お題<book> 1

□指ずもう
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「この仕事なんてどう?」

「えー、面白くなさそうだからパス」

「選り好みしてる場合じゃないのよ!私の家賃!」



いつものギルドで、いつもの如く繰り返される風景。

さして珍しくもないその光景に、ギルドの面々は興味もなく。

ただ、時折聞こえてくるルーシィの声に。

“ルーシィも苦労するなぁ”…なんて、こっそり同情していたりするが。

ナツとチームを組んだのが運の尽き。



―――諦めが肝要だぞ、ルーシィ。



なんて、ルーシィが聞いたらいっそう凹んでしまいそうな事を全員が考えていた。





ずもう※ (ナツ×ルーシィ)






「だから、私はこの警護で10万Jの仕事がしたいの!」

「だーかーらっ、そんなつまんないのはイヤだって」



ルーシィはクエストが張り出されたボードをバン!と叩く。

毎度のように家賃の支払いに迫られたらしいルーシィが、今日いますぐにでも仕事行こうと言い出したのはついさっき。

そして、そのあまりの必死な様子に仕方なく同意した俺。



でも。



「こっちの方が絶対面白いって!」



俺は違うクエストを指し示す。

それは、森に出る猛獣を退治するというもの。

いかにも暴れられそうな、俺好みなクエスト。

しかも、報酬は50万J。

こっちの方が確実に家賃キープできるのに。



「あんたが全力で暴れたら、また報酬なくなっちゃうじゃない!」



―…なんて、俺がやりたいクエストは全部却下。



いくらチームを組むルーシィの家賃を稼ぐ為とはいえ。

暴れられないような仕事なんて、まっぴら御免だ。



「これにするの!」

「絶対にこっちだ!」



クエストボードの前で、ルーシィとにらめっこ。

お人好しで弱いとこがあるかと思えば。

こうと決めたら梃子でも動かない頑固な奴。

あぁもう俺はどうしたらいいんだ―…なんて、頭を抱えていたら。



「お前達。ジャンケンか何かで決めたらどうだ」



後ろから、エルザに声を掛けられた。

ジャンケンなんてもし負けたらどーすんだ!…と思うけど。

エルザに逆らうような勇気は、……生憎、持ち合わせていない。



ちらり、とルーシィを見ると。

嬉しいような困ったような複雑な顔。

多分、ルーシィも俺と同じく、同意したくないけど同意しない訳にはいかないといった状態。



はぁ〜、とため息ひとつ。



「それじゃ、ジャンケンしましょう!」



ルーシィは握り拳を作り、ジャンケンの体勢でスタンバイ。

とりあえず、確率は2分の1。

勝てる事を信じて、俺も握り拳を作った。



「最初はグー、じゃんけん―…」





『ポイっ!』





「やりぃ、俺の勝ち!って事でこっちな!」

「あぁぁぁ嘘。今のはナシっ!」

「卑怯だぜぇ〜ルーシィ。負けたんだから諦めろって」

「絶対にイヤなものはイヤぁぁぁっ!」



頭を抱えてぶんぶんと否定するかのように頭を左右に振ってるけど。

負けたもんは大人しく諦めろって事で。



「じゃ、早速このクエストを―…」



クエストボードからその張り紙を剥がそうとしたら。

俺の手を、エルザがパシッと止めた。



「何だよエルザ。俺の勝ちだろ?」



ジャンケンで勝負しろと言い出したのはエルザだ。

それを今更止めるなんて、絶対におかしいだろ!?

―…なんて思っても口には出来ないが。



無言の抵抗でエルザを睨みつけると。

逆にエルザに睨まれた。…何でっ。



「今のはナツの遅出しだ。よって勝負はノーカウントだな」

「はぁぁぁ!?んな訳あるか!」



思わず文句を口にしたら。

速攻、エルザに頭を殴られた。



「そ、そうよ!遅出しなんて卑怯よっ!」



後からエルザに乗っかってルーシィも反撃。

―…ちくしょう。強力な援護があると思って!



「わーったよ!じゃ、もう一回すればいいだろ!」

「おーけぃ。じゃ、改めて」



『ジャンケン、ぽいっ』



「俺の勝ちーーー!!」

「あんた、また遅出ししたでしょ!?」

「してねぇって!」



「―…今の勝負もナシだな」



腕を組んで俺とルーシィの間に立つエルザが、またもやノーカウント宣言。

ルーシィを見つめるその表情は、明らかに“困った”顔。



―――もしかして。



「エルザ、ルーシィに勝たせる気なんだろ!」

「さぁ。私は公平な立場でここにいるが?」



ふふん、と笑ったエルザを見て理解した。

エルザは俺に勝たせる気なんて、さらさらないんだ。



このままでは、ルーシィが勝つまで延々とジャンケンをさせられるハメになるだろう。



「だぁーーー!ジャンケンは止めだっ!」



両手に握り拳を作って叫ぶ俺に、呆れ顔のエルザ。



「じゃんけんが嫌なら、何ならいいんだ?」

「う〜〜〜…」



ジャンケンのようにタイミングが問題になる勝負では、どんな勝負をしても結局同じ事。

ならば、タイミングうんぬんと言えないような勝負にすればいい。

さすがにグレイと勝負する時みたいに殴り合いは出来ない。

ならば。



「相撲!」



がっつり組み付いて勝負するんだ。

誰の目から見ても、勝ち負けがはっきりする。

これはいい勝負を思いついた!…と思って意気揚々と告げたら。



「お前…バカだろう」



冷淡な表情を浮かべたエルザが一喝。



「バカ言うなー!!」



確かに少し自分でも単純かなぁ〜なんて思う時もあるけど。

そうはっきりバカって言わなくてもいいと思わないか!?



「じゃ、腕相撲は!?」

「男のお前の方が強いに決まってるだろう」

「じゃ、腕じゃなくて指なら!」



「…指ずもうか。それなら女でも難しくはないな」



やっと頷いたエルザ。

“ということで、頑張れ”なんてルーシィにエールを送っている。



―――やってやろうじゃん!!



ルーシィの前に立ち、お互いの手を握る。



「私が絶対に勝つんだから!」

「そういう事は勝ってから言うもんだぜ!」



ぎゅっと力を込めて。



「勝負、始め!」



エルザの掛け声と同時に、親指を伸ばす。

いつの間に集まったのか周囲のギャラリーから“ルーシィ負けんな!”“ほれ、そこだ!”なんて声援が上がる。

それらは全て、ルーシィ応援部隊。

俺に対する声援は、ひとつもなし。



―…そうくるんだったら、絶対に勝ってやる!



半ば意地みたいな気持ちで、逃げ回るルーシィの親指を捕まえにいく。

が、思ったよりルーシィの指は長くて、なかなか捕まえられない。



―…あぁ、もうまどろっこしい!



自棄になり始めていたのかもしれない。

思わず、夢中になり過ぎたのかもしれない。

原因はどうでもいいんだけど。



「きゃっ!」



思わず、腕に力を入れ過ぎた俺に引っ張られて。

ルーシィが堪えきれず、俺の方へと倒れ込んできて。



「〜〜〜っ、いってぇー………」



ルーシィの体を受け止める形で、床へ叩きつけられた。



「ちょっと、引っ張るなんて酷いじゃー…」

「あぁぁ、痛ぇ…。すまねぇ、ルーシ…ぃ」



ルーシィの体を支えてる俺の手に。

何やらふにゃふにゃする柔らかい感触。

これは何だ?…なんて、何も考えずにふにふに触っていたら。



「ナツのえっちーーー!!」



バッと体を起こしたルーシィが。

意味不明な叫び声を上げて猛ダッシュで逃げていった。



「おい、ナツ!今のはセクハラだぞ!」

「そうだそうだ!」

「お前、いくら何でもそれは酷いだろ」

「ルーシィも可哀想に…」

「でも、ちょっと羨ましいけどなぁ」



『そうだなぁ』なんて頷き合うギャラリー。(男のみ)



「あんた達、ルーシィの気持ちも考えなさいよ!」

「サイッテーーー!」



怒りを露わに、反撃するギャラリー。(女のみ)



一体何が起こったんだ?…と、俺の傍らに佇むエルザを見上げると。

鬼の形相のエルザがそこにいた。



「―…ナツ。さっさと行って謝って来い!!」



今にも殺されそうな程の殺気を身に纏ったエルザに。



「い…、行ってきますっ!!」



慌ててルーシィの後を追いかけて走り出した俺。

右手に残る不思議な感触を思い出しながら―――…。










「ルーシィ!」



ギルドからやや離れた場所の木の下で見つけたルーシィは。

しゃがみ込んで、膝を抱えて座り込んでいた。

そのあまりにも沈んだ様子に、さっきまでの不満も全て吹っ飛んで心配になる。



「ごめん。俺、何した―…」



そっと声を掛けた俺を、膝から顔を上げたルーシィが睨んできた。

その顔は、怒りというより…恥ずかしい?



「いいいいいのよっ!あんたに悪気があった訳じゃないのは分かってるから!」

「でも、ルーシィ怒ってんだろ?」

「怒ってないから!」



“いいから、あっち行っててよ!”…と叫ばれるけど。

そんなルーシィを放って置いては行けなくて。

ルーシィの隣に腰を下ろす。



「俺、何かしたんだろ?謝るよ。ごめん」



何かしたのなら、謝らなきゃダメだ。

ルーシィは大切なチームメイトなんだから。



―…んん?



“チームメイト”という言葉に、少しだけ違和感を感じて首を捻る。

が、理由はさっぱり分からない。

チームを組んでいる事に間違いはないんだから、違和感を感じるのはきっと気のせいだろ。きっとそうだ。…なんて自己完結して。

―――それよりも今は。



「なぁ、ルーシィ。機嫌直してくれって」



再び顔を膝へ沈めてしまったルーシィの肩を掴んで揺さぶる。



「いいから、あっち行ってよ〜…」



力なく反論してくるルーシィ。

その様子は俺の中にいるルーシィの姿とは全く違う。

どうにかしてルーシィに戻って欲しくて。

俺はしつこく揺さぶり続けた。



「俺、何したんだよ。謝るから、教えてくれって」



がくがくと揺さぶられて頭がふらついたのか。

ルーシィは顔を上げると、真っ赤な顔でギッと俺を睨みつけて一言。



「胸揉んだだけよっ!!」



そう、叫んだ。



「へ…っ?」



言われた俺と言えば。

頭の中は完全停止状態で。

ルーシィに言われた言葉が、右から左へと通り抜けて行って。



「胸…揉んだ………?」



思わず右手をじーっと見つめた後。



「むっ、胸ってルーシィの胸!?」

「私以外の誰の胸を揉むっていうのよ!あんたはっ!」

「いや、ルーシィ以外は別に揉む気なんてないけど」

「私の胸ならいいって訳!?訳わかんないっ!」

「だーーーーーっ!分かるだろっ!!」






「ルーシィ以外のなんて、興味ねぇんだよ!」





『…え』



思わず叫んだ言葉の意味が理解できずに固まった俺と。

言われたルーシィが、同じく固まって同じ言葉を口にする。



―――ルーシィの胸が、何だって?



自分が口にした言葉がまるで知らないモノのように頭の中を掛け巡って。

またもやその文字だけが右から左。

そして、意味を理解できず呆然とする俺を。



「意味分かんないーーーっ!!」



がばっと起きあがったルーシィが、置き去りにしたまま駆け出した。



「ちょ、ちょっと待てよっ!」

「ついて来ないでーーー!!」

「そうは行くかっ!」



慌てて追いかける俺を、振り向きもせず走り続けるルーシィ。

俺はその背中を見つめながら。

ただルーシィを捕まえようと全力で走る。



「待てよっ!」

「嫌ったらイヤっ!!」



徐々に近付くその背中を捕まえたら。

ルーシィにどの言葉を告げようか。



俺はそんな事を考えながら、全力で走り続けた―――…。

********************

2010.12.16

あぁ、ナツってば何て美味しい思いをーー!

胸を揉んでもえっちくさくならないのがナツらしい。

さりげなく無自覚で告白してますが。

やっぱり直接の告白は難しくて挫折…。

前2つのカップリングはできてるのに、この2人はやっぱりでぇきてないぃぃ。がっくり。



次はリオンですw

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