Gift/お宝<book> 2

□Separation with a coward
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――あんな顔、させるつもりじゃなかったのに。



「ナツなんて、大っ嫌い!」



目尻に浮かんだ涙がこぼれ落ちるよりも早く、身を翻して駆け出す背中。

それを呆然と見送るオレの足は、ぴくりとも動かなくて。

ルーシィの後ろ姿が人混みに完全に紛れ見えなくなった頃、ようやくカクリと力の抜けた膝に逆らわずしゃがみ込む。



瞼の裏に焼き付いた、ルーシィの顔。

泣かせたのは、間違いなく――。



「だぁぁぁ、何なんだよ!ルーシィの奴っ」



胸に渦巻くもやもやを追い払おうと叫んでみても。

一向に、すっきりする気配はなかった。





□Separation with a coward





そもそも、暇だからと街へ出てきたのが悪かったのかもしれない。

ハッピーには置き去りにされ、ルーシィもギルドに姿を現さなくて。

ひとりで仕事に行く気にもなれず、何となく街へ足を向けた。



目的なんてない、本当にただの暇潰し。

あぁ、そういや食料が少なくなっていたな、と何気なく店へ向かおうとして。



ふと。見慣れた金糸を見付けた。



「おい、ルーシィ?」

「ナ、ナツ!?」



びくっ、と大袈裟に体を震わせ、ぐりんとこちらへ体を向けたルーシィ。

そのあまりの勢いに、思わずこっちが驚いて。

おぅ、と辛うじて手を挙げれば、はぁぁぁと盛大に落とされたため息。

まるで厄介な奴に会ったと言わんばかりのルーシィの様子に、どこかカチンと頭にきた。



「んだよ。オレがいたらマズイのか?」

「そんな事、誰も言ってないじゃない」

「言ってなくてもそんな態度なんだよ」



ムッとしたまま不満を口にすれば、それに輪をかけてむくれたルーシィ。

別に何もないのに、喧嘩する必要はないんじゃないかと思うけど。

気が付けば、いつもこんな事の繰り返し。



素直じゃない、と感じる。

本当は、偶然でも会えてちょっと嬉しかったくせに。



「ひとりで何やってんだよ」



街に出掛ける予定だったのなら、誘いに来ればいい。

オレはギルドにいたんだから。



「暇な奴だな」

「私がひとりで何してようと、あんたには関係ないでしょ!」

「何だよ、図星だからって怒んなって」

「うわ、ムカつくわー」



それはこっちの台詞だと、思わず脳裏に浮かんだ言葉はさすがにぐっと飲み込んで。

はいはい、と肩を竦めればぷいっとそっぽ向けられた顔。

ムカつくと言いたいのはオレの方だ。

――裏に隠れてる思いに気付こうともしないくせに。



「で。暇なルーシィは何やってたんだ?」



さっきまで熱心に見つめていた店先を、ルーシィの肩越しに覗き込む。

どうやらアクセサリーの店らしいという事はすぐに気付いて。

すぐ目の前に陳列されていたイヤーカフに、びたりと視線が止まった。



「べっ、別にあんたには関係ないでしょ!」



必死に邪魔しようとするルーシィを横へ押し退けて、足を進める。

見間違いでなければ、彼女はここに立ってショーケースの中をじっと見つめていたハズ。

ならば、ルーシィが見ていたのはコレという事なのだろう。



ルーシィは、ピアスはしてもイヤーカフはしない。

彼女の周りで日常的に使っている奴といえば、…ひとりしか思い浮かばない。



「…なんだ。あいつへのプレゼントか」

「へ?な、なんの事?」

「誤魔化すなって」



未だ焦った表情が消えないルーシィを横目に、興味が失せたとばかりに視線を外す。

あんなに楽しそうにしていたのだから、何か余程いいモノを見付けたのだろうと思ったら。

――こんな事だったのか。



「金ねぇくせに、無駄遣いすんなよ?」

「…私がどうお金を使おうが勝手でしょ」

「そりゃー、そうだけどな」



イライラする。むかむかする。

ジリッと焼き付いた胸が痛くて、ぐらぐらと頭が揺れる。

せっかく会えたのに。一緒にいるのに。

どうして、お前はそんな顔ばかりオレに向ける――。



「自分のモノも買えないくせに、人のもん買ってる場合か?」

「だから、何を訳の分からない事を」

「あぁ、そっか。お礼は倍返しだっけ?」

「…ちょっとナツ。いい加減にしなさいよ」



怒気をはらんだルーシィの声音に、これ以上はダメだと警告が鳴り響く。

それでも、溢れ出る言葉は止まらない。



「何狙ってんだ?オレが言っておいてやるから」

「ナツ」

「いいじゃねーか。どうせなら欲しいもん貰った方がいい――、ルーシィ?」



そこまで口にして、ようやく気付く。

ついさっきまで怒りに体を震わせていたルーシィが、きつく唇を噛み締め、その瞳に涙を湛えている事に。



「誰もそんな事、言ってないでしょ!」

「おい、何も泣く事ねぇだ―…」

「ナツなんて、――大っ嫌い!!」



くるりと翻った体と共に、ふわりと見事な金糸が空を切りその背中で跳ねる。

制止する隙もなく駆け出すルーシィ。

オレは、といえば訳もなく声を荒げてしゃがみ込む事ぐらいしか出来なくて。

ルーシィの姿が完全に見えなくなった頃、ようやく重い腰を上げた。



「あー…、くそっ」



“忌々しい”というのはこういう事を言うのかもしれないと、思わず足下にあった石を思い切り蹴飛ばす。

どうしてこんなにも上手くいかない。

ただ純粋に、本当に、偶然会えて嬉しかっただけの事なのに。



「あの…、お客様?」

「あぁ?んだよ」

「先ほどの女性のお連れ様…ですよね」



突然、背後から話しかけられ反射的に振り向けば、にっこりと微笑む店員らしき姿。

何か用かと思い切り睨み付けても、浮かべられた笑顔は消えないままで。

諦めて体を向ければ、ずいっと目の前に突きつけられたモノ。



「なっ!…んだこれ」

「あのお客様が見ていたのはコレですよ?」

「コレって…、指、輪?」

「はい。大切な方からプレゼントして欲しいけど、そんな事には微塵も気付いてくれない鈍感な相手なんだと。…お心当たりは?」

「は?…ぇ、あの」



にこにこと笑顔を絶やさない店員の姿に、ぱちぱちと何度かまばたきをして。

その意味を理解すると同時に、――体が動いていた。







「おい、ルーシィ。いるんだろ?」



正面から乗り込もうとしたら、がっちりと鍵に阻まれて。

やむなく、いつも通りのルートから部屋へと入り込む。



「おい、返事ぐらいしろって」



こんもりと山になっているベッドへと歩み寄り、上から声を掛けてもソレはぴくりとも動かず。

どうしたものかとひとつため息を落として、…覚悟を決めた。



「ルーシィ」

「ちょ、ヤダ…っ」

「いいから、起きろって」



べり、とルーシィの姿を覆い隠していた布団をはぎ取り、その顔の前に放り出すように置く。

ぽすんと落ちた白い正方形のその箱には、四方を包み込むように結ばれたリボン。



「な、によ。コレ…」

「さぁなー」

「あんた、もしかして。―…聞いたの!?」

「何を?」



がばっと勢い良く体を起こしたルーシィを、わざとらしくすっとぼけて見つめれば。

ぼっ、とまるで音がしそうな程、一気に白い頬が赤く染まる。



「顔、赤ぇなー」

「うっ、うるさい!」

「本当の事だろ?」



意地っ張りの照れ隠し。

――それは、お互い様で。



「いらねぇんなら、返してく…」

「絶対にダメっ!貰ったんだから、もう私のモノなの!」

「へーへー。じゃ、好きにしろよ」



何だか居心地が悪くて、早々に立ち去ろうとしたオレの体をくい、と後ろへ引き戻した力。

振り向く事も出来ず、ただ“何だよ”と小さく尋ねれば。



「ありがと、ね。ナツ…」



やっぱり、聞こえない程に小さな声が返ってきて。

オレはムズ痒くなってきた頭を、乱暴にがしがしと掻いていた。

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2011.11.21

Hangout」トム様へ捧げる相互記念ですv

ナツルーで指輪をテーマに、という事でしたのでこんなお話にしてみましたが…如何でしょうか?

予期せぬところでやきもちナツが登場して、どうしたものかと迷ったのですが。

ウチのナツはこんなイメージ、という事で…。

もしリメイクご希望とあればお気軽にっ。


相互して下さり、本当にありがとうございましたv

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