お題<book> 1

□素直じゃないところもかわいい
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―コンコン。

「おーい、ルーシィ。いるんだろ?」

部屋の中からは、明らかに人の気配。

あえて開けないつもりなのか。

「おーい。開けねぇとここでお前の恥ずかしいあれやこれや…」



途端、バンッ!と勢いよく開いたドア。

出てきた部屋の主は、殺気立った視線を俺に向けて。

全身からは怒りが滲み出していた。



が。



キャミソールとハーフパンツという薄着で飛び出してきたルーシィ。

俺の頭の中にあった、どう弁解しようかとあれやこれや考えていた事すべて吹っ飛んで。

ついでにからかうのも忘れて、思わず息を呑んだのは…悲しき男の性なのか。



「何か用!?」



そんな俺の葛藤を知ってか知らずか、ズイッと更に踏み寄ってくるルーシィ。

キャミソールから見える胸元が…。

駄目だ。駄目だ。見ちゃ駄目なんだっ。



「とっとにかく、中、入れてくれよ」



彼女はふんっ、と荒い息ひとつ。

「どーぞ!」

部屋へと戻るルーシィの後に付いて部屋へと入る。

相変わらずきちんと片付けられた部屋。

女の子らしい装飾品の数々。

脱いだ服が散乱している俺の部屋とは大違いだ。なんて考えながら促されるままにソファに座った。



「で、何の用?」



テーブルに片肘付いて、顎を乗せてこちらをじろりとひと睨み。

空いている片手の指はトントンと忙しなくテーブルを叩く。



―…かなり怒ってるなぁ…。



ここへ向かう道すがら、理由をずーっと考えてた。

大人ぶろうとしてるルーシィをからかったのがいけなかったのか?

それとも、煙草を勧める事自体が駄目だったのか?

でも、ルーシィの態度は少なくとも“拒絶”ではなかった。

明らかに拒絶されているのならば、いくら鈍い俺でも気付く。

じゃ、一体何が彼女を怒らせたのだろう。



「ルーシィ、怒ってる、な?」

「そーよっ!だから何!?」

「あー…いや…」

ここは一発、殴られる覚悟をした方が良さそうだ。



「何で怒ってるのかなー…と」



間髪入れず。

ひゅーん、ぱりーん。

俺の顔の横スレスレを通過したモノが、壁に当たって砕け散る音。

恐る恐る確認すれば、見事に散乱したガラスの破片。

多分、大きさから想像して…。



「花瓶!?」

「何で避けるのよっ!」



避けられた事にすら腹立たしそうなルーシィ。

いや、いくら何でもアレは。

「あんなの、避けなきゃ死んじまうだろーがっ」

「死ぬ訳ないでしょう、花瓶ぐらいで!」



あぁぁぁ。

ぶっ飛んでます、ルーシィ嬢。



ダレカタスケテ。



本気で殺されるかも、と思い始めた矢先。

ルーシィがくるりと背を向けた。



「もういい。だから、帰って」



突然の、あからさまな“拒絶”。

「ちょっと、待てって」

考えるより先に、体が動いた。

「どうしたんだよ、一体」

ソファから立ち上がって、ルーシィへ駆け寄って。

その勢いのまま、肩を抱いた。

思っていたよりも細くか弱いその肩に、どきっとして。

一瞬、反射的に手を離しそうになるけど…何となく離すのが勿体無くて。

動揺している事を必死に隠して、話しかけた。



「俺が怒らせたのなら、謝る。ごめん」

暴れるかと思ったけど、ルーシィはじっとしたままで。

「理由分からなくて、ごめん」

ぴくり、と体が揺れて。

「でも、同じ事してまたルーシィ傷付けたくないから。教えてくれ」

ゆっくりとルーシィの頭が俯き沈み。



「ホント、ごめんな…」



ルーシィは、沈黙のまま。

返事を促す為にぎゅっと少し力を入れる。

ぴくんと揺れた体。

それでもまだ何も言わない。



沈黙に耐えかねて、俺はこつんと額をルーシィの頭に乗せた。



「…なんで、アンタはこんな事してんのよ」

重く、小さな声で返事が返ってくる。

「何でって…」

「ご機嫌取りに、誰にでもこんなことしてる訳?」

「んな訳あるか」

ロキじゃあるまいし。

女を抱き締めて怒りを逸らすなんて、そんな器用な事できない。



「じゃあ、何よ」



何で?そんな事言われても…良く分からない。

ただ、ルーシィが怒ってるのが分かって、原因は俺で。

俺のせいだって思うと、我慢できなくて。



「ルーシィが怒ってるの、嫌だから」

それは本心で。それと…。



「俺が、離したくないから」



抱き締めた肩を、動揺を押さえ込んでまで離せずにいる。

せっかく、掴まえたルーシィの体を。

離したくない。離れたくない。

つまりは、そういう事で。



「あ…?」



あぁ、しまった。

いきなりこんな所で気付くなんて。



「何よ、ソレ…」



少しだけルーシィの雰囲気が、和らいだ。

声が気持ち明るくなってるのは、気のせいじゃない。

それはきっと。



「なぁ、ルーシィ」



耳元へと口を寄せて。



「俺の事、好きか…?」



途端、いきなりじたばたと暴れ始めるルーシィ。

でも俺はそんな簡単には離しはしない。



「なっ、なにをフザケたことを言ってんのよっ!私がグレイを好きだなんてどこをどうとったらそうなんのよっ!」



必死で逃げ出そうともがきながら、叫ぶルーシィ。

その横顔は、明らかに…そう、真っ赤。

やっぱり、コイツ可愛い。

意地っ張りで、素直じゃないけど。



「俺は、ルーシィの事。…好きだ」



そっと囁けば、ぴたりと動きが止まる。



「嘘だ…」

「嘘じゃねぇよ」

「…ホントに…?」

「あぁ」



ちょっかいかけたくて仕方なかった。

それはルーシィの喜怒哀楽を俺が生み出せるって事が、嬉しかったんだ。



「なぁ、ルーシィ」



“俺の事、好きだろう…?”



確認の為に告げた言葉に、否定はなく。

小さくこくりと頷いたルーシィ。

俺はその体を、ぎゅっと強く抱き締めた。



俺が手に入れた宝物。

気付くのは遅かったけど。

手遅れにはならなくて、良かった。





※素直じゃないところもかわいい※





「うううう嘘だったら許さないからねっ!」

「本当に嘘じゃねーよ」

「ホントの本当に、すすす」

「好きだって。ルーシィの事」

「うっ!なんでそんな事を恥ずかしげもなく…」

「あぁそうだ、ルーシィ」

ふと思い出した。

「何?」

「俺の煙草、どうしたんだ?」

「すっ、捨てたわよっ、当たり前でしょ!」

ぷいっ、とそっぽを向かれてしまった。



…ちぇー、なんだ。



ちょっと残念だな、なんて思ったのはルーシィには秘密だ。

********************

2010.10.29

長くなってしまったよ。ほほーい。

グレイはきっと自分の事には鈍感だと思うのです。

そして、素直じゃないのはお互い様なのです。

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