お題<book> 1

□きみの心に触れさせて
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君が笑いかけてくれるその笑顔を。

都合よく取ってしまいそうな自分がいる。

これは、何でもない自分勝手な汚れた願望。




※君の心に触れさせて※




最近、ルーシィが俺の近くにいる事が多くなった。

この間の仕事で俺の手伝いが助かったからだって。

何度も何度も自分に言い聞かせてきたけど。

“どうして?”って思ってしまった心を消すことができなくて。

“もしかしたら”って考える。



―…気のせいだ。



ルーシィが以前よりも俺の所へ来るようになった、なんて。

都合良く考えてひとりで浮かれて結果玉砕なんて、そんなみっともない事には、なりたくない。

気にし始めてしまった、彼女との距離。

今はまだ、自分の中へ閉じ込めておかなければ。



「あれ?グレイ、もう帰るの?」



帰る事を気にしてくれる事さえ、嬉しいなんて。

かなりの重症だな…と、思う。

「仕事もねぇし、もう今日は帰って大人しくしてるさ」

だからまた明日な、って立ち去ろうとして。

明日からはひとりで仕事行って、ルーシィと離れていようとかぼんやり考えていて。

だから。

後ろから突然引っ張られて。

「うわっ!」

…対処が遅れて、ひっくり返った。



「ご、ごめん!グレイ、大丈夫?」

俺をひっくり返らせた張本人が、上から覗き込んでくる。

サラサラと流れるその長い金髪が、俺の目の前で揺れて、ふわっと彼女の香りが漂う。



―…っ!!



どきっ、とした。

急激に早くなる鼓動を感じて。

顔から湯気が出てるんじゃないかっていうぐらい、熱くなって。

そんな俺が恥ずかしくて、ルーシィに知られたくなくて。

心配そうな顔をした彼女が差し出してくれた手を。



「なんでもねぇっ!!」



パンッ!と払って立ち上がった。

居ても立っても居られなくて、ギルドから飛び出して街を走り抜けて部屋へと駆け込む。

ドアを閉めて、やっと自分の世界へ帰ってこれた気がしたけど。

まだ、早鐘を打つ鼓動は治まらない。

閉めたばかりのドアに背中を預けてしゃがみ込む。



「あーもう!!どうしたらいいんだよ…っ!」



意識しないようにと考えれば考えるほど、どんどんルーシィが俺の中を占めていく。

ただの仲間だ。一緒に戦うチームなだけなんだって。

そう思う言葉を片っ端から俺の気持ちが否定していく。

仲間じゃない。チームの仲間よりも特別な存在だって。

ぐるぐるぐるぐる。

回すたびに絵柄が変わる万華鏡のように。

心の色が変わっていく。



さっき、ギルドでひっくり返った俺に手を差し出してくれたルーシィ。

俺が払った手を見て、少し傷付いたような悲しそうな表情を浮かべていた。



―…サイテーだな、俺…。



今更ながら、自分のした事の愚かさを痛感する。

赤くなった俺を見られたくなくて。

自分の気持ちを悟られたくなくて。

ルーシィを傷付けた。

明日、ルーシィに顔を合わせたら何て言おう?

そもそも、今回の事でルーシィが俺を避けるようになったら…?



「あぁ、もう!うだうだ悩んでても埒が明かねぇ!とりあえず謝るしかない!」



“でも”、とか、“もし”、とか。

考えていても、答えなんか出る訳がない。

俺はルーシィじゃないんだから。

とにかく、ごめんって謝って、ルーシィが悪いんじゃないって伝えて。

理由は言えないけど。

伝えるだけで、きっと彼女は笑ってくれると思うから。



こう思えば、善は急げ。

ルーシィに会いに行こうとドアを開けると、そこには。



「―…きゃっ!!」



急に開いたドアに驚いて目を見開く、ルーシィの姿。



「…ルーシィ」

「あ、あの、ごめんっ!さっき、転んでどこか怪我しなかった?」



『急に怒って帰っちゃったから…』

小さく呟きながら、ぺこりと頭を下げるルーシィ。



―…ツキン、と胸が痛む。



違う、違うんだ。

ルーシィは何も悪くない。

俺が、卑怯者なだけなんだから。



「ルーシィは悪くない。俺が悪いんだ。ごめん…っ!」

「グレイ!?」



たまらず引き寄せて抱き締めた彼女の体は。

想像してたよりも柔らかく、そして、甘く。

俺の中でまだ形になっていなかったハズの想いを、くっきりと浮かび出させて。



「ルーシィ、俺は…」






その想いが口から紡ぎ出されるには、十分の魔力だった。


********************

2010.10.18

自覚→告白までの流れ。

グレイ視点の独白のみでどうかなぁ…と思いつつ。

グレイファンの皆様にヒンシュクかわないかちょっと不安です…。

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