お題<book> 1

□冷たい手でもいいよ
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「う〜…寒いっ!よくこんな中、その体で歩いて来たわねっ」

首から冷気が入り込まないように、コートの襟元を手で押さえてルーシィが言う。

その意見に激しく同意だと思いながら、グレイも襟元を押さえた。

雪こそ止んだとはいえ、真冬の夜。

人影もなくしんと静まり返った街が、より一層寒さを引き立てていた。



来たときは気が気じゃなかったから感じなかったのだが。

こうして改めて自室までの道を歩くと、雪で冷やされた空気はかなり冷たい。

せっかく治りかけた風邪がまたぶり返すかもしれないなぁ、なんてどこか他人事のように考えながら。

自分の隣を並んで歩くルーシィを、グレイは肩越しに見つめた。

“何で冬は寒いのよっ!”なんて、ひとりぶつぶつ文句を言うルーシィ。

それはいつもと同じ、何てことない風景。

“普通”でいられる事が、グレイには何よりも嬉しかった。





たい手でもいいよ※





さくさくと新雪を踏む音が、しんと静まり返った人気のない街に響く。

完全防備で歩くルーシィの隣には、毛布を羽織ったグレイの姿。

一応、グレイもそれなりの上着を着ていたのだが、“それだけじゃ寒い!”とルーシィに怒られ。

言われるままに、大人しくルーシィの毛布を借りた。

そんなに変化があるものか?とも思ったが、意外にも毛布がある事でかなり暖かい。

アドバイスは素直に聞いてみるものである。



「帰ったら暖かくして早く寝なさいよ!?」



“こんな事してるから風邪引くのよっ!”と怒るルーシィの姿は、まるで弟を叱る姉のよう。

いつもと逆の立場にいる事に少しだけ居心地の悪さを感じながらも。

それでもやっぱり楽しくて、グレイは“はいはい”と軽く言葉を返す。



「…ちょっと、ちゃんと聞いてるの?」



機嫌を損ねたらしいルーシィに、軽く耳を掴んで引っ張られ。

不意打ちの出来事に、グレイは2・3歩たたらを踏む。



「…っと、あぶねぇって」



拗ねたようなフリをしながら、ルーシィの手を外そうと何気なくその手に触れる。

ひんやりと、まるで凍りついたかのように冷え切った指先の温度に驚き。

そして。

どうこう考えるより先に、グレイの体が動いた。



「グレイの方が冷たいって」



ルーシィと同じく冷えきった両手に包まれて、ルーシィは思わず苦笑する。

羽織った毛布を手で押さえながら歩くグレイの手の方が、風に晒されてより冷えきっているのは当然の事。

たいした温度差はないとはいえ、グレイの方が確実に冷たい。

だが、それは彼なりの優しさである事はルーシィにも十分、分かっていたから、あえて振り払う事はしなかった。



―――にしても。



「非効率よね、コレ」



グレイの手に包み込まれた手(片手だけ)を指差して、ルーシィが笑う。

冷え切った空気の中、凍えた手で温めても限界があるというもの。

確かにその通りだな、とグレイがその手の所在を迷い始めた時。



「こうすれば暖かいでしょ?」



にっこりと笑ったルーシィにがしっと手を掴まれて。

そのまま、ずぼっと。



―――ルーシィのコートのポケットに、突っ込まれた。



「………ぅえ?」



思わず口から変な声が漏れたグレイを気にする事なく。

ただ前だけを見て、楽しそうに歩くルーシィ。

女性に誘導されて歩く男なんて、端から見たら少し滑稽かもしれないな、なんて思いながら。

それでも、その手を振り払えなくて。

グレイはただ大人しく、ルーシィと並んで雪の街を歩いた。







冷えきった空気は相変わらず冷たくて。

際限なく体の熱を奪っていくような気がするのだけど。

さくさくと軽い音を立てる雪はとても柔らかくて。



―…こんな雪の日も、いいのかもしれないな。



ふーっと白い息を吐きながら、グレイはそっと静かに笑った。

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2010.11.27

無自覚すぎです。

手と言ったら繋ぐ事しか思いつかなかった。

…おや?若干いい雰囲気??

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