限定Free<book>
□2012.年末年始
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case:「ったく、飲み過ぎだろ?お前」
「…はぇ?」
突然、二の腕を背後から掴まれ、更に後頭部の辺りから声が響いて。
ルーシィは相手を確認しようと視線を向けるが、…生憎、相手は真後ろにいるらしい。
でも、辛うじて視界の隅に入ったピンク色に、ルーシィはホッとしたように笑顔を浮かべる。
「なによ、ナツぅー」
「“なによ”じゃねぇって」
呆れたように落とされた、大きなナツのため息。
どこか不機嫌そうなその声音に、今度はルーシィがムッと眉間に皺を刻んだ。
「手、離してよっ」
「あぁ?んな事出来るかよ。酔っ払いのくせに」
「酔っ払ってないもん!」
「酔ってる奴はみんなそう言うんだよ」
「私は違うのーっ。離してってば」
じたばたと暴れるその姿は、誰がどう見てもただの酔っ払い――。
ナツの頭にはそんな文章が思い浮かんだが、かといってどう諭すべきなのかも分からず。
どうしたものかと迷っているうちに、…どうやら、手への意識が弱くなっていたらしい。
「…っ、きゃっ!」
「ルーシィっ」
すっぽりと抜け落ちたルーシィの二の腕と、同時にぐらりと傾く体。
その反動で、ふちまで液体の注がれていたグラスがルーシィの右手から飛び出して。
「あ、ぶね…!」
パンッ、と液体が落ちる音を聞きながら、前方へと傾いたルーシィを正面へ回り込み受け止める。
グラスの砕ける音は聞こえなかったようだから、最悪の事態だけは免れたようだけれど。
…床が一面水浸しになっている事実からは逃げられない。
「ったく、さっきオレが何の為に掴まえてやったんだと思って――、ルーシィ?」
床の後片付けはお前がやれよ、と続くハズだった言葉は、不意にぴたりとそこで止まる。
「お前、…大丈夫か?」
「だいじょ、ぶ、だってば…!」
「だってよ。更に酔いが回ったんじゃねぇ?」
更に赤く色付いたルーシィの頬に、ナツは首を傾げながら向けられる両目を覗き込む。
過度のアルコールのせいなんだろう。
思わず見つめてしまった瞳は、普段よりも潤んでいて、何とも言えず色気があって、可愛くて―…。
「あぁぁぁぁ!」
「な、なつ!?」
「もういい。連れて帰るっ」
床の惨事を大股で避けながら、ルーシィの手を掴んで歩き出す。
片付けないと多分、後からミラジェーンに怒られるんだろうけど、…今は、そんな事に構っていられない。
「ちょ、ちょっと…っ」
「いいから。帰るぞ!」
引き摺られるように連れられたルーシィを確かめる事もなく、俯いたままぐいぐいと腕を引く。
そんなナツの顔は、ルーシィよりも鮮やかに、赤い。
――お酒は、一滴も飲んでないのにね?
Fin
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