学園パロ<book>
□すなおな心だけがあればいい
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「すごい本の数…」
そのあまりの多さに、やや茫然としながら上を見上げ、歩き続けるルーシィ。
自宅の書庫にも、それなりの蔵書が揃っていると思っていたのだが。
とんだ井の中の蛙だったようだ。
「えっと。この辺りは…歴史書ね。んーっと…」
一応、分類表記なるINDEXが刺さっているのだが。
あまりの多さにその目印さえ見つけるのに小一時間以上かかりそうな気配。
“ここはレビィに助力を求めるべき”…そう判断して、くるりと身を翻すと、何やら足裏にむぎゅっと柔らかな感触。
同時に小さく「いてっ」と人の声が横から聞こえてきて。
何がいたかと視線を向ければ…。
―――上半身裸の男が寝転がっていた。
「キャー!誰かここに変質者がっ!!」
「お!?お、おぃ、誰が変質者…っ、てか待てって!」
「いやっ!離してっ!叩くわよっ。投げるわよっ!」
いきなり床に転がった上半身裸の男に腕を掴まれちゃ、いくらおてんばルーシィといえども勝ち目がない。
不意打ちはどんな戦略にも勝るもの。
今、正しくルーシィの頭の中は完全パニック、泣きっ面に蜂状態である。
「ど、どうしたの!?ルーシィ!!」
叫び声を聞きつけたらしいレビィが駆け寄ってきて。
ルーシィは慌ててその背中へと身を隠す。
怯えた様子で背中からその変質者を覗き見るルーシィを見ながら、はぁ、とため息をつくレビィ。
「…またですか。グレイ先輩」
「あ?なんだ、そいつレビィの連れか?」
「うちのクラスの転入生なんです。いじめないで下さいませんか」
「オレはいじめてなんか…。ソイツが勝手に」
「ってか服、着て下さい。先輩」
「…どわっ!」
慌てた様子で上着を着込むその“先輩”とやらを、ルーシィはそっと横目で見る。
シャツとジャケットを羽織り、きっちりと服を直せば…おや。不思議。
黒髪に黒い瞳。スラリとした体形。
髪はやや長めだが(短髪が好み)、それが似合っているから嫌味じゃない。
“またやっちまった…”目を手で覆い、天井を見上げるその先輩とやら。
脱いだ事を悔やんでいる様子を見ると、どうやらわざと見せた訳ではないようだ。
「グレイ先輩。外で脱ぎ癖が出ないように気を付けて下さいね!」
「あー、悪ぃワリィ。びっくりさせちまったな」
「そうですよ!いきなりソレは酷すぎますっ!」
―――“癖”なのか。
そんな癖はどうなのかと思うけれども。
癖ならば、わざと、という訳ではないだろう。
レビィに怒られて、その先輩とやらが少しだけ凹んだ様子でがしがしとその黒髪を掻き毟る。
すまねぇな、と小さく手を合わせて頭を下げられて、こちらもつられて頭を下げた。
―…というか、そろそろ紹介をして欲しいのだが。
(いちいち先輩とやらとか考えるのは面倒だ)
つんつん、とレビィの上着の裾を引っ張れば。
“あぁ、そうか。ごめんごめん”とレビィが笑う。
「ルーシィ。これ、私たちより1コ上のクラスのグレイ先輩」
「コレって、レビィ。それは酷…」
「脱ぎ癖あるけど、変態じゃないから。一応」
「………あぁ。そうだな………」
笑顔のまま存外酷い事をさらっと口にするレビィを、さして怒る様子もなく。
“よろしくな、ルーシィ”と手を出してきたグレイ先輩。
(どうやら悪い人ではなさそうだ)
最初の印象と見た目とその言動のギャップに思わずくすくすと笑いながら、そっとその手を握り返す。
すると、なぜだかふわりとインクの香りが漂って――…?
「オレは図書委員だから。何か分からない事があればいつでも聞けよ?」
―…なるほど。だからインクの香りが染みついてるのか…。
ルーシィはぼんやりとそんな事を考えながら。
転入初日にして、グレイという心強い仲間が出来たことを密かに喜んでいた。
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2011.02.09
それだけ蔵書多けりゃ、検索システムとかあるだろうに、…って。
高校の司書室でデータ登録の裏方作業やってた事を思い出した。
結局、あの検索システムは稼働したのだろうか…?
song:夢の世界へ