お題<book> 1
□指切り
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※指切り※ (ロキ×ルーシィ)
「ねぇねぇ、デートしようよ〜」
「分かったから。後でね」
「えー、もう何時間過ぎてると思って…」
「じゃナシ」
「あぁぁ、嘘うそ!嘘だってば!待ちますっ!」
「よろしい」
僕の方を見ることすらせず。
ルーシィは、またペンを握り直しざっと視線を走らせた。
小説を書くのに真剣なその横顔も美しくて可愛くて大好きなんだけれど。
その視線が僕の方へまったく向かないというのは…正直、寂しい。
今日だって。
珍しくルーシィから“どこか出掛けようか?”って言ってくれたのに。
出掛ける寸前になって、何かいいアイデアが浮かんだからって。
ひたすら机に向かう事はや3時間。
頂点にいた太陽も少しずつ傾いてきている。
カリカリとペンを走らせる音だけが響く室内。
僕はする事もなくてただぼんやりとその横顔を見続けた。
時折、下を向くルーシィの顔にサラリと髪が落ちて。
その度に彼女は指でその耳に掛ける。
持ち上げられたその指を見ていて、ふとある言葉が頭を過った。
「ねー、ルーシィ」
「…なぁにぃー?」
彼女の返事は、上の空。
―――別にいいんだけどね。
少しだけ、チリリと痛んだ胸を隠して。
右手の小指を差し出す。
「指切り、しようよ」
「指切り?何で」
「いいから!ゆーびーきーりっ」
“え〜…?”なんて少し眉を顰めながらも。
同じように右手の小指を差し出してくれたルーシィ。
僕はその指に自分の指を絡めて。
「―…指切り」
きゅっと、1度だけ力を込めて。
パッと離した。
すぐ解放された自分の小指を不思議そうに見るルーシィ。
「ロキの指切りって、それだけ?」
「なんで?」
「普通はさぁ、何かする約束破ったら針千本、みたいな」
「んー…そうなの?」
「私が小さい頃教えて貰ったのは“指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ます”って」
「針千本って何?」
「魚よ。攻撃態勢になると全身とげとげになるお魚。知らない?」
「残念ながら」
何の事やら、と肩をすくめると。
意外そうに面白そうにルーシィがくすくす笑った。
「物知りおじいちゃんなのに、知らないなんて珍しいわね」
「別に…おじいちゃんじゃないんだけどぉ?」
「でも、すっごい昔から生きてるんでしょ?」
「―…まぁ、それなりにね」
少しだけ、ルーシィの無邪気な言葉が胸に刺さる。
星霊と人間の違いなんて。
今更気にする方が間違いなのに。
「ロキにとっての指切りって、どんな意味なの?」
不思議そうに首を横へと傾けて。
自分の小指を指さすルーシィ。
まさか意味が以前と変わってるなんて思わなかったから。
意味を聞かれると、…ちょっと言い辛い。
「まぁ、あと1時間でデートできなかったら針千本ってことで」
「針千本ってどんなのか分かった訳?」
「…うっ」
「で、ロキが言いたかった指切りって何なのよ」
「うぅぅぅぅ」
ちろり、とルーシィの表情を覗き見る。
興味津々というか、何というか。
まるで獲物を目の前にした猛獣みたいな。
あぁぁ、喉笛に喰いつかれそうな勢いだ――…。
「指切り、って言うのはね」
「指切りは?」
わくわくと楽しそうに上半身を乗り出すルーシィ。
―…さっきまでは僕の方を見ようともしなかったくせにっ!
とりあえず焦って違うところへ心の矛先を向けるけど。
目の前にいるルーシィから逃れる術は、なく。
はぁぁぁぁ、と深いため息ひとつ。
「由来は、あんまり楽しくないんだけどね」
「へぇ。どんな?」
「指切りはね、その字のごとく“指を切る”約束なんだよ」
「えぇぇぇ。約束破ったら指を切り落とすって事!?」
「うーん。それもちょっと違う」
ルーシィの目の前に、僕の手をひらひらと翳す。
指の動きを面白そうに視線だけで追いかける彼女。
「指切りは、遊女が客に愛情の不変を誓う証として、その小指を切り落としていたから。…なんだって」
「うぇぇぇぇ。愛情示す為に小指を切る訳!?」
「それが愛情表現というか…誓いだったみたいだね」
「小指を切った痛みを受け止めるのが証拠です、って事?」
「…たぶん、ね」
「何それ。馬鹿馬鹿しい」
「おや。随分バッサリだね」
ん〜、とイスにもたれて背を伸ばすルーシィ。
イスが戻る反動で前へ向くと、その勢いを利用して立ち上がった。
「だって。遊女だけが小指切って愛情捧げて。客はどうなの?相手も切る訳?」
「うーん、そこまでは知らないけど」
「例えばお互いが強く想い合ってて、お互いに小指を切り落としたとして何になるの?」
「想いの確認、とか?」
「そんな無意味な事するだけ無駄よ!」
「無駄かぁ〜…」
「無駄でしょ?お互い本当に想い合ってるのに、何で指を無くさなきゃいけない訳?」
“意味分かんない!”…なんて、ルーシィは誰へともなく文句を言う。
いつも、どんな時でも明るい太陽に照らされて歩く彼女らしい言葉。
その強さが羨ましいとさえ、思えてしまう。
「指を切る遊女も、それを認める客も。お互いを信じてないからそんな事するのよ」
「あー…その言葉はちょっと僕も痛かったりする?」
「ロキも大概失礼よね」
「ごめんなさい」
ぷん、と拗ねたフリをするルーシィに。
ぺこりと小さくお辞儀をひとつ。
不安なんて抱えていないつもりだったけど。
やっぱり、どこかルーシィの気持ちが不安で心配で落ち着かなかった。
―――それが、“指切り”なんて口にした僕の本心。
“はぁぁぁ〜…”と深いため息が返ってきて。
少しだけ、ぎくりと体が強張った。
ルーシィは、こんな僕に呆れているのかもしれない―…。
「そんなものに頼らなくても」
ふわっとその両腕に頭を抱えられて。
予想だにしなかったルーシィの行為に驚きながらも。
鼻腔をくすぐるルーシィの甘い香りに、ゆっくりと目を閉じる。
「私の心はロキのものよ」
“指切るなんて、そんな事で縛りつけなくてもねっ”
耳元に届いたルーシィの言葉に。
口元の筋肉が緩んで。
ついでに、目元の涙腺も緩みそうになって、慌てて力を込めた。
とても綺麗で強い心。
誰にも穢されない誇り高いルーシィの心。
―――それを僕が独り占めしているという、極上の幸せ。
ルーシィの唇に沢山のキスを降らそうとの伸ばした僕の手を知ってか知らずか。
突然、くるりと身を翻したルーシィを捉え損ねて床を掴む。
―…床にキスする趣味なんてないんだけど!
文句のひとつでも言おうかと顔を上げると。
「さぁ!せっかくのデート日和!部屋に籠ってると損よ、損!」
ガッツポーズで笑顔を浮かべるルーシィ。
「損って、…今まで出掛けようとしなかったのはどこの誰…」
「さぁて文句がある人は置いて出掛けようかしらぁ〜」
「ちょ、ちょっと待ってよ!さんざん待った上に置き去りは止めてっ!」
「じゃ出掛ける?」
「行きます…今すぐ出掛けます……っ」
“よしっ”なんて楽しそうに頷くルーシィに。
胸の中にあった文句も消し飛んだ。
―――惚れた弱み、ってヤツですか?
“先に行くからね〜”なんて声に驚いて振り向くと。
もう彼女の姿は扉の向こう。
慌ててその後姿を追いかけながら。
自分の右手の小指をきゅっと握った。
こんなものに頼らなくても。
僕と君はずっと繋がっていられるよね?
「待ってよルーシィ!僕を置いて行かないでっ」
僕と君の距離。
それは、小指を繋げる程近くにいるという事。
「遅いっ」
「ルーシィが早いんだよ〜」
「おじいちゃん…」
「あぁぁぁ、僕そんな年じゃないってばー!」
笑い声だけがお互いの間に響く。
この指はきっと、永遠に繋がったまま―――…。
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2010.12.12
新お題スタート。今回はちょっと趣向を変えて。
タイトル毎にカップリング変更。
でも、キャパ少ないのでルーシィのお相手はどこかでダブります。
次はグレイかなぁ…?(まだ未定)