お題<book> 1

□試すような真似しても無駄
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理由なんて必要ない。

ただ、1歩。

ほんの少しだけ。

アナタに近付きたいと思ったの。





※試すような真似しても無駄※





「なぁなぁ、パクッた煙草、どーしたんだよ?」



カウンターでひとり座るルーシィの隣へと腰を下ろす。

ぎくっ、とあからさまに逃げの体勢。

分かりやすくて、単純に面白い。



「ああぁ?なななな何の事かしらねぇえええ??」

ルーシィの視線は、虚空を睨んで右往左往。



「だーかーら」

つい、とルーシィの耳元へと口を寄せる。



“俺の吸いかけだった、煙草。ルーシィが持ってったヤツ”



「あああアンタの煙草なんて知らないわよっ!」

俺が囁きかけた耳を両手で押さえて。

真っ赤な顔をして。



「グレイのバカーっ!!」



つい先日も聞いたばかりのセリフを叫びながら。

またもやルーシィはギルドを飛び出していった。



―…くっくっく。面白くて仕方ねぇ。



一生懸命、背伸びしようとする姿。

それを悟られまいと必死で。

でも顔は真っ赤なままで。

子供ですーって言ってる様なもんだよなぁ。



「ちょっと、グレイ。あまりルーシィをからかっちゃ駄目よ?」

カウンターの向こうから話しかけてくるミラジェーン。

「だって、面白いんだよなぁ」

明らかに大人ぶろうとしていて。

そのくせ、単純ですぐ素が出て。

なのにまた突っかかってくる。

おこちゃま、とまではいかないが。

からかっていると楽しいのは事実。



「…ルーシィをおもちゃにするだけなら止めてあげてね」

明らかに声質が変わったミラを、思わず見返す。

さっきまでの笑顔は消えて、少し悲しそうな表情を浮かべていた。



「おもちゃって、どういう意味だよ」

「ルーシィは、見た目ほど強くはないのよ」

「んなこたぁ知ってるさ」

ギルドが攻撃された時。

自分のせいだと、己をただひたすら責めて泣いて苦しんでいた。

きっと、ギルドの誰よりも優しく、そして脆い存在。

「なら!」

ばんっ、とカミラは両手をウンターへ叩きつけて。

しばらくの間、じっと俺の顔を見続けた。

その瞳には、怒りとも取れる色が浮かんでいたが。



「…何言いてぇのかわかんねーよ」



ゆっくりと視線を外し、カタン、とイスから立ち上がる。

後から、ミラの呼ぶ声が聞こえたが…。

今は何だか聞きたくない気分だった。





「ルーシィ、かー…」

木の幹に寄りかかり、吹き抜ける風を受ける。

乾燥した秋風が肌を触る感覚は、とても気持ちがいい。

ぼんやりと空を見ながら、ミラに言われた言葉を思い出していた。



おもちゃにしてるとか。

軽く扱ってるとか。

そんなつもりはまったくないつもりでいたけど。

傍から見たら、そう見えるのだろうか…?



ルーシィは、同じギルドの仲間で。

最近は、いつもつるんで仕事に行くチームで。

(ナツとかエルザも一緒だけれど)

最初こそ“こいつ本当に一緒に仕事できんのか?”なんて思ってたけど。

その負けん気の強さと信念に感心して。

今では“頼もしい仲間”だと思ってるのに。



「あー…何だってんだ一体…」



俺の態度のどこが悪いんだ?

からかってると言ったって、それはルーシィに限った事ではないだろう。

他にもギルドのメンバーに軽口叩くぐらい、良くある事。

それとも、ルーシィにだけ言ってはいけない地雷でもあるのか?



―…わからねぇ。



ひたすら考えても結論は出そうになくて。

頭の中でぐるぐる回る出口の見えない質問に頭を抱えて。

頂点にいた太陽が、地平線近くまで傾いた頃。

ばっと木の幹から体を起こし、走り出した。

目的地は、ルーシィの部屋。



何か俺の事で言いたい事があるなら、直接言ってもらおう。

それが一番の近道だから、と。



単純で安直だと言われればそれまでだけど。

今はそれが一番いい方法だと思って。



薄暗くなり始めた街を抜けて、ルーシィの部屋へと急いだ。

********************

2010.10.27

珍しく続いている感じで終わってしまいました。

1話区切りで書くスタンスで来たのですが…。

ここで区切り的に良いかなぁ〜と思ってぶった切りました。

気にしていないと言いつつ、ミラの一言が気になって仕方ないグレイ。

無自覚ですが、ルーシィを意識してます。あぃ。

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