お題<book> 1

□でこぴん
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手にしたソーサラーをぱらぱらとめくる。

グラビアを飾るのは、同じフェアリーテイルのミラジェーン。

もちろん、顔もスタイルもいいのだけれど。

それ以上に、羨ましいと感じてしまうもの。



「どうしたらいいのかなぁ〜…」



ルーシィはポテンとテーブルの上へ突っ伏す。

もう何度目か分からない押し問答をぐるぐると考えながら、グラビアの中で笑うミラの笑顔を見ていた。




※でこん※ (グレイ×ルーシィ)



「ミラちゃん、こっちにおかわり〜」

「こっちもね〜、ミラちゃん」

「はいはい。2人共、飲み過ぎちゃダメよ?」

“はーい”なんて威勢のいい返事を返す男達に、ミラは“仕方ない人達ね”なんて言いながらも笑顔を浮かべる。

いつでも柔らかくて優しい、ミラの笑顔。

ルーシィはその様子を横目で見ながら、誰にも聞こえないようにため息をついた。



―…何でこんなに違うのかなぁ。



ぽてん、とカウンターへ体を預ける。

カウンターに額をつけると少しだけひんやりとして気持ちよくて。

ルーシィは目を閉じると、ぐりぐりと頭を擦りつけた。



―――考えたって仕方ないって、分かってるのに。



ぐるぐると無意味な事を考え続ける自分にうんざりしながら。

ルーシィは再度、小さくため息をつく。



「どうしたの?ルーシィ」

「み、ミラさん!?」



突然、間近に聞こえたミラの声に、ルーシィは慌てて体を起こすと。

目の前には心配そうな表情を浮かべたミラが覗き込んでいた。



「い、いえっ。何でもないです!」



慌てて否定すると、“それならいいんだけど”安心したようにミラが笑う。

その笑顔はやっぱり可愛くて優しくて。

ルーシィは再び、ぽてんとカウンターへ沈んだ。



「いいなぁ…ミラさんは」

「どうして?」

「綺麗で可愛くて優しくて。羨ましい…」

「ルーシィもとても素敵よ?」

「そういうんじゃ、なくて…」



ルーシィは視線だけを上げてミラを見ると、再びため息をつく。



「私もミラさんみたいになれたらいいのに…」



ぽつりと呟くルーシィ。

ミラは不思議そうに笑った。



「どうして私みたいになりたいの?」

「どうしてって…」

「今のルーシィが好きだ、って言ってくれる人がいるんでしょう?」



ちらりと視線だけでその相手を指し示すミラ。

振り向かなくても分かるその存在に、ルーシィはぼんっと真っ赤になる。

こんな素直で可愛い反応ができるのだから、何を羨む必要があるのだろうか?

ミラには、なぜルーシィがそんな事を言うのか不思議で仕方がない。



「それとも、グレイに何か言われた?」

「ち、違いますっ!」



真っ赤なまま必死で否定するルーシィ。

ルーシィとグレイが付き合っているのは周知の事実だったから。

彼女が落ち込んでいるとすれば、原因はやはりグレイと考えて間違いないだろう、と判断したのだが。

グレイの名が出ただけで真っ赤に照れているぐらいだから。

―――どうやらそれは的外れだったらしい。



「じゃあ、何かあったの?」



その問いかけには、やはり言い淀み俯いてしまうルーシィ。

頑ななその様子に、ややあって、ミラはふうと息を吐いた。



「言いたくないなら、もう聞かないわ」



“でも、ルーシィには笑顔が似合うわよ?”と笑いかけると。

つられるように、ルーシィも笑う。



「すみません、今日はもう帰ります」



肩を落としたままギルドから出ていくルーシィを見送って。



「ちょっと、グレイ」

「なんだ。どうかしたのか?」



真相を探り出すべく。

ミラは彼女が一番心を許しているであろうグレイに声を掛けた。







「あ〜、ミラさんってば鋭いんだから…」



ミラから逃げるように部屋へと戻ってきたルーシィは。

いつもメイクの時に使う大きな鏡の前へ、すとんと腰を下ろした。

正面に写る自分の顔はまだ幾分赤みが残っているが。

何とか普通の顔に戻っていると言えるだろう。



「変なこと言っちゃったなぁ」



言った事を今更後悔しても遅いのだが。

明らかに不審がっていたミラの表情は、自分の失言を自覚させるもので。

ルーシィは思わず頭を抱えてしまう。



きっかけは。

グレイのほんの些細な一言だった。



「ミラちゃんって、笑顔がいいよな」



いつもと同じようにギルドでグレイと話していた時。

突然、グレイが口にした言葉に反応してしまった私。



「え…」

「なんかさ。あの優しい笑顔がいいよな」



“ルーシィもそう思わね?”と話を振られて、必死に何とか頷いて返事をする。

確かに、ミラの笑顔はとても可愛いと思うし。

あの独特の優しい雰囲気はとても癒されるなぁ、と思う。けど。

それをグレイに目の前でわざわざ告げられる意味が、分からない。



意味を掴みあぐねて、少しだけ驚いて言葉が出なくて。

ぼんやりとその顔を見つめると、“変な意味じゃないぞ!”と焦ったように否定したグレイ。



“分かってるよ”なんて、いい子ちゃんのフリして笑った。

本当は、笑いたくなかったのに。

本当は、胸が痛かったのに。



それをグレイに告げる事もできなくて。



それからというもの。

何となく。

ミラさんの笑顔を、真っ直ぐ見れない。

それすらも、自己嫌悪で。



―――何やってんだろ、私。



鏡の中に映る自分へと笑いかけてみる。

顔の作りは決して悪い方じゃないと自分では思うのだけど。

それでも、ミラさんのような“柔らかな”笑顔にはならない。



試しに、いつも下げている前髪を掴んで、ミラのように持ち上げてみる。

額が全開になるこの髪型は慣れないから少し恥ずかしい気もするけれど。

鏡の中に映し出された“いつもと違う自分”は、やはり何か雰囲気が違うような―…。

この方が表情が見えやすいから、なのかもしれない。



―…だから、グレイはあんなことを言ったのだろうか。



いつも横で髪を留めている髪留めを使って、前髪を固定して手を下ろす。

そして、改めて鏡に向かって笑いかけてみようとして―――…。



「何かあったのか!?ルーシィ」



突然、部屋に響いた聞きなれた声に。

誰と確認する必要もなく、ルーシィは勢いよく振り返った。



「何であんたが今ここに来るのよ!」



誰にも見られてないのだから恥ずかしがる事なんて何ひとつないのだけれど。

ひとりで鏡に向かって笑いかけていた自分が頭の中にあるルーシィは。

突然の訪問者に、まるで見られたかのようにパニックを起こす。

どうやって誤魔化そうとあわあわ慌てふためくルーシィを横目に。

グレイの視線は、ルーシィの頭の上。



「それ。どうした?」

「それ?」



視線の先を辿って手を動かすと。

いつもならばそこにない髪留めに手が触れて。

―――ルーシィは、自分がどんな状態なのかを一気に思い出した。



「こ…っ、これは何でもないのっ!」



慌てて否定するものの。

その慌てふためく様子では、あまり意味はない。



「もしかして。ミラちゃんの真似?」

「―…だったら何?似合わないって言いたいんでしょ」

「いや、そんな事はないけど」

「いいよの別にっ。思ってもない事言わなくても!」



くるりと背を向けてしまったルーシィを。

グレイはそっとその背後から抱き締める。



「どうした。何かあったのか?」

「何もない」

「嘘。俺には隠し事すんなよ」

「本当に何でもないって…」



自分の体の前で組まれているグレイの腕に、そっと自分の手を重ねる。

返事をするかのようにぎゅっと力が込められたグレイの腕。

その体温に、少しだけルーシィの決心が揺らぐ。



グレイが悪い訳ではない。

ただ自分で勝手に悩んで、勝手に落ち込んでいるだけだと十分分かっているのだけれど。

それでも、やっぱり考える事を止められなくて。

かといって、考えた所で結論なんて出ないのは分かっていて。

抜け出せない迷路のように入り組んでしまった自分の頭の中をどうにかスッキリさせたいとグラビアを開いてみたものの。

迷路は逆により複雑に入り組んでしまった。



こんがらがってしまったこの頭を整理するには。

もう打ち明けるしかないのかもしれない――…。



「グレイは、ミラさんの事好き?」

「あぁ!?何を突拍子もない事を…」

「いいから答えて」

「そりゃあ、好きだけど。でも勘違いすんなよ。仲間としての好きなだけだから」



“一体どうしたんだ?”と耳元で囁かれて。

ルーシィは、自分を奮い立たせるかのようにグレイの腕を強く握る。



「優しい笑顔って」

「優しい?」

「私はミラさんみたいに、優しい笑顔はできないから…」



少しだけ悲しそうに呟くルーシィに。

グレイは、先日自分が何気なく言った言葉を思い出した。



「もしかして、気にしてるのか?」

「気にしてるっていうか、その通りだなって…」

「気にしてんじゃねーか」



グレイは腕を解くと、ルーシィの肩を掴んで自分の方へと振り向かせる。

ミラと同じように前髪を縛り、居心地が悪そうに視線を逸らすルーシィ。

その表情はどこか沈んでいて、いつものような明るい笑顔は消えてしまっている。

グレイはそんな彼女の姿に自分の失言の重さを知った。



「ごめん」



正面から顔を合わせて、こつんとその額に自分のを合わせる。

逸らされていたルーシィの視線がグレイのそれと合って。

時間差で、両眼に涙が浮かぶ。



「グレイのバカ…っ」

「ごめんって。悪かったよ」

「絶対許さないんだからぁ〜〜っ!」

「ごめん。本当にごめんな」



しゃくりあげるルーシィをなだめながら、涙を拭う。

何気なく口にしてしまった一言がルーシィを苦しめていたという後悔は強かったが。

日頃あまり素直に感情をぶつけてくれないルーシィの本心を見ることができて。

グレイはほんの少しだけ、目元が緩んでしまう。



「…なによ、その笑顔」



それに気付いたルーシィが、ぷうと頬を膨らませてグレイを睨む。



ヤキモチ妬いてくれたのが嬉しいなんて。

そんなこと、恥ずかしくてやっぱり口にできなくて。

“何でもねぇよ”と濁そうとして、ふと言葉を止める。



言葉が足りなくて、ルーシィを不安にさせたばかりなのだ。

ヤキモチ妬いてくれるのは嬉しいけど。

でも、決してルーシィを傷付けたい訳じゃない。



「どんな時でも、どんな表情でも。ルーシィにしか興味ないんだよ。俺は」



何とか頑張って、それこそ今年一年分のパワーを使ったんじゃないかと思うほど頑張って本心を口にするけど。

襲ってくる気恥ずかしさにとてもじゃないけど我慢できなくて。

グレイは明後日の方向を向いて、ルーシィの髪をがしがしと掻き回す。

その時、いつもと違う場所にある髪留めに指が触れて。

グレイはその腕をピタリと止めた。



「―…どうし…」



突然、動きを止めたグレイを不思議そうにルーシィが見上げると。

すっとグレイのもう片方の腕が肩から外されて。

そのまま、前髪を留めている髪留めを掴む――…かと思ったらそのすぐ下。

額へと伸ばされて、ぺちんとでこぴん一発。



「いった!何する…っ」



叩かれた額を反射的に手で押さえるルーシィを。

グレイはその腕ごと、ルーシィの頭をその胸の中へと誘った。



「こんな事しなくても」



グレイは、見慣れない位置にある髪留めを掴んで髪から外す。

ぱらりと落ちた前髪から、甘い―シャンプーだろうか?―ルーシィの香りが漂って。

グレイの心臓が、とくんと跳ねた。



「俺はルーシィが好きだよ。誰よりも一番―…」



髪を一房手で掬い上げて、そっと優しくキスを落とす。

返事を返すかのようにぎゅっと強く抱き付いてきたルーシィにどこか安堵しながら。

グレイは念を押すかのように“好きだ”と繰り返した。



人一倍勘が鋭いくせに。

自分の事になると、てんで無頓着で無関心で鈍感なんだから。



腕の隙間から見えるルーシィの耳が赤くなっていて。

考えずとも、その顔が真っ赤になっている事は明らかで。

この自分の事にだけ鈍感なお姫様の。

何よりも一番可愛い顔を誰にも見せまいと、グレイはその頭を深く深く自分の胸へと包み込む。

そしてルーシィはそれに答えるかのように。

強く抱きつき、その広い胸へと額をぎゅーっと押し付けた。



「ありがとね、グレイ…」



そっと落とされた言葉に、グレイは優しく髪を撫で答える。

腕の中にすっぽりと収まる温もりを幸せに感じながら。

グレイはそっと静かに、笑った。







「しっかし、ルーシィはおでこ広いんだなぁ」

「ちょっと。今それを言う訳」

「いつもは前髪下りてて見えなかったから気付かないかったな」

「…その含み笑い、止めてくれる?」

「いや。悪いワリィ。くくくっ」

「…悪いと思ってないでしょ」

「そんな事ねぇって」

「もういい!離してーーー!」

「いーやーだー。なぁ、ルーシィ、コレ見て見て」

「…何を………って!ちょ…、ぷ。ぷぷぷぷぷ」

「似合いますぅ〜?」

「やだー。私の髪留め返して〜」

「俺のでこっぱち姿なんて貴重なんだぞ?」

「そんな姿いらないーーー」

「ひっでぇのー」



顔を見合わせて、くすくす笑う。

2人はきっとこの先もずっと―――…。



「ちょっと、返してってばーーー!」

「やだねーーー」



楽しそうに笑う君の笑顔が。

永久に共にあらん事を。



―――そっと、静かに天へと祈るのだった―…。



********************

2010.12.14

ウチのグレイはやったらめったら抱き付く気がします。

えぇきっと気のせいじゃないと思います。

シチュエーションのレパートリー少なくてごめんなさい…;;

次の指ずもうはナツ予定。

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