お題<book> 1

□狼まであと何秒?
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グレイにとって、ルーシィは同じギルドの仲間で、チームで。

星霊魔導士の彼女を特別だと意識したのは、つい最近の事で。

だから、今、グレイの腕の中にすっぽりと治まっている彼女を自覚した時。



―グレイの頭の中は、真っ白だった。



「…っ、グレイ、ちょっと、いい加減離して…っ」

ルーシィに突っぱねられて、ハッと我に返る。

「ご、ごめんっ!」

慌てて離れて、自分の行為を改めて自覚したグレイ。

赤いを通り越し、真っ青になった顔を逸らして飛び退いた。

沈黙が2人の間を包む。

しばらく続いたその重い空気を破ったのは、ルーシィだった。



「…今の、何…?」



グレイとは反対の方へと顔を向け、己の両腕で自分の体を抱き締めるルーシィ。

俯いたその口から紡ぎ出された、抑揚のない声。

それを聞いたグレイの背中を冷たいものが伝い落ちて。

グレイは、自分の過ちを自覚する。



ルーシィは、自分のせいで転倒した俺を心配して来てくれただけなのに。

何も言わず、いきなり抱き締めるなんて。



とにかく、謝らないと。

突然、失礼なことしてごめんなって。

無理なのは分かってるけど、無かったことにしてくれって…。



―…“無かった”ことに?

グレイは、自分の考えに凍りついた。



―…俺の、気持ちも無かったことに…?



ルーシィの事を好きな気持ちも。

この胸に強く抱き締めたい気持ちも。

全て、無かったことに。なんて。



そんなことは、…できない。



自覚してしまったから。

分かってしまったから。

ルーシィを、誰よりも好きな事。

仲間とかじゃない、特別な感情を抱いている事。

その気持ちを消す事は、不可能だから。



グレイはぐっと拳を握り締めて、意を決したように顔を上げた。

今言わなかったら、きっとこの先後悔するから。




「ルーシィ、俺は」



ごくり、と喉が鳴る。

逃げ出しそうな自分を必死で奮い立たせ、グレイはゆっくりと口を開いた。



「ルーシィの事が、好きなんだっ!」



そう、あの“可愛い”と思ってしまったあの日よりも以前から。

ずっと君の事がとても気になっていたから。



「好き、なんだ。誰よりも、何よりも。ルーシィの事が」



“突然、ごめんっ!!”

謝罪するグレイに、それを見つめるルーシィ。

その表情からは、彼女の感情を読み取る事ができなくて。

グレイは視線を所在なくさ迷わせ、どうしていいのかわからず立ち尽くす。

無言の時間は、ほんの数分だったのかもしれない。

でも、グレイには永遠に続くような遥か長い時間に感じられて。

その沈黙に耐えられず、口を開こうとした。その時。



とん、と胸の中へ飛び込んできた…ルーシィ。



「ぁ…え?」

ぎゅっと、抱きつかれて。

“何で?”と思う前に、ぎゅっと抱きついてくるその体を反射的に抱き返す。

両腕と胸に感じる温もりが、これが妄想ではないと教えてくれて。

確かめるように、より強く抱き締める。

「…グレイの鈍感」

腕の中からぽつりと小さく聞こえてくる声。

でもそのトーンは、決して怒りとか憎しみとかではなくて。

優しい、いつもの彼女の声で。

「私だって…ずっと前から好きなんだから…」

聞こえるか聞こえないか分からないほどの小さな呟き。

でも、肌の温もりを直に感じる距離にいるグレイの耳にはしっかりと届いていて。



「ルーシィ!!」



強く、強く、抱き締めた。

遠く壁の向こう側にあると思っていた幸せを確かめるように。

彼女から紡ぎだされた言葉が、現実である事を噛み締めながら。





※狼まであと何秒?※




「なぁ、ルーシィ」

「…なに?」



ひそっ。



「〜〜〜〜っ!グレイのバカーーーっ!!」



愛しいルーシィを手に入れたグレイ。

想いを止めていた堰が切れた彼が、彼女へと告げた言葉は…さて、どんな事やら。



********************

2010.10.19

あぁぁ、難産だったぁーーーーーー。

グレイのイメージが固まらなくて、何度もリメイクしているうちに訳が分からなくなってしまった…。

私的には、このグレイは偽者です。

本当のグレイは、ルーシィが部屋へ来た時点で暴走すると思うのです。

無理矢理襲って…っととと。

実は、微裏(という程もヤバくはないが…)的にそちらのバージョンもあるのですが。

でも裏パス請求仕様とかあまり好きではないので…希望者が多ければupします…。

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