Gift/お宝<book> 2

□Drunkard
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□Drunkard





どん、と置かれた酒瓶ひとつ。

それとルーシィを前にして、ナツは無言。



「なぁによー。何か一言ぐらいしゃべったら?」



グラス片手に赤い顔のルーシィは、明らかに酔っ払いで。

その標的になってしまったナツを哀れと思いながらも周囲は遠くから見つめるだけ。

あの姿になったルーシィには近寄らないのが得策。

それは、今までの経験から皆が学んだ事だった。



「ナツってば。聞いてるのー?」

「…聞いてるって」

「うそつきー。上の空だったくせにー」



ぺしぺしとテーブルを叩く手には、すでに力が入っておらず。

あぁ、これは潰れるのも時間の問題ねとカウンターでミラジェーンが笑う。



「…アレ。止めなくてもいいのか?」

「グレイが止めて来てくれてもいいのよ?」

「勘弁。何されるか分かったもんじゃねぇ」

「あら。ルーシィが聞いたらどうするのかしらー?」

「―…止めてくれ、本当に」



そんな会話が繰り広げられている事なんてつゆ知らず。

ルーシィはケラケラと楽しそうな声をあげ、グラスの残りを飲み干した。

飲んでいる量はきっとたいした事ないのだろうが。

そんなに酒に強くはないルーシィを、そろそろ誰かが止めてやらないといけないタイミングだろう。



――明日、二日酔いのルーシィに八つ当たりされたくなければ。



「ナツの奴。早く止めろっつーの」



遠くからびしばしと突き刺さる視線をものともせず、ルーシィの正面に座らされているナツは珍しく

も大人しく。

ルーシィから度々投げかけられる言葉にも、ピクリとも反応しない。

これは嵐の前触れかと思う程に不気味で気持ち悪い、ナツの態度。

そう感じてしまうのは、日頃の様子を知っているからこそ。…なのだけれど。



「なぁつぅー?ちょっとぉー」



無視されている、と思ったのか。

テーブルを叩いていたルーシィの手が、ナツの首に。



「…あ」



周りが反応するよりも早く、ぐいっ、とその手がナツのマフラーを強く引いて。

必然的に引き寄せられる形になったナツの顔が、ルーシィの目前へと迫った。



それは、―…そう、まるでこれから唇を重ねるかのような、距離。



「聞いてるのー?ナ、…んっ、…ふ……」

「…るせぇ。聞こえてるっつーの」



「な…!?」



ほんの一瞬だったけれど、それは紛れもなく。

まるで、と思った瞬間に繰り出された、ナツからのキス。

受けたルーシィは、顔をより一層赤く染めて。



「…あ。沈んだ」



パニックで酸欠になったのだろうか。

ルーシィの身体がぽてり、とテーブルへ倒れこんだ。

唯一動いているのはゆらゆら揺れるピンクの髪のみ。



しん、と静まり返ったギルドの中と。

ひとり残されたナツ。

周囲は誰一人として言葉を発する事が出来ないまま、見守って。

やがて、そのゆらゆらが徐々に大きくなっていくナツの頭に、もしかしてと考え始める。



グラスもなければ、いつそんなタイミングがあったのか不明だが。

もしかしたら、――ナツも?



「ふん。酔っ払いの相手なんか、して、られ……っか…」



ぱた、と上半身をくの字に折り曲げ、テーブルに落ちたナツにようやく安堵の笑みを浮かべたメン

バー達。

そうだよな、とお互いに顔を合わせて頷き合う。

さっきのキスは、酔っ払いが仕掛けたちょっとした悪戯。

ルーシィに対して特別な感情があるとか、そんな訳ではないだろう。



――そう、きっと。



「強力なライバル出現ね、グレイ」

「あぁ!?んであいつがライバルなんて」

「あら。そんな事言ってると、ルーシィ取られちゃうわよ?」

「オレは、べ、つに…」

「そうなの。じゃ、私はナツを応援しようかしら」

「ミ、ミラちゃん…!」



一見、フェアリーテイルの中では断トツ穏やかに見えるミラジェーン。

その背後にあるただならぬ気配に、グレイはギブアップと両手を挙げた。

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2012.05.31

Liebeskrankheit」梅朗様に捧げる酒のつまみ。(笑)

酒飲みたい、という私のツイートからおつまみを作る事に。

酔っ払い、というご指定でしたのでこんな感じにしてみましたが如何でしょうか?

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