お題<book> 1

□平行線をたどる日々
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「おは…、げっ!」

私の顔を見ると同時に猛ダッシュで飛び出していくナツ。



「どうしたんだぁ?ナツの奴」

そんなナツを不思議そうに見送るグレイ。

理由を知ってか知らずか。

グレイに話を振られてドキッとする。



「さ…さぁ?知らないっ」



焦る気持ちを悟られないようにと。

冷静を装ってグラスを手に取り、一気に飲み干した。

“ふぅん?”と横目でチラ見してるグレイには気付かないフリ。



―…逃げる立場なのは、私の方でしょう!?



ぶつけどころのない怒りにむかむかしながら。

片肘ついたまま“ふんっ”と息を吐き出した。





行線をたどる日々※





「なんで私が避けられなきゃいけないのよ!ね、プルー?」

「ぷ、ぷぷーん?」

ぽてぽてと小走りについて来るプルー。

ずんずんと歩く私の速度に必死なのは分かっているが。

それでも歩みを止められない。



―…あの、バカ!!



「あー!」だの「うっ」だの。

人の顔見るたびに意味不明な叫び声を上げて。

忽然とその場から姿を消して。



「まるで私が悪いみたいじゃない!?」



事情を知らないギルドのみんなから。

「一体何をしたんだ?」とか。

「あのナツが逃げるなんて」とか。

「その技を教えてくれ!」とか。

もうそれこそ山のような質問とスカウトを受けて。

愛想笑いで誤魔化すのに苦労したのだ。



おかげでこっちはストレス溜まって爆発寸前。



「あ〜…、もうっ!!」



部屋に着いて早々、ぼふん、とベッドに飛び込んで顔を埋める。

先日、天日干ししたばかりの布団は。

ふかふかとして、私の体を柔らかく受け止めてくれて。

とても、気持ちがいい。



一瞬、その心地よさに嫌なことを忘れて。

思いっ切り息を吸い込んだ。



途端。



胸いっぱいに飛び込んできた覚えがある香りに。

不覚にも、ドキリとして。



「…あ〜……」

脱力して、布団に深く沈みこんだ。



胸いっぱいに飛び込んできたのは。

温かくて眩しくて光溢れる、お日様の香り。

あの無作法で粗野で無神経な桜色の。

イラッとするような、それでいてどこかほっとする。

ナツらしい、ナツにしかない。

まっさらで真っ直ぐな香り。



「何やってんのよ、ナツ…」



そっと、唇に指で触れる。

キスされた事はとても驚いたし。

今でもどきどきする、けど。



恨んでいるかと問われれば。

答えは…、“No”だ。



「…何でかなぁ〜」



好き、なのだろうか。

ナツの事を。

『男』として。『女』として。



―…なんだか、それも違う気がする。



『大切な仲間』だけど。

『特別な相手』ではない。



仲間なら、他にも居る。

例えば一番近くにいるのは、グレイ。

顔立ちは悪くないし。

身体的にも、バランスが良いと思う。

(綺麗に筋肉ついてるし)



だからといって、グレイにキスされたら。



「うわ。変な想像しちゃったわ…」



思わず鳥肌が立った気がして、体を抱える。

絶対にありえない。

っていうか、想像した事自体が間違いだ。



ならば。

なぜナツには嫌悪感を抱かないのだろうか。



「はぁ〜…」



解決しそうに無い袋小路の出口探しを諦めて。

ごろんと寝返りを打つと。

そっと瞳を閉じて、静かに眠りへと落ちていった。

********************

2010.11.15

ナツは仲間以上、恋人未満。ってとこで。

グレイを嫌いな訳じゃ、ありませんよ?

対象外なだけです。(あまり違いはない)

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