Gift/お宝<book> 2

□君の想いはこの手の中に。
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□君の想いはこの手の中に。




「どうしようかなぁ…」



露天商の前へ座り込む事、かれこれすでに1時間。

背中をじりじりと焼く太陽は暑く、じっとりと汗ばんでくる体と戦いながら目の前を凝視し続ける。

自作のアクセサリーを売っているという店員の女性は、そんなルーシィにやや心配そうな色を浮かべていた。



「あの、…大丈夫ですか?足…」

「んー痛いけど、それよりもこっちが大事!」

「そうです、か…」



きっぱりとそう告げ、うんうんと唸りながら悩み続けるルーシィ。

悩みの元は、ふらりと出てきたマグノリアの街中でふと見つけてしまった自分好みの髪留め。

滅多に遭遇しない、自分の趣味に合うものを見つけただけならば良かったのだ。…本当に。



「あー、もう、やっぱりどっちも欲しいっ」



右に左にと視線を動かしその2つを見比べ、一度ため息を落としてから更にまた悩む。

偶然見つけた、好みぴったりな髪留め×2。

何で今見つけなきゃいけないのよと、ある意味、運のない自分を恨んだ。



「ごめんなさいね、私がもうこの街を出ちゃうから…」

「いえ、私こそずっと店先を占領してしまって」

「気にしないで。貴女のおかげでお客さんが沢山来てくれてるから」



にっこりと笑ってくれたその女性の優しさに感謝しつつ、視線を再び下へと戻す。

全くタイプの違う、2つの髪留め。

1つは淡いパールがあしらわれていて、繊細な表情。

もう一方は、スワロスキーで花を形作ってあり、とても艶やか。

服に合わせて買おうと思うのだが、どちらにも似合いそうな服を持っているのだ。―…残念ながら。



「レビィちゃんがいてくれたらなぁ…」



彼女ならば、どちらがより似合うか選んでくれただろう。

でも、今日は何やら用事があるとかで一緒に出掛けられなかったのだから仕方ない。



「どっちにしようかなー…」



しゃがみ込んだ膝の上に腕を乗せ、手をぶらりと下げながら視線はずっと固まったまま。

どう考えても、どこまで悩んでも、きっと自分で結論は出ないだろう。

なら、ここはやはり食費を削ってでも買うべきかと考え始めた、…その時。



「さっきからずっと何やってんだ、ルーシィ」

「ナツ!」

「この暑い中、座り込んでなに――、のぁ!」

「お金貸して!」

「………あ?」



ひょっこりと現れた見覚えのある顔に、がしっ、とその襟元を思い切り掴んで引き寄せる。

対するナツは、たいして焦る様子もなく掴んできた手を外そうとして。

告げられた言葉にぴしりとその体が固まった。



「私、家賃払ったばかりなの。だから、ね?」

「ね?…じゃねーって。何でオレが金を貸さなくちゃ――」

「もちろん、貸してくれるわよね?」



にっこりと笑顔を浮かべたルーシィに、ナツはやれやれと肩をすくめてポケットを探る。

ここで言うことを聞かなかったら、後々嫌みを言われ続けるに違いない。

更に、ギルドでどんな噂話をされるか。―…考えただけでもぞっとする。

ナツはのろのろとポケットから財布を出し、お金を取り出そうと、して。



「あ。すまねぇ、オレもねーや」

「お金持ってないのー!?」

「何だよ。そういうルーシィだってねぇから貸してくれって言ってんだろ?」

「…ぐっ」



もっともな正論を言われ、ルーシィは一度、ふーっと深くため息を落とす。

家賃を支払ったばかりだった事といい、偶然会ったナツも持ってなかった事といい。

どちらか1つは最初から諦める運命だったんだろう。



――せっかく見つけた髪留めだったけど、仕方ない。



「すみません、じゃ、こっちを」

「もう1つはまたの機会にお願いしますね」

「…はい。ずっと悩んでいたのに、ごめんなさい」

「いいえ、本当に気にしないで」



女性から綺麗にラッピングされた髪留めを受け取り、ようやくその店先から腰を上げる。

偶然見つけた、とても素敵な髪留め。

1つしか買えなかったが、これはずっと大切に使おうとそう心に決めて。



「ほら、ナツ。先に行くわよー?」



未だ追いついてこないナツの気配に、ルーシィは思わず足を止める。

もしかして違うところへ行ったのかと肩越しに後ろを振り返って。



「…きゃっ!」

「それ。やるよ」

「やるって。…え?」



ぽい、と投げ渡されたものを反射的に受け取り、思わず握り締めてしまったそれを確かめる。

そこにあったのは、――今、ルーシィの左手にあるのと同じラッピングの袋。



「もしかして…」



お金がない、と言ったナツ。

それは、本当になかったのではなくて。



「実は優しいのねぇ、あんたって」

「実は、って何だよ。失礼な奴。何なら返してくれてもいいんだ――」

「きゃー、嘘うそっ!」



ぷい、と顔を背けてしまったナツに、ルーシィはくすくすと笑って。

少し離れた場所で立ち止まってしまったナツの元へと駆け寄る。

どこか不器用で、でもやっぱり優しいナツ。



私はきっと、こんなナツの事が。



「ありがとね、ナツ」

「おう。ちゃんと使えよ」

「分かってる!」



その言葉を告げるのは、きっとすぐ近くの事。

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2012.05.25

サカサマサマーサイダー」さまーさいだー様お誕生日記念v

これまたついったでお誕生日である事を知りまして。

お祝いあげたいです!と名乗り出ました。

…はい。またもやすみません。(汗)

このSSはさまーさいだー様のみお持ち帰り自由です。

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