お題<book> 1

□顔真っ赤にして否定されても
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「ねぇねぇ、グレイ」

なんて彼女が話しかけてきたのは、昼下がりのギルドでの事。

遅めの昼食を摂った俺の横へ、顔をひょいと覗かせる。

その視線は、俺の手元。

「ソレ…美味しいの?」

あぁ…、と細く白い煙を出す煙草を軽く持ち上げる。

美味しいかと問われれば。



「さぁな〜…」

曖昧な返事しか返せない。



「何それ。美味しくないのに吸ってるの?」

軽くムッとしたような表情を浮かべる。

別に誤魔化した訳でも、からかった訳でもないんだが。



「何となく、な」

「ふぅん」

まだ納得してないって表情のルーシィ。

拗ねたみたいなその顔が可愛くて。

思わず。



「ぷっ」

…しまった。と思ったが時すでに遅し。



「やっぱりからかってるっ!」

「からかってないって」

「嘘っ!」

「嘘ついてどーすんだよ」



やれやれ、と思わずため息が出る。

一度怒りだした彼女を鎮めるのは至難の技。

さて、どうしたものか…。



「ルーシィも、コレ吸ってみるか?」



同じ経験すれば分かるだろう、なんて。

軽く考えていたのだが。



「…えっ」

途端、ぼっと赤くなるルーシィの顔。

…なんで?

「そっ、そんな別にアンタが吸ってるのに興味あるとかじゃ…っ」

慌てて否定するルーシィ。

怒っていた事も忘れてあたふたとするその姿が可愛くて。



「…何にやにや笑ってんのよ」



しまった第二段。

煙草を吸うフリして、口元を隠す。

彼女は、むぅ、としばらく唸っていたが。



「…ん」



すい、と手を出してくる。

新品が入った箱を差し出そうとして…止めた。

その手をぐいっと引き寄せる。



すとんっ。



胸元へ収まった彼女の口元に。

吸いかけの煙草を差し出す。



「ほれ」



途端、口をぱくぱくさせて。

真っ赤な顔して。

声にならない叫び声を上げる事、数秒。




「…グ……ばっ」


「あ?」





「グレイの、バカーっ!!」





どんっ、と突き飛ばされて。

よろめいた隙に、猛ダッシュで逃げられた。

必死なその後ろ姿がまた可愛くて。



「くっくっく」



ひとり笑う。

ひとしきり笑った後。

さて、と。煙草を口にしようとして。



「あれ?」

煙草が、消えていた。



さっきまで確かに持ってたハズなのに。

テーブルの上とか足下とか見渡してみるけど。

影も形もない。

「んー?」

さっきまで持っていた。

それは確かだ。

じゃ、どこへ?



「…あ?」



もしかして。



「やられたか」



走り去ったルーシィの手に。

見慣れぬ白い物があったような。



「何で煙草なんて持ってくかねぇ」



新しい煙草に火を付けようとして、ふと気付く。

他にも吸ってる奴はいるのに。

なぜ俺のところへ?



“別にあんたが吸ってるものに…”



まさか、ね。



まさか。




「俺の“吸ってる”煙草が欲しかったのか…?」



なーんてね。

自分勝手な想像をしてみたり。



新しい煙草を取り出して、火を付ける。

白い煙が上がって、目を細めた。



…今頃、彼女は俺の煙草を手に、なにしてるんだろうな。



ふーっ、と吐き出した煙が。

ゆらゆらと虚空に消えた。





※顔真っ赤にして否定されても※





「ルーシィはどうかしたのか?」

「どうかしたか?エルザ」

「あっちで、ひとり百面相していたが…」

「へー」



理由は多分、俺だけが知っている。

何だか少しだけ、得した気分。

********************

2010.10.26

ある意味、お約束ネタ?

煙草はニコチン中毒になるだけで、美味しいとかそういうものではないのです。←感想

間接キスに照れるルーシィが書きたかったのにー。

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