限定Free<book>

□2013/バレンタイン☆
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不定期連載

□St. Valentine's day 第二話



「…ねぇ、ルーシィ。まだ買うの?」
「んー、あと少し」

手にしたメモにチェックをつけながら歩くルーシィ。
通りを歩く人達にぶつからないのはさすがと言うか。

いつものように賑わう町並みを歩く僕とルーシィ。
端から見れば、きっと立派なラブラブカップル。

――僕の両手に下がった大きな袋さえなければ。

「もう充分だと思うけど…」

ずっしりと重みを伝えてくる袋の中身は、一面ハートが飛び交うラッピング。
やや小ぶりのその箱は、1個は決して重くないが数が多くなればさすがに重い。

“出かけるからついてきて”

呼び出され、にっこりとそう告げられた時はデートだと思って本当に嬉しかったのに。
ひょいと渡された袋2つにあっさりとその甘い夢は打ち砕かれた。

丈夫な布製のお買い物袋を持参する辺り、さすがルーシィと言うべきか。

こんな袋なんて不要だろうと思っていたけれど。
積み重なったチョコレートは案外重い。
(現在進行形で体験中)

「今回はちょっと多めだから、絶対に重いと思ったのよねぇ」
「そう、…うん。重いね」
「ロキならゲートくぐって部屋に直接移動出来るでしょ?だからいいかなーと思って」
「それはそうなんだけど」

それなら、買い物終わってから呼んでくれればいいのに、と思っても口にはしない。
たとえ荷物持ちでも、ルーシィと2人きりである事には違いないのだ。
(泣きながら帰ってしまわないように自己催眠発動中)

「それにしても沢山だね」
「今回は迷惑かけた皆に配ろうと思って」
「迷惑かけた…?あぁ、そういう事」
「…ん」

寂しそうに浮かべられた笑顔が暗に伝えてくるのは、空白の7年間。
再び足を踏み入れる事が出来たギルドで出迎えてくれたメンバー達と。
帰還を祝福しに来てくれたライバル達。

このチョコレートは、彼女なりのお詫びを兼ねたお礼。

「きっと皆よろこんでくれるよ」
「うん!」

切り替わった彼女の笑顔は本当に楽しそうで。
どこかでホッと息を吐く。

彼女が心に負った傷は、きっとまだ完全には癒されてはいない。

強いな、と思う。
でも、本音を言えばもっと頼って欲しい、とも。

こんな我が儘な僕の事など知られたくない。
だから、今はただ静かに見守っている。

でも、何時か。
きっと、何時か。

――遠くない未来に。

「ね、ルーシィはどんなのがいい?」
「どんなって、…何が?」
「一生に一度のものだから、ルーシィが気に入ったデザインじゃないとダメだと思うし」
「んん?」
「サプライズにならない点は残念なんだけど―…」
「ねぇ、ロキ。一体何の話?」
「そりゃ、もちろん。僕と君の婚約指輪に決まって…、どうしたの?」
「…うん。もちろん私に拒否権はあるんだよね?」
「え。デザイン気に入らなかったら返品って事!?」
「それ以前の問題でしょ!どうしてあんたと私が婚約とかそんな話になってるのよ!」

僕を見つめる君が本当に本当に愛おしいから。
その表情が、この先決して哀しみに染まる事がないように。

「ルーシィってば、照・れ・屋・さ・ん」
「即、売り飛ばせば家賃の足しになるかしらねぇ」
「はっ!愛は形じゃないって言いたいんだね?さすがだよルーシィ!」
「……スキニシテ…」

君の隣で、ずっと。
笑っていようと決めている。

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2013.02.04

バレンタインは男女に限らず、恋人に限らず。
愛しい人にプレゼントを贈る日、という事で。
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