お題<book> 1
□隣同士がいちばん自然
1ページ/1ページ
「ルーシィ!!」
飛び込んできたナツに開口一番叫ばれて。
がたん、とイスを鳴らして立ち上がるルーシィ。
「な…っ、何よ…っ!」
「ルーシィに話があるんだ!」
今まで逃げの一手だったナツが突然、正面からやってきた事に対応が遅れて。
立ち上がったまま、その場に立ち尽くす。
そんなルーシィの様子にお構いなしのナツ。
「この間のキ…」
「いやぁぁぁっ!こんな所でその話しないでっ!!」
ルーシィは、ナツが言わんとしている事に気付いて、必死で止める。
ここはみんながいるギルドなのだ。
しかも、最近避け続けていたナツの態度が豹変した事に、明らかに周りは興味津々で注目している。
そんな中でもし「キスした」なんて言われたらどうなるか。
最悪の事態を察知して。
ルーシィは猛ダッシュでギルドから飛び出す。
「待てよっ!ルーシィっ!!」
遅れをとるまいと、ナツも瞬時にその後をついて飛び出していく。
突然の出来事に、“何だアレ…”と取り残された面々は呆然と見送ったが。
でも、とにかく何か面白い事が起きそうだと、事の成り行きを楽しみに見送った。
*
「待てってば!!」
「いやよっ!!」
必死に逃げるルーシィに。
それを全力で追いかけるナツ。
俊敏力には定評のあるナツだ。
「逃げるなって!」
間もなく、ルーシィの腕を掴まえる。
「離してよ…っ!」
「イヤだっ!」
ルーシィは、掴まれた腕を必死でふりほどこうと暴れるが。
まがいなりにも男の腕力。
女の力でふりほどける訳はない。
「何で逃げるんだよっ」
暴れるルーシィを必死で押さえ込んで。
もう片方の腕も掴まえる。
それでもルーシィは暴れるのを止めない。
「ルーシィ!!」
大声に驚いたのか。
びくっ、と体を揺らして動きを止める。
でも、視線は絶対に合わすまいと、必死に顔は背けたまま。
―…何言えばいいんだっけ?
掴まえた事にほっとしたのもつかの間。
何を言ったらいいのか分からない事に気付いて。
ナツは心底焦った。
この間の事を、ちゃんと謝って。
許してもらおうと思っていた。
でも、改めてソレをきり出そうと思うと…。
―…どうしたらいいのか分からねぇ!
腕を掴んだまま、固まってしまう。
キスしてごめんって言えばいいのだろうか。
でも、何でしたのかって聞かれたら。
まだ答えは出ていない。
理由もなくしたなんて言ったら。
余計、ルーシィを怒らせてしまうだろう。
どうしたらいい。
何て言えばいい。
「…う〜……」
腕を掴んだまま、何も言わないナツに。
そろそろと様子を伺うようにルーシィが顔を上げる。
「…何が言いたいのよ」
明らかに慌てているナツに、少しだけ冷静を取り戻す。
とはいえ、両手を掴まれたままなのは。
少し、いやかなり居心地が悪い。
「逃げないから、とにかく手、離して」
そう告げるルーシィに。
「絶対にイヤだっ!」
ナツは、はっきりと拒絶を示す。
ルーシィを見つめて。
でも。
やっぱり。
「あ〜…」
言い淀むばかりのナツに。
ルーシィはため息をつくと、力を抜いた。
ナツが何を言おうとしているのか、何となく分かる。
言い出せずに思いあぐねているのだろう。
―…仕方がないなぁ。
「もういいよ、ナツ」
「あ?」
「もう、忘れよ」
あの出来事は、事故だった。
理由などない。
たまたま遭遇してしまった“不慮の事故”なのだ。
そう考えれば、納得できるかもしれない。
「無かったことにすれば…」
「嫌だっ!」
ナツにはっきりと拒絶されて、驚く。
その表情は、まるで怒っているかのようだ。
「違う。そんなんじゃ、ない。違う…」
何か必死に言葉を探している様子のナツ。
眉をへの字にして。
視線を左右に泳がせて。
ぱっと、何かを思いついたような表情をしたかと思えば。
また瞬時にしかめっ面に戻る。
そんなナツの様子を見ていたルーシィ。
「…ぷっ」
日頃、己の欲望に驚くほど忠実で。
よく言えば一直線なナツが。
「なっ、何だよっ。笑うなっ」
「あー、はいはい。分かったから」
一生懸命、考えて。
うんうん唸っているなんて。
その必死な姿に、毒気を抜かれたルーシィは。
堪えきれずにくすくすと笑い続ける。
“笑うなよっ”なんて、むくれていたナツも。
そんなルーシィを見ながら、“ふんっ”と笑った。
※隣同士がいちばん自然※
「なぁ、ルーシィ。オレ…」
「ストーップ」
何か言いかけたナツを、ルーシィは手で制する。
「もういいわよ、ホントに」
「でも…っ」
「もう、いいの」
ん〜、と背伸びをしながらルーシィは後ろを振り返る。
1歩後ろからついていくナツは。
まだどこかすっきりしない顔。
「理由が分かったら、またその時は教えてよ」
ナツがキスした理由も。
無かったことにしたくないと怒った理由も。
気にならないと言ったら、嘘になるけど。
それよりも、今は。
「早く仕事しましょ。家賃払えなくなっちゃう」
ナツが隣に居る。
ナツの隣に、私が居る。
それでいいと思えるから。
「先に行くからね〜!」
「ま、待てよっ」
突然走り出したルーシィを。
慌てて追いかけるナツ。
何かとても大切な事を言わなきゃいけないのに。
それが何かやっぱり分からなくて。
何かが胸に引っかかってるみたいで気になるけど。
「待てって!ルーシィ!」
笑いながら逃げるルーシィの笑顔が、嬉しくて。
その後ろを走りながら、にかっと笑った。
*******************
2010.11.17
「うふふ〜掴まえてごらんなさい〜」「まてよ〜」的な?(爆)
何だか最後が浜辺で追いかけっこするバカップルみたいに;;
ナツはやっぱりにぶちんですが。
ルーシィもあまり自覚ないままです。
全然進展しなさそうだなぁ、この2人。