お題<book> 1

□誰にでもスキだらけ
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ルーシィは可愛い。

それも、かなり可愛いと、思う。

それなのに。



「あ…っと、ごめん、落としちゃった」



なんて、床に落ちたトランプを警戒心ゼロで拾うのはやめてくれっ!




※誰にでもスキだらけ※



「あーもー、どーしたのよっ?グーレーイっ!」

ルーシィの腕を掴んでずんずん歩く俺に合わせて、転ばないよう必死に小走りで付いてくるルーシィ。

せっかくエルザやミラとトランプで遊んでたのにっ!!…と。

後ろから聞こえる抗議は全て聞き流す。



俺が気に食わないのは、そんな事じゃない。



「ちょ…っ、なんでグレイの部屋!?」

「いいから入れよ」

半ば強引に、理由も分からず連れて来られたルーシィが少しだけ抵抗する。

でも俺の様子が気になるのか、ちらりと俺の顔を見ると割とすんなり部屋の中へ足を踏み入れた。

「…お邪魔します」

ルーシィが俺の部屋へ来たのは、これで2度目。

最初に来たのは、俺が告白したあの日。

「コーヒー淹れるから、とりあえず座れよ」

促すと、すとんっと大人しくソファに座る。

俺を見上げるその視線は、疑問半分、戸惑い半分。

その視線には答えず、キッチンへと移動する。



くだらない嫉妬だって事は、十分承知しているけど。

拾おうとして屈んだルーシィの胸元とか太ももとかニヤニヤ見られるのは我慢できないっ。



「ルーシィは、何であんなに天然なんだよ…」



あれだけ露出の高い服を着ているくせに。

周りからどんな視線で見られているのか、気付きもしなければ知ろうともしない。

晴れて“彼氏”になれたというのに、気苦労は増えるばかりだ…。



はー…、っとついため息を落とすと。



「なに?私がどうかしたの?」

突然、背後から聞こえたルーシィの声。



「ルーシィ…」

「言いたい事があるんなら、ハッキリと言えばいいじゃない」

戸惑うような…少し哀しそうな表情を浮かべる。

悪いのは、ルーシィじゃないのに。

でも。



「いや…別に、ルーシィのせいじゃないさ」

「じゃあ、何?」

「悪いのは…ルーシィじゃない…」

言える訳がない。

ルーシィを他の男に見られたくないなんて、こんなみっともない嫉妬心。



こんなに器の小さい俺が、駄目なだけ。



「ねぇ、グレイ」

ひょい、っと突然俺の顔を覗き込んでくるルーシィ。

いきなり正面からそのアップを見せられ、思わず慌てて仰け反る。

「な…っ、なんだよ…」

じっと俺の目を見つめる瞳。

何だか俺の奥底で燻ってるモヤモヤを見抜かれているような気持ちになる。



「グレイはね」

隙があり過ぎるのよ、なんて。突然言われて。



「…は?」



正しく“目が点”になった。

ルーシィならともかく、俺に“隙”?

意味が分からず、ルーシィの顔を見る。



「グレイは、私のなぁに?」

「そ…っ、それは…彼氏だと…思ってるけど…」

「ん、正解」

くるくると、嬉しそうに瞳が動く。

あぁ、やっぱりルーシィはとても可愛い。

「じゃあ」



「−…どうして、ジュビアや他の女の子達にも優しいのかなぁ?」

「…へっ?」



いきなり話の矛先が変わって理解できず。

無言で先を促すと、ルーシィは「はー…」っと深いため息をついた。



この間も、ジュビアと仕事行ってたよね?

その前も、街で女の子に話しかけられてたよね?

知らないでしょ。

街に出ると、女の子が沢山振り向いているんだよ?

その服脱ぐ変な癖を、喜んでる女の子がいるんだよ?

この間、道を聞いてきたあの子だって、いつもグレイを見てるんだよ?



「私の彼氏、なのに…」

他の女の子達に見られて、他の女の子達に喜ばれてるなんて。



「絶対に、嫌なのっ!」



…びっくりした。



告白したのは俺で。

想いが強いのは、俺の方だけだと思っていたから。



「グレイが隙を見せてもいいのは、私にだけなんだから」

ぎゅっと腕に抱きついてくるルーシィ。

「ルーシィ」

「他の女の子に、隙なんて見せる必要ないんだからね!」



すとん、っと理解した。

ルーシィが、隙だらけな意味。



「グレイが誰にも隙を見せなくなったら…」



“私も、グレイにだけ隙を見せるから”



ルーシィは天然なんかじゃない。

れっきとした“確信犯”だ。



「分かったよ、ルーシィ」


誰の視線からも隠すように、俺はそっとその体を抱き締めた。






俺は君だけのものだから。

―…君も、俺だけのもの。






********************

2010.10.16

グレイ×ルーシィで甘いのをひとつ。

ルーシィがわざと隙だらけだったのは、グレイのせい。

女の子は策略家なのです。

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