お題<book> 1

□慌てて離した手
1ページ/1ページ



「ねぇ、ナツ!これ可愛いよ〜」

店先のガラスにべったりと文字通り張り付くルーシィ。

オレは“へいへい”と気のない返事を返す。

途端。

「ちょっと!真剣に見なさいよっ!」

…なんて、怒られた。



仕方ねぇじゃねーか。

興味ないもんはないんだからっ。





※慌てて離した





「なぁ、ルーシィ。いい加減メシ喰おうぜ〜…」

無駄な抵抗だと分かっていても。

くう、と鳴る腹を押さえ込むのも、もう限界。



「まだダメ!」

振り向きざま、じろりとルーシィに睨まれた。



―…睨みたいのはオレの方だっての!



どうしてこうも女ってのは買い物するのが好きなのか。

同じような服とか、同じようなアクセサリーとか。

そんなにあちこち買い込んで、何が楽しいんだか。



人混みでごったがえす休日のマグノリア。

ルーシィに連れられて出てきたものの。

あっちこっちと連れ回される事、数時間。

オレの両手には大量の荷物。



早い話が、荷物持ち。



奢りなんて言葉の裏をようやく思い知っても。

後の祭りだ。



そもそも。

「ナツ、ご飯奢って上げる!」

なんてルーシィの怪しい誘いに乗ったのが間違いだったんだ。

ルーシィが何もなく奢る訳なんかないって、考えなくても分かる事なのに。

“奢り”の2文字に飛びついた浅はかなオレ。

今更ながら、単純すぎる自分の脳細胞を恨む。



「あぁ〜…」



いい加減、両手に荷物を持ち続けているのにも疲れて。

荷物を置いて、しゃがみ込む。

視線の先にいるルーシィは。

相変わらず、きゃーだのいやーだの騒いでる。

ホント、あの調子ではいつ買い物が終わるのやら。



もういっその事、荷物を放り出して。

ひとりで飯喰いに行ってやろうか。



はぁ〜と何度めか分からないため息を付いて、視線を外し。

もう一度、視線を上げると。



―…あれ、ルーシィがいねぇ。



さっきまで、店先にいたルーシィの姿が。

忽然と消えてる。

きょろりと周辺を見渡すと。



「ナツ〜助けて〜!」



どこからきたのか、団体ご一行様の列に巻き込まれて流されてるルーシィの姿。

何とか抜け出そうともがいているようだが、どんどん離れていくばかり。

おいおい、今時それはないだろ。…なんて突っ込みを入れたい気分だが。



「…ったく」



ずかずかとその団体に近寄って、ルーシィの手を掴まえ引きずり出す。

“何やってんだよ”と文句を言えば。

「ごめんね」

と小さく返事が返ってきた。



―…どっか抜けてんだよなぁ。



いつもは気が強くてしっかりしてんのに。

変なところで気が弱いってか、気にするっていうか。

ホント、相変わらず変な奴。



「とりあえず、メシ喰いに行こうぜ〜」



ルーシィの手を掴んだまま、ずんずんと歩き出す。

もういい加減、空腹を我慢するのも限界だ。



「ね、ちょっと、ナツ!」

「あ?」

「て、ててて手、離してっ」

「手ぇ?」

そういや、引っ張りだした時に掴んだままだったのを思い出す。

振り返れば、真っ赤になったルーシィの顔。

…なんで?



「いいから、とりあえず離して…っ」

どんどん真っ赤になってく顔。

日頃、あまり見ることがないそんな顔が面白くて。

わざと、ぎゅっと手に力を入れる。



「ナツっ!」

…おもしれぇ。



慌てて真っ赤になっていくルーシィをもっと見ていたくて。

必死に離そうと足掻く手を、離すまいと指を絡めた。



…うっわ。



突然、指越しに伝わってきたその柔らかい感触に。

一瞬どきっとして。

絡めた指をとっさに手を離した。



いきなり自由になった手を不思議そうにしながら、ルーシィが手をかばうように後ろに隠す。

まだ見たいような気がするソレを隠されて、少し残念なような気がするが。

それよりも。



―…なんだよ、コレ。



未だどきどきしている胸を押さえて。

ん〜?とひとり首を傾げた。

********************

2010.11.11

普通に手を握るだけより、指を絡めた時ってちょっと違う感じがしません?

女の子の手はぷにぷにしてますよね〜って事で。

ナツが持ってた荷物はどこへ?…って突っ込みはなしでよろしくです。(笑)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ