お題<book> 2

□涙を拭う
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「ジェラール、入るよー!!」



ばんっ!という音と共に部屋の主の返事も聞かず乗り込んできたのは。

つい先日、大騒動の末にやっとの思いで想いが通じた愛しい人。

その彼女が部屋を訪ねてくるのはいいのだけれど。



「………あ?」



ジェラールは意識が覚醒しないまま、ベッドからもそりと顔を出す。

寝起きは決して悪い方じゃないと自負しているのだが。

まだ明らかに眠く、ぼんやりとしたままの頭は一向に目覚めようとしない。

とはいえ、辛うじて開けた目で捕らえた彼女は、元気一杯で意気揚々といった様子で。

これは自分が寝過ごしたんだな、と枕元の時計を見れば――…。



「…6時…?」



指し示すのは、まだ早朝とも言える時刻。

時計を見たまま視線を彼女へと向ければ。

両手に沢山の荷物を抱えて、やっぱり元気一杯のにこにこ笑顔を浮かべたルーシィ。



「本当に…ルーシィ、か?」

「まだ寝ぼけてるのー?ジェラール」

「いや…、もう目は覚めているが…」



すごぶる寝起きが悪い彼女が。

こんな早朝に。

元気一杯で。

俺の部屋を訪ねてくるなんて――…。



「…本当に、本物のルーシィなのか?」

「もー、疑り深いなぁ」



ふーっと深いため息をついたルーシィが、手に持っていた荷物をどさりとテーブルに置く。

籠からはみ出して見えるのはフランスパンらしきキツネ色のモノと。

色とりどりの何かが入れられている透明な容器。

置いた時の衝撃でチャプッと水音がしたからには、何か飲み物も入っているのだろうが。



『早朝に、笑顔で、大量の食料らしき荷物を持ったルーシィが訪ねてくる』



疑問符だらけの現状に、首を捻る。

確かに昨日、明日はお互いに何も用事がないから会おうね、と話はしていた。

それは間違ってないと思う。

でも、打ち合わせをするタイミングを逃したまま互いに帰宅してしまって。

朝起きてから連絡取らなきゃいけないな、と考えてはいたはずだが。



「なぜ俺の部屋に…?」



打ち合わせし忘れたよな?とか。

来る約束はしてなかったよな?とか。

いつもなら来ないような早朝にどうして?とか。

状況整理した経緯をすっ飛ばして結論だけ聞いた俺に。

ルーシィはむっとしたような表情を浮かべた。



「何よ。来たら迷惑だった訳?」



ぷうっ、と頬を膨らませて仁王立ちのルーシィに。

部屋へ来た事に文句を言われたと彼女が勘違いした事に瞬時に気付いて。

慌ててフォローしようとしたものの。

―――俺が動くより、ルーシィの行動の方が早かった。



「天誅!」

「う、わっ!!」



よく意味の分からない理由を口にして。

未だベッドから抜け出せない俺の上へ、その体ごと飛び乗ってきたルーシィ。

乗られた場所は、運良くというか悪くというか。

見事に急所、鳩尾に一発――。



「ぐ…っ。げ、げほげほっ」



いくら布団越しで衝撃が緩和されているとはいえ。

油断しているところにルーシィの全体重をかけた直撃は、さすがにキツくて。

ろくな受け身も取れないまま綺麗に攻撃を食らった俺は、起こしかけていた体を再び布団の中へと沈めた。



「ちょ、ちょっと大丈夫!?ジェラール!」

「…大丈夫じゃない…」



ベッドへ突っ伏し、枕をぎゅっと抱きしめ。

そこへ顔を沈めたままぽつりと呟く。



「ごっ、ごめんねっ。まさかそんなに痛いとは…。大丈夫!?」



焦ったように心配そうな声を掛けてくるルーシィに。

俺は枕から顔を上げることもなく、ただ無言を貫き通す。

そんな俺の様子に、ルーシィはかなり焦っている様子で。

何やらひとりで“どうしよう”やら“あーもうっ”やら、ぶつぶつと呟いている。



ルーシィの気配と言葉を耳だけで探りながら。

顔を埋めた枕の中で、こっそりと笑う。



別にまだ痛みがあるとか、苦しいとかそんな事は全くないのだけれど。

俺の事を心配してくれる君の姿がとても嬉しいから。

まだ顔を上げられない俺を知ったら、君はどんな顔をするのだろうか?



「ね、ちょっと。顔上げてよ〜起ーきーてーっ」



いい加減痺れを切らしたらしいルーシィが俺の肩を掴んだ瞬間。



「あ、えっ。きゃ…っ!」

「…おはよう。ルーシィ」

「ち、近いよ!ジェラール!!」

「ん?そうか?」



俺の肩を掴んだ手をそのまま引かれ、布団の中へと引きずり込まれ。

抵抗する間もなく、俺の体の下へと組み敷かれたルーシィが。

真っ赤な顔をして俺を見上げながら睨んでくるも。

その表情は、可愛い以外の何でもなく。



男としての本能が目覚めようとする気配をぞわりと感じ。



いつも通り、腰の辺りがすべて露出している彼女の服装。

そこから見えている素肌に、そっと手のひらを滑らせて。

腰から徐々に上へと辿り、その滑らかな肌質をゆっくり味わう。

ぴくり、と小さく反応を返してくるその愛しい体に全身の血がざわざわと騒ぎ出すも。

―――残念ながら、朝から暴走できるほど自制心は弱くなくて。



腹部の辺りを滑らせていた手を。

ウエストへと回して。

ぎゅっと抱き締め。

逃げ場を奪って。



「…え?」



抱き締めた事でちょうど彼女のウエストの両横に回った手で。

その腰を、思い切り。



「え、ちょ、なにを…っ!て、や、やややめてぇぇぇぇっ!!」

「ん?なぜ?」

「や、やめっ。ほんと…にっ、くすぐったい……っ、ひゃぁっ」

「ルーシィは本当に腰が弱いな」

「だから、ダメだって言って…っ、う、ひゃ。うきゅ〜…」



じたばたともがいて逃れようとする体を押さえ込んで、ひたすらくすぐる。

しばらくして。

右に左にと必死で逃げていたルーシィが、諦めたようにぱたんと布団の上に伸びた。



「もう止めて〜。ギブ。ギブアップ!」



俺にくすぐられ続けた事で赤く高揚した頬に。

浅く息切れした呼吸。

その目元には薄っすらと涙。



ゆっくり。

その顔に寄って。



目元に浮かんだ涙を、ぺろりと舌先で舐め取った。



途端、抵抗するように腕を突っ張って暴れるルーシィ。

そんな素直な姿がやっぱり可愛くて。



耳元で、そっと。







愛してるよ






真っ赤になった君の顔を。

そっと両手で包んで。

俺はそっと静かに笑った。







※涙拭う※ (ジェラール×ルーシィ)







「あっ、相変わらず恥ずかしい人ね!」

「そうー…?」

「なんであんな事を平気で言えるの!?」

「本心を口にするのに、何を恥じる必要がある?」

「うぅぅぅぅ」

「どうせなら、ルーシィからも返事が欲しいところだが」

「え、あっ。う…っ!」

「…気にするな。冗談だ」



本心を隠して告げた俺に。

視線を2度、3度と彷徨わせ。



真っ赤になったルーシィの顔が。

ゆっくりと近付いて。

そっと。



「――――…」



小さく耳元で囁かれた声に。

俺は驚いて目を見開き、そして。…ゆっくりと、笑った。

********************

2010.12.29

相変わらず、ジェラール氏の口調が分かりません。

油断するとリオンになるというマジック。(爆)



これにて「ふたりの指」お題完了w

お付き合い、ありがとうございました!(・∀・)/ ハーイ

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