お題<book> 2
□願わくばそれが、愛でありますように
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「ちょっとー、グレイ。こんな所で寝てたら風邪引くよー」
2度、3度と強く体を揺さぶるも、“もう飲めねぇ”だの“ぬおっ、服!”(夢でも脱いでんのか)だの。
もごもごと寝言を言うばかりで起きる気配ゼロ。
どうしたものかと、ため息をつきながら隣のイスに腰掛ける。
自分の腕を腕枕にして、すやすやと寝息を立てる。
幸せそうな、ちょっとだけいつもより締りが無くなった顔を見ていたら。
―――何となく、むかっ、ときた。
「なによ、その幸せそーな顔は」
頬を(それなりに強く)ぎゅーっと抓る。
それでも起きそうにないグレイに笑えてきて、ぺちんと頬を離した。
こんな美人が隣にいるのに。
「大概失礼な奴よね、グレイってば」
睨みつけてもどこ吹く風。…って。
寝てるんだから当たり前か。
「あれ?起きたの?」
もごもご口が動いてて。でも目は閉じたままで。
“あぁ、なんだ寝言かー。何か夢でも見てるのかな?何喋ってんだろ?もしかして、私ー?”…なんて、聞き耳立ててたら。
「…誰の夢、見てんのよ」
かすかに聞こえた、水使いの彼女の名前。
“―――グレイ様!”
笑顔を浮かべた彼女の声が聞こえた気がして、勢いよく振り返る。
でも、そこには壁だけが、いて。
「何やってんの、私…」
“幻聴が聞こえるようじゃ、末期なんじゃない?”なんて。
“あんたのせいよ。どうしてくれんの?”って。
じろり視線だけで訴えても、目の前の寝顔は。
「―…何がそんなに幸せなんだか」
はーっと、深い溜め息と一緒にムカムカも吐き出して。
カタンとイスを鳴らして立ち上がる。
「ばーか」
顔を覗き込んで、こつん、と頭を軽く叩く。
「私以外の名前、呼ばないでよね」
帰ろうと足を踏み出して。
1度だけ、振り返る。
その目が相変わらず伏せられたままなのを確認して。
「…お休み、グレイ」
そっと、囁いて。
バイバイと、小さく手を振った。
*
「…バーカ」
人の気配がなくなった事を確認して。
グレイはのそりと体を起こす。
「とっくに起きてんだよ…」
ルーシィが近付いて来た時から。
彼女の気配に。香りに。温もりに。息遣いに。
五感すべてが揺り動かされて。
「寝てられっかってーの」
久しぶりにキャパオーバーのアルコールを摂取してダウンしていたというのに。
それらもすべて吹き飛ばして。
「誰の夢、なんて。お前以外いねぇっつーの」
いつも、いつも、いつも。
現実世界だけじゃなく、夢の中でもオレの視線を掻っ攫う。
“グレイっ!!”
太陽の下で笑う彼女の笑顔が、眩しくて。
こういうのを幸せっていうのか。―――なんて。
「らしくねぇよなー。氷の魔導士さんよ」
テーブルに突っ伏して寝ていたせいで、体がギシギシして。
ん〜、と力一杯背伸びをすると。
ぱさり、と何かが床に落ちた。
「…これ、ルーシィの?」
いつの間に掛けられたのか。
オレの肩に掛けられていた、…多分、彼女のカーディガン。
「さんきゅ」
もうここにはいないけど。
思わず、言葉が口から零れ落ちて。
ついでに、ふっと、笑みも漏れた。
「んー、借りっぱなしじゃワリィしな?」
誰が聞いてる訳でもないのに、言い訳して。
ルーシィの部屋へと足を向けた。
※願わくばそれが、愛でありますように※
「何しに来たのよっ!」
「いや、…上着、さんきゅ」
「あ、そ。じゃ、オヤスミ!」
「んだよ。少しぐらい、いいじゃねーか」
「いーやっ」
「なんだ?もしかして、ルーシィ」
「ヤキモチ、妬いてんの?」
「…んなっ!!」
「何を根拠に!?訳わかんないっ」
「寝言が何とか、言ってただろ」
「聞いて…っ!!」
「聞こえたんだよ。んで?誰だと思ったんだ?」
「…ジュ、ジュビア、…ょ…」
「ジュビアー?覚えねぇなー」
「夢で出てきたんじゃないの!?」
「ばーか。夢に出てきてたのはオマエだよ」
「…は?え。ウソ…」
「嘘言ってどうなるんだよ。…あ」
「あ?」
「もしかして、アレか?」
「やっぱり、ジュ…」
「ちげーよ。アレだ、アレ」
“ジュースくれ、ビールじゃねぇ。アルコールはいらねぇ”
「二度と酒は飲むなーーー!!」
「うわっ」
お酒は飲んでも飲まれるな。これ鉄則。
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2011.01.30
妄想グレルー。
本当はグレイがのそりとテーブルから頭押さえて体を起こすイラスト構図が頭に浮かんだのに上手く描けなくて悔しいから文章にしてみたらこんな風に。(長い)
オチがつまんなくてごめん。