お題<book> 1

□ありがとう
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「昔から“人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじゃえ”って言わない?」



相変わらずの柔軟な笑顔。

だが、そのにこにこ顔の割には。



「口調と違って、殺気が漂ってるぜ。ロキさんよ」



足元に落とした煙草を踏み消しながら、もたれていた木から身を起こす。

やっと現れた待ち合わせの主。

ロキもとい、ルーシィの星霊、獅子宮のレオ。





※ありがとう / 君にお礼を言いたかったこと





「随分とゆっくりだったな」

待ち合わせの指定時刻は、今よりも一時間も前だ。

余程途中で帰ってやろうかと思ったが。



「彼女達が離してくれなくてね」

モテる男は辛いのさっ、なんて。

相変わらず“ロキ”の姿勢を崩さない。

多分、こうくるだろうと予想はしていたから。

俺は俺なりに考えていた手を使わせてもらうだけ。



少し離れた場所で足を止めてしまったロキ。

正面に見えるロキの表情は、相変わらずで。

その余裕の笑顔が消える瞬間を想像しながら。

1歩、足を踏み出した。



「まぁ、そちらがそれで楽しければ」

1歩、2歩、3歩。ロキは動かない。



「俺は別にそれでいいんだけどね」

徐々に近付く顔にも、変化はない。



「誰かさんがバカやるだけなら放っておくんだけど」

あと1歩でぶつかる程近くまで寄って足を止めて。



「それが辛いと泣く人がいるんでね」

スレスレの距離で目を覗き込む。

だが、微塵も動じない。

ついでに、その笑顔も剥がれ落ちない。





―むかつく。





「…ルーシィは、俺がもらう」

ぴくり、と初めて反応した。

だが無言。



俺も無言。



しばらく無言のまま立ち竦んでいたが。…飽きた。

ひょいと覗き込んでいた視線を外す。



「まっ、言いたいのはそれだけだから」



わざわざ呼び出してすまなかったな〜、なんて背を向けて。

ロキのいる場所と反対方向へ足を踏み出て。

まだ動かない背後の気配に、イライラして。



「あ、そうそう」



“人の恋路を邪魔する奴は…なんだっけねぇ。ま、そういう事だから”

そう、付け足した。





「…お前に、何が分かる…」

ぼそっと聞こえた、小さな声。



「お前に、ルーシィの何が分かるって言うんだ!」

いきなり、背後から後の襟首を掴まれ、引っ張られ。

危うく転倒しそうになるが、踏ん張って。

身を翻し様、相手の両手首を掴まえた。



「さぁねぇ。何だと思う?」



振りほどこうとする力と、押さえ込む力がぶつかって。

ぎりぎりと締め付ける音を立てる。

掴まえられた側のロキの手首は、少しだけ血の気が失せ始めて、白い。



「ルーシィは僕のものだ。誰にも渡さない!」

「ほー、そうかい。でもルーシィはどうだろなっ」

「…何を…っ」

「ハーレムしたいんなら、ルーシィの見えないところでやれよっ」



途端、バンッ!!と、すごい勢いで手を払われた。



「あんなもの、どうでもいいさ!!」

全身から吐き出すような叫び。

まだだ。まだ足りない。



「じゃあ何か?ルーシィに見せ付ける為か?」

「違うっ!」

「いーやっ、違わないねっ!」

「何を根拠にっ」

「じゃあ何でわざとルーシィを傷付ける!?」



「傷付けたくなんかない!!」

「じゃあ何だよっ!」




「いつでも、どこでも、何をしていても!

 僕だけを見ていて欲しいんだ…っ!





 …ただ…それだけなんだよ…っ!!」






「…やっと言ったな」

正面にある顔を見つめてにやりと笑う。

叫んだせいか息切れしているロキ。

肩で荒い呼吸を繰り返し、俺の目を見つめ返す。



「正直にそう言やいいじゃねぇか」

まったく、世話の焼ける。



「でも、彼女を束縛したくは、…ない」

「キレイゴトだな」

「それでも僕は…彼女が真剣に机に向かう姿も、好きなんだ」

「で、ハーレムか?違うんじゃねぇの?」

それでルーシィが離れていったら、元も子もないだろ。

変なとこで遠慮して。

変なとこで意地張って。

まったく、どうしようもないな。



「あんな事やってたら、間違いなくルーシィは離れていくぜ?いいのか?それで」



俺から取り返した腕を握り締め、立ち尽くすロキ。

手が白く変色する程の力で拳を作っている。

ギリッと唇を噛み締めて。

その顔色は、まさしく“蒼白”。



「ルーシィは…、僕の、もの、だ…」



ぽつりぽつりと、一言ずつ口にして。



「絶対に、誰にも渡さないっ!」



揺らいでいた瞳に、強い意志が灯る。

あぁ、それでいい。

そうじゃなきゃ、俺のライバルには物足りない。



「ぐだぐだひとりで考えるより、ちゃんと2人で話し合えよ」







「なぁ、ルーシィ!!」







「ロキ…」

俺の背後の木の陰から、ルーシィが姿を表す。

「…なっ」

驚愕の表情で固まるロキ。

ルーシィは…、っと、また泣いてる。



「ロキ…ごめっ…ごめんねっ」



タッと駆け寄り、ロキの胸へと飛び込むルーシィ。

その背中にロキの両手が回されたのを確認して。

俺は2人に背を向けた。



―…ったく、やってらんねぇ。



人様の痴話喧嘩に口を挟む趣味はないが。

ルーシィの為だから、仕方ない。

お邪魔虫は早々に退散しますよ。



“ルーシィは俺がもらうぜ。それがイヤなら来い”



ギルドでヤツに、半分、…いやかなり本気で言ったんだけど。

今はまだ、アイツの腕の中。

いつか必ず、奪ってやるから。

今だけはお前に譲ってやるよ。



ルーシィの泣き顔なんか、見たくないからな。



「あー…ガラにもない事やっちまったなぁ」



見上げた青空があまりにも綺麗で。

胸が痛んだのは、きっと…気のせいだ。

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2010.11.08

グレイは案外、面倒見が良いキャラだと思うので。

グレイファンには怒られそうな…。

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