お題<book> 1

□寒いのは冬のせい
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想いを伝えた相手の態度が変化しないのは。

幸せなのだろうか。

それとも、不幸せなのだろうか。



それはどちらも正解で。

また、どちらも間違い。



“今まで通り”の関係が崩れるのは、有難くなくて。

でも“何もなかったかのように”普通なのは、ツラい。



ルーシィへ必死に告げたこの想いが。

まるで彼女の中で“なかった事”になってしまっているようで。



『普通』にしてくれる事が嬉しくて。

『普通』にできる彼女が、ほんの少し憎くもあって。

俺と彼女の気持ちのバランスが偏っている事を思い知らされる事に寂しさは感じるものの。

仕方ない当然の事だと受け止めているから、傷付く事はなくて。



変化がないというのは幸せなのかと問われれば。

“YES”とも“NO”とも言えない。



―…こんなにも臆病で、弱虫な自分。



彼女から離れた場所で、その姿を見続ける。

楽しそうに周囲の人間と笑い合うルーシィ。

こんな俺に、君はいつか気付いてくれるのだろうか。





※寒いのは冬せい※





「ちょっと、いい加減にしなさいよ、あんたたち!」

「ルーシィが怒ったですぅ」

「やべっ!逃げろハッピー!!」

「あぃっ!!」

「逃がさないわよっ、ナツ!ハッピー!」



騒がしい日常。

毎日のように繰り返される風景。

そして、それを遠くから見続ける日々。



望んでいた“変わらない日常”なのに。

どこか“物足りない”と感じるのは、俺が欲張りなせいだろうか。



「グレイっ!ナツ捕まえてっ!」

ルーシィから逃げ出したナツが、こっちへ向かって掛けて来る。

反射的に足を横へ滑らすと、ソレに躓いて見事にナツがひっくり返った。



「ってぇ〜!何すんだ、グレイっ!」

「誰かさんと違って足が長いもんでね」

「んだと!喧嘩売ってんのか!」

「お前の事だなんて言ってねぇよ」

「明らかに邪魔する為に出しただろ、足!」

「あ?そうだったかなぁ〜…?」



のらりくらりと対応する俺に、怒りを向けるナツ。

言い争いに夢中になって、背後から迫る不穏な気配には気付かない。

…まぁその為にこうやって挑発してるんだから、当然かもしれないが。



「ナぁツぅ〜〜…捕まえたあぁぁ…っ!」

「うげっ!ルーシィ!!」



がしっ、と背後から拘束されて、ずるずると引きずられて行くナツ。

ハッピーは傍をパタパタと飛びながら“諦めなよ、ナツ”なんて笑ってる。

大変だなぁ〜…なんて何も考えずに見ていたら。



「ありがとねっ、グレイ!」



にっこりと笑われた。

“いつもと同じ”笑顔で。



“あぁ”と軽く手を振り返したものの。

本当は、少しだけ…緊張して。

同じ分だけ、哀しくなった。



変化を望まない気持ちはあるけれど。

変化しないことは、決して幸せなんかじゃない。



この間から、どこか落ち着かない心が。

またざわざわと騒ぎ出す。



どこか知らない場所に置き去りにしてしまったような寂しさと。

体温を感じられない君との距離に。

暖房が効いているギルド内にいるのに、ぞくりと寒気が背筋を掛け上がった。

ひとり、取り残されたように立ちすくむ。



―――俺は、何がしたいのだろう。



自分の心なのに。

こんなに思うようにいかない。



考えても、考えても、考えても。

結論が出ない押し問答を投げ出したいけど。

どれだけ気を逸らしても戻ってきてしまう。



―…寝てしまおう。



まだ体力が戻ってないのかもしれない。

だから、こんなにも気弱になってしまうのかもしれない。



部屋へと帰ろうとギルドを出た時。



「グレイ、待って!」



後ろから、追いかけてきた彼女の声に。

大袈裟なぐらい勢いよく振り返った。



「帰るなら、一緒に帰ろ!」



笑顔を浮かべたルーシィに。

俺はただ狼狽えて頷くしかなかった。

********************

2010.11.29

何だかグレイ悩んでばかり?(苦笑)

かなり後ろ向き。

前向きな方がグレイっぽいような…;;

次でひと段落ですが、幸せになるかどうかは…うふふーw

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