お題<book> 1

□隣同士がいちばん自然
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「ルーシィ!!」

飛び込んできたナツに開口一番叫ばれて。

がたん、とイスを鳴らして立ち上がるルーシィ。



「な…っ、何よ…っ!」

「ルーシィに話があるんだ!」



今まで逃げの一手だったナツが突然、正面からやってきた事に対応が遅れて。

立ち上がったまま、その場に立ち尽くす。

そんなルーシィの様子にお構いなしのナツ。



「この間のキ…」

「いやぁぁぁっ!こんな所でその話しないでっ!!」



ルーシィは、ナツが言わんとしている事に気付いて、必死で止める。

ここはみんながいるギルドなのだ。

しかも、最近避け続けていたナツの態度が豹変した事に、明らかに周りは興味津々で注目している。

そんな中でもし「キスした」なんて言われたらどうなるか。



最悪の事態を察知して。

ルーシィは猛ダッシュでギルドから飛び出す。



「待てよっ!ルーシィっ!!」



遅れをとるまいと、ナツも瞬時にその後をついて飛び出していく。

突然の出来事に、“何だアレ…”と取り残された面々は呆然と見送ったが。

でも、とにかく何か面白い事が起きそうだと、事の成り行きを楽しみに見送った。







「待てってば!!」

「いやよっ!!」



必死に逃げるルーシィに。

それを全力で追いかけるナツ。

俊敏力には定評のあるナツだ。



「逃げるなって!」



間もなく、ルーシィの腕を掴まえる。



「離してよ…っ!」

「イヤだっ!」



ルーシィは、掴まれた腕を必死でふりほどこうと暴れるが。

まがいなりにも男の腕力。

女の力でふりほどける訳はない。



「何で逃げるんだよっ」



暴れるルーシィを必死で押さえ込んで。

もう片方の腕も掴まえる。

それでもルーシィは暴れるのを止めない。



「ルーシィ!!」



大声に驚いたのか。

びくっ、と体を揺らして動きを止める。

でも、視線は絶対に合わすまいと、必死に顔は背けたまま。



―…何言えばいいんだっけ?



掴まえた事にほっとしたのもつかの間。

何を言ったらいいのか分からない事に気付いて。

ナツは心底焦った。



この間の事を、ちゃんと謝って。

許してもらおうと思っていた。

でも、改めてソレをきり出そうと思うと…。



―…どうしたらいいのか分からねぇ!



腕を掴んだまま、固まってしまう。



キスしてごめんって言えばいいのだろうか。

でも、何でしたのかって聞かれたら。

まだ答えは出ていない。

理由もなくしたなんて言ったら。

余計、ルーシィを怒らせてしまうだろう。



どうしたらいい。

何て言えばいい。



「…う〜……」



腕を掴んだまま、何も言わないナツに。

そろそろと様子を伺うようにルーシィが顔を上げる。



「…何が言いたいのよ」



明らかに慌てているナツに、少しだけ冷静を取り戻す。

とはいえ、両手を掴まれたままなのは。

少し、いやかなり居心地が悪い。



「逃げないから、とにかく手、離して」

そう告げるルーシィに。



「絶対にイヤだっ!」

ナツは、はっきりと拒絶を示す。

ルーシィを見つめて。



でも。

やっぱり。



「あ〜…」



言い淀むばかりのナツに。

ルーシィはため息をつくと、力を抜いた。

ナツが何を言おうとしているのか、何となく分かる。

言い出せずに思いあぐねているのだろう。



―…仕方がないなぁ。



「もういいよ、ナツ」

「あ?」

「もう、忘れよ」



あの出来事は、事故だった。

理由などない。

たまたま遭遇してしまった“不慮の事故”なのだ。

そう考えれば、納得できるかもしれない。



「無かったことにすれば…」

「嫌だっ!」



ナツにはっきりと拒絶されて、驚く。

その表情は、まるで怒っているかのようだ。



「違う。そんなんじゃ、ない。違う…」



何か必死に言葉を探している様子のナツ。

眉をへの字にして。

視線を左右に泳がせて。

ぱっと、何かを思いついたような表情をしたかと思えば。

また瞬時にしかめっ面に戻る。

そんなナツの様子を見ていたルーシィ。



「…ぷっ」



日頃、己の欲望に驚くほど忠実で。

よく言えば一直線なナツが。



「なっ、何だよっ。笑うなっ」

「あー、はいはい。分かったから」



一生懸命、考えて。

うんうん唸っているなんて。



その必死な姿に、毒気を抜かれたルーシィは。

堪えきれずにくすくすと笑い続ける。

“笑うなよっ”なんて、むくれていたナツも。

そんなルーシィを見ながら、“ふんっ”と笑った。





同士がいちばん自然※





「なぁ、ルーシィ。オレ…」

「ストーップ」

何か言いかけたナツを、ルーシィは手で制する。



「もういいわよ、ホントに」

「でも…っ」

「もう、いいの」



ん〜、と背伸びをしながらルーシィは後ろを振り返る。

1歩後ろからついていくナツは。

まだどこかすっきりしない顔。



「理由が分かったら、またその時は教えてよ」



ナツがキスした理由も。

無かったことにしたくないと怒った理由も。

気にならないと言ったら、嘘になるけど。

それよりも、今は。



「早く仕事しましょ。家賃払えなくなっちゃう」



ナツが隣に居る。

ナツの隣に、私が居る。

それでいいと思えるから。



「先に行くからね〜!」

「ま、待てよっ」



突然走り出したルーシィを。

慌てて追いかけるナツ。



何かとても大切な事を言わなきゃいけないのに。

それが何かやっぱり分からなくて。

何かが胸に引っかかってるみたいで気になるけど。



「待てって!ルーシィ!」



笑いながら逃げるルーシィの笑顔が、嬉しくて。

その後ろを走りながら、にかっと笑った。

*******************

2010.11.17

「うふふ〜掴まえてごらんなさい〜」「まてよ〜」的な?(爆)

何だか最後が浜辺で追いかけっこするバカップルみたいに;;

ナツはやっぱりにぶちんですが。

ルーシィもあまり自覚ないままです。

全然進展しなさそうだなぁ、この2人。

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