お題<book> 1

□無意識のゼロセンチ
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「ルーシィです!よろしくっ!」

笑顔で握手を求めてきた見知らぬ顔に、「よろしく」と握手を返した。

ギルドに増えた新しい仲間を歓迎して。




※無意識のゼロセンチ※




「ルーシィ、仕事行こうぜっ!」

「いやよっ!あんたと行くと報酬貰えなくなるんだもん!」

「今度は絶対に大丈夫だ!!」

「って前回も聞いたわよ、そのセリフ!」



ぎゃーぎゃーと言い合うのは、ナツとルーシィ。

最近では、もう見慣れた光景となりつつある、が。

今回のルーシィは、何だかいつもより少し切迫した様子だ。



「私、今週末までに家賃払わないとヤバイのよ!」



そんな言葉が聞こえてきて、あぁ、なるほど…と、納得する。

確か、前回の仕事はどこぞのお偉いさんの護衛だったはず。

破壊が得意なナツには、あまり向いているとは思えない仕事だったから。



「あんたが護衛する人までふっ飛ばしちゃったから、報酬貰えなかったのよ!?」



…それは、何ともご愁傷様な話だ。



「だってー…」

「だっても、なんででもないっ!あんたと仕事に行くなんて、今回だけは絶対にご免よ!」

「ルーシィ、怖ぇ…」

「なに!?」

「…なんでもありません」



ナツと一緒に仕事じゃあ、“破壊しない”なんて難しい…いや、無理だろう。

大変だなぁ、ルーシィ。なんて何となく見ていたら。



バチッ、と視線が合った。

ぽん、と手を打つルーシィ。



…とてつもなく嫌な予感がする。



「ねぇ〜、グ、レ、イ」

暇そうね?…って、笑いながら近寄ってくるルーシィ。

その笑顔が何だか怖い。



「お願いっ!私と一緒に仕事行って!」

…予感的中。

「あぁ?何で俺が」

「いいわよね?暇なんでしょ?はい、決定!」

「おい…」

誰も行くなんて言ってねぇだろ、って言うつもりが。

「行くわよね?」

なんて、何言っても無駄な様子に、「はいはい」と軽く返事を返した。





「あ〜、やっぱりグレイに頼んで正解だったわ!」

受け取った報酬を手に、満面の笑顔のルーシィ。

たいした仕事ではなかったが、まぁ、何とか家賃のピンチを乗り切れるだけの報酬はあったようだ。

「よかったな。それで家賃、払えるんだろ?」

「聞いてたの!?」

「あんな大声で怒鳴ってりゃ、嫌でも聞こえる」

「あははは〜、ごめんね。五月蝿くて」

「別に気にする必要はねぇよ」

さして興味もないし、ただ単に聞こえてきただけだから。

両手をズボンのポケットに入れたまま、のらりくらりと歩く。

ルーシィの歩幅に合わせて。



「グレイって男前ねぇー」

ナツにも見習って欲しいわ!…と拳を握り締めるルーシィ。



…人から褒められる事なんて滅多にないから、何だか少し背中がむずむずする。



「ねぇ、グレイ。また今度、一緒に仕事しない?」

「あぁ?何で」

「何でって」



ルーシィは、とん、と半歩先へ進んでくるりと振り返った。



「グレイと一緒に仕事したいんだもんっ」



…うわっ。

コイツ、こんなに可愛かったっけ…?



俺に向けられた笑顔に、頭がクラリとしたのは…気のせいだと…思いたい。



思わず下を向いた俺に、

「ねぇねぇ。ダメ〜?」

なんて、すぐ近くから声が聞こえてきて。



「…う、わっ!!」



反射的に顔を上げると、すぐ目の前にルーシィの顔。

今いま、“可愛い”なんて思ってしまったその顔が。



…ヤバイ。俺の顔、絶対に赤い。



「わ、分かったから!」

頼むから、離れてくれっ!



俺の切なる願いが通じたのか。

良かった〜なんて笑いながら離れていくルーシィ。

はぁぁぁ、と思わずその場でしゃがみ込んでしまう俺。



今まで何とも思ってなかったハズなのに。



無意識のルーシィに、意識してしまった俺。

ソレの指し示す意味の差は、とても大きくて。








俺は、明日からの彼女との距離に頭を抱えた。


********************

2010.10.17

前半のくだりはいらなかったか…?と今更ながらに思ってみたり。

ルーシィに対して無意識だったグレイが意識するまで。

ルーシィは自分に無頓着そうなので、そのおかげで周りが色々とやられてそうだなぁ、と思うのですが。

次のSSは、グレイ→ルーシィの告白を予定しています。

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