お題<book> 1

□きみの温かさを知る
1ページ/1ページ



「ホント、寒いわね〜」



眉をしかめながら歩くルーシィを、グレイは気付かれないように横目で見つめ。

さくさくと雪を踏む感触だけを感じながら、ただ黙々と歩く。



“もう少し待って”と言った彼女が、追いかけてきて。

一緒に帰ろうと、並んで歩く。

それはつまり。

“結論が出た”という事なのだろうか。



彼女の口からどんな言葉が飛び出してくるのか。

逃げ出したいほどの不安だけを感じながら。

グレイは一言も発する事ができないまま、ルーシィの隣を歩き続ける。

部屋までのたいしたこと無い距離が途方もなく遠い気がして。

1秒でも早く帰り着くようにと、ただひたすら足を進めていた。





※きみのかさを知る※





「本当、ナツってば失礼だと思わない!?」



寒さよりも怒りが勝っているらしいルーシィが、身振り手振りを交えてぷりぷりと話し続ける。

どうやら会話の内容は、先ほどのナツとのやりとりのようだが。

ソレを見ていても頭には微塵も残っていないグレイには、何の事だか分からない。

とりあえず曖昧に頷き返したら。

“心がこもってないっ”と、軽くぺちんと背中を叩かれた。



「ってぇよ」

「聞いてないからでしょ!」



“自業自得!”と、ルーシィが笑うのを見て、少しだけグレイも笑う。

いつもと同じ。

今までと何も変わらないルーシィ。

そんな彼女の態度にどこかホッとしながらも。

どこか寂しさと虚しさを感じていた。



まだ打ち明けるつもりじゃなかった気持ちをルーシィに知られて。

戸惑いながらも、どこか少しだけ期待していた。

なのに、何もなかったかのように隣にいるルーシィ。



わざわざ俺を追いかけてきたのに。

他愛のない話ししかしようとしない。

そしてその口から出てくるのは。

ただひたすら、ナツの事だけ。

そして文句を言いながらも、どこか楽しそうなのは気のせいだろうか。






―――あぁ、もしかして。彼女は。



「ルーシィは、ナツが好きなのか?」



ふっと心に浮かんだ言葉が、するりと口から滑り出た。

唐突なグレイの言葉に、目を見開いて足を止めたルーシィ。

その姿が、彼女の気持ちを全て語っていて。



「…そっか」



歩みを止めないまま、グレイが呟く。

“考える”と言っていた時間は。

きっと彼女なりの優しさ…そして、狡さ。



「あ〜…、そうか〜………」



置き去りになっているルーシィを振り返る事なく、グレイは足を進める。

ひとり無意味に空回りしていた自分がみっともなくて、俯いたまま足下に積もる雪を蹴った。



「ち…違うのっ。分からないの…っ」

「なにが?」

「ナツの事を、“そういう意味”で好きなのか…」

「…でも、俺に対しては悩まなくても答えが出てるんだろ?」

「………っ!」

「俺は、それだけしか興味ねぇよ」



彼女が俺を“特別”な存在だと思ってくれるかどうか。

それ以外の事なんて、どうでもいい。

たとえルーシィがナツを好きだったとしても、嫌いだったとしても。

俺には何の関係も、ない。



「待って!グレイ…っ!」



ひとりでどんどん進むグレイを、ルーシィの声が追い掛ける。

グレイは、一瞬躊躇した後にゆっくりと振り返った。



「…よかっ……、きゃっ!」



駆け出そうとして雪に足を掬われたルーシィの体が、ぐらりと傾く。

グレイはとっさに駆けその腕を捕まえて。

ぐいっと引き寄せ、そのまま、その体を抱き締めた。



「っと、危ねぇ。気を付けろよ」



ルーシィが転倒する事を止められた事にホッとして。

何気なく声を掛けた途端、びくりと強ばったルーシィの体。

瞬時に、今どんな状態になっているのかを悟った。



グレイの腕に抱き留められられながら。

じっとしたままのルーシィ。



そんな彼女に無性にイラッとして。

グレイはその両腕に力を込めた。



「…嫌なら、突き飛ばせよ。何でじっとしてんだよ…っ」



言葉とは裏腹に、グレイはより強くルーシィを抱き締める。

腕を放さなきゃいけないと分かっているのに。

その体は、なにひとつとしてグレイの言うことを聞かない。



近付く事さえできなかったルーシィが腕の中にいる。

その紛れもない事実に、抑え込んでいたグレイの心が暴れていた。



「…痛い、よ。腕…」



小さく聞こえてきたルーシィの声。

その声色に拒絶の色はなく。

そして、グレイを突き飛ばす事もなく。

“痛い…”とだけ繰り返す。



冷えた空気の中で感じる、ルーシィの体温。

その温もりは、グレイの想いを暴走させるには十分過ぎて。

考えるより先に、体が動いた。



「…っ、グレイなんか、大ッキライっ!!」



パンッ、という音と共にグレイは我に返る。

目の前には、両目に涙を浮かべ、唇を手で覆い隠すルーシィ。

そしてそのまま身を翻して走り去る彼女の後ろ姿を。

たった今、ルーシィに叩かれた頬を手で押さえながら呆然と見送った。



唇に残る、柔らかな感触。

それは、紛れもなく。








「―……くくくっ。は…っ!」



夕闇が迫るマグノリアの街角で。

何かをあざ笑うかのようにひとり笑い続けるグレイ。

その頬を、ただ一筋。

涙が伝って、地面へと落ちた。



―――この想いに何の意味があるのですか…?



信じてもいない神へと向かって。

グレイはひとり、空を見上げてただ立ち尽くした。





追いかけるのは、君の背中。

置き去りなのは、私の気持ち。





もうきっと叶わないであろう想いを胸に抱いたグレイを。

包んでくれる温もりは、もう遠く…遥か遠くへと消え去っていった。

********************

2010.11.30

グレイ想い成就せず…っ!

初めてですね。叶わないの。

グレイの独白が長かった分だけ、難しくなってしまいました…;;

このお題はグレイのとある1文を言わせたくて始めたのですが。

さて、それは何でしょう?w

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ