お題<book> 1

□おやすみの代わりに、
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サラサラと、彼女の頬から零れ落ちていく金糸の髪。

自分の腕を枕にして、突っ伏して寝る姿。

腕の下には、書きかけの小説と思われる紙の束。

小説を書きながら寝てしまったんだろう。

「ルーシィ、ルーシィ。起きて。風邪引くよ?」

「うー…」

2・3度肩を揺さぶってみても、起きる気配はない。

まだ風が心地よい季節とはいえ、朝晩は冷える。

このまま机で寝ていたら、風邪を引く確立はかなり高い。

「ルーシィ、起きて」

再度、揺さぶる。

起きる気配はゼロ。



「…仕方ないよね?」



僕はちゃんと起こしたんだよ?

だから、起きなかった君が風邪を引かないように、ベッドへ連れて行くのは当然の流れだよね?



俗に言う“お姫様抱っこ”で抱き抱えて、ベッドへ運ぶ。

起きないように、目覚めないように。

慎重にゆっくりと。

余程疲れていたのか、ベッドへ下ろしても布団を掛けても、ルーシィは熟睡したまま。

すやすやと眠り続けるその穏やかな顔を見てて、悪戯心が首をもたげた。



―どこまでなら、起きないのかな。



まずは、そのサラサラと綺麗な金糸の髪を指で掬う。…ok。

続いて頭を撫でてみる。…ok。

頬に手のひらを当てて、そっと包む。…これもok。

親指の腹で、その柔らかくて綺麗な形の唇を撫でる。…まだ大丈夫。

そっとキスを落とそうとした時…。



「ん〜…」



僕の前髪が触れたのか、手で何かを払うような仕草をしながら寝返りを打つ。

手や体が当たらないように、とっさに身を引く。

壁の方を向いたルーシィから聞こえてくる、規則正しい呼吸音。

どうやらまた深い眠りに落ちていったようだ。



“私の知らない間にキスしちゃ駄目よ!”



まるで、そう彼女に怒られてしまったような。

「ごめん、ごめん。もうしないから」

小さく囁くと、彼女の口元がふわっと緩んだ気がした。

甘い、甘い、彼女の微笑み。

僕の心まで、ふんわり緩む。



これが“幸せ”っていうものなんだろうねー…。



ふと気が付くとそんな事を考えている自分が、何だか笑えてきて。

くくくっ、と小さく笑った。



自分は、この世界で消える運命だと思っていた。

もう誰とも深く関わらないで。

上っ面の関係だけを続けて。

いつか星霊としての命が燃え尽きた時、誰にも気付かれず消えていくものだと。

悩んで、苦しんで、やっと3年。

もうすぐ消滅できると思ったその矢先に、君が現れた。

全てを受け止めて進む君に惹かれ、羨ましくて妬みすら、した。

でもやっぱり、眩しくて。



『僕はもうすぐ死ぬんだ』



…なんて、打ち明けて。

誰にも気付かれずに消えるつもりだったのに。

真っ直ぐに前を見る君に受け止めて欲しくて。



こんな卑怯者の僕を、君は命を賭けて救ってくれた。



ねぇ、ルーシィ。

君は気付いているのかな。

僕の、この気持ちに。



シーツの上に投げ出された彼女の左手を、そっと持ち上げる。

その薬指の付け根に、小さくキスを落とした。

「おやすみ、ルーシィ」

いい夢を見ますようにと、そっと静かにゲートをくぐった。



※おやすみの代わりに、※



心を奪われた僕の、ささいなイタズラ。




********************

2010.10.13

はぃ、お約束!!(爆)

左手の薬指にキスって、何だかえっちな気がしません?

え?私だけ??

この2人の関係はちょっと微妙な感じを目指しました。

甘々の恋人同士でもなければ、他人でもなく。

上手く伝わったらいいなぁー…。

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