お題<book> 1
□きっと明日も、<ロキSide>
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さらさらと、緑を揺らして風が吹き抜ける。
少し前にはこの樹の下で途方に暮れていた。
でも、今は。
何もしていないのに、ついつい口元が緩んでしまう。
やっと抱き締める事ができた、大切で大切で、かけがえのない存在。
―…夢じゃ、ないよね?
「やっと落ち着くところに落ち着かれましたか」
背後から掛けられた声。
「やぁ」
全身メイド服、手首にはじゃらりと鎖を下げる彼女。
意気地なしの僕の背中を押してくれた、…処女宮の星霊、バルゴ。
「あのお姿は情けなさ過ぎて、とても見ていられませんでしたから」
何気にさらりと酷い事を言われている気がするのは気のせいか?
でもその表情は相変わらずほとんどないけれど、嬉しそうに微笑んでるかのように見えて。
「バルゴ…。君、性格変わった?」
「さぁ、どうでしょう?」
私にはわかりませんが…、と首を傾げる。
その姿さえ、僕の印象を裏付けるもの。
星霊は、通常自ら進んでお互いに接触しようとなんかしない。
それをわざわざ会いに来て、けしかけて、結果まで気にするなんて。
「あえて言うならば、オーナーの影響でしょうか」
星霊を、“友達”だと言い切るルーシィ。
彼女の優しさに、誰もが嬉しくて笑って、…影でこっそり、涙して。
中にはルーシィを敵と一緒に吹っ飛ばす星霊もいるけど。
あれだって、本当は照れくささの裏返し。
だって、『絶対服従』である契約者に対して“デートだから呼ぶな”とか“今度こんなふざけた場所から呼び出したら殺す”とか。
“必ず許してくれる”って信頼がなきゃ、言えないよね?
「ルーシィは、やっぱりすごいなぁ…」
僕だけじゃ、ない。
彼女の傍にいる星霊なら、誰でも思うこと。
立ち上がって、ぱんぱん、とズボンについた汚れを掃う。
「ありがとね、バルゴ」
僕が差し出した手を、握り返して。
「いいえ、ルーシィの為ですから」
静かにそう即答したバルゴが、何だか微笑ましくて。
笑った。
―…開け、処女宮の扉、バルゴ!!
パァァァと、バルゴの背後に召還の扉が現れる。
「あぁ、お嬢様がお呼びですね。では」
「…って。なぜ僕じゃなくてバルゴ!?」
「さぁ…もうお怒りではないと思いますけれど…。
理由は、直接オーナーに聞いてみてはいかがですか?」
もう大丈夫でしょう?
バルゴの目がそう伝えてきて。
「そうだね。…今夜にでも聞いてみるよ」
ひょい、と肩をすくめた僕を見て、バルゴは踵を返した。
案外、可愛いところもあるというのが見れて良かったですよ。なんて。
にっこり笑うおまけ付きで、光の中へと消えて行った。
※きっと明日も、※ <ロキSide>
「〜〜〜…っ!!」
やられたっ!…と手で目を押さえて空を仰いだ。
この恥ずかしい気持ちは、絶対に今夜、ルーシィに聞いてもらおう。
ついでに、僕を呼ばなかった理由も、教えてもらって。
今度は絶対に僕を呼んで!って、お願いするんだ。
待っててね、ルーシィ。
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2010.10.15
心が落ち着いていれば、呼ばれない事すら“ついでに”聞けばいいと思える。
そんな変化を書いてはみたものの…失敗?
何気にバルゴが目立ってます。
私は彼女がお気に入りです。
<ロキSide>という事で、違うバージョンもあったりしますが。
どこにUPしようか悩み中…。