拭おうと手を動かすも。
そのどれもが見当違いの場所ばかりで。
唇についたクリームは一向に取れる気配がなくて。
何気なく。
そう、本当に何気なく。
「ここに付いてる」
身を乗り出して、ルーシィの唇に触れた。
途端に指先に伝わってきた、柔らかな感触。
―――…っ!!
思わずドキリとして。
クリームを拭った手を離すことも忘れて。
柔らかなその唇に沿って指を滑らせた。
まだ触れた事のなかった、ルーシィの唇。
そのあまりの柔らかさと滑らかさに。
オレの思考回路は完全に吹っ飛んだ。
「…帰るぞ。ルーシィ」
“えぇぇぇ、まだ残ってるのにー!”なんて叫ぶルーシィの声にもお構いなしに。
オレは料金をテーブルに叩きつけるように置いて。
彼女の手を取って歩き出す。
人混みのマグノリアは嫌いだ。
でも、こんな思いが出来るのならそんなに悪いものでもないかもしれない――…。
「ちょっと。どこ行くのよ、リオン!」
後ろから聞こえてくるルーシィの声を耳にしながら。
オレはその感触をもっと味わうべく。
―――マグノリアの街を後にした。
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2010.12.17
らぶらぶデートできて良かったね、リオンw(ぇ
男というものは暴走すると何するか分かりません。
拉致られたルーシィがどうやって唇を味あわれたのか。
―…それはご想像にお任せします。(笑)
次の『舐める』は誰にしよう…。←レパートリー枯渇。