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□Restart
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□Restart
「お正月も終わったわねぇ…」
正月に飾られていた諸々を目の前に、ぽつりと小さくため息を落とすのはルーシィ。
ミラが片付ける為にギルドの片隅に集めた正月飾り達も、この雰囲気をかもし出している一因だろう。
「まだお正月休みの気分なのかしら?」
「だって、ミラさん。せっかく楽しかったのになー、って思っちゃうじゃないですか」
「それもそうかもしれないわねぇ」
毎日どんちゃん騒ぎをしていたギルドも、今日はすっかり通常営業に戻っている。
クリスマスに始まり、年末年始ずーっとどこかお祭り気分で過ごしていた日々。
祭り明け、というのはどうしてかいつも妙な寂しさが付きまとってくる。
「あーぁ、もっと長いお正月があればいいのになー」
「あらあら」
もう役目を終えたお正月飾りの端をつまみ、ぽい、と投げ出す。
どう足掻いたところで、今年のお正月はもうおしまい。
次の正月休みまで、どれだけ長い時間が待ち構えている事か―…。
“今年”に入ってから経過した日にちを、ひとつ、ふたつと指折り数えて肩を落とす。
1年365日。まだまだ先は遠い。
「ほら。そろそろ家賃が危ないんじゃないの?」
「―…えぇ、そうですね。きっと多分、そうなんだろうと思います」
「もう、ルーシィったら」
くすくすと楽しげに笑うミラジェーンとは対称的に、どんよりと暗雲を身にまとうルーシィ。
それも、正月休みが明けて欲しくなかった理由なのに。
お祭り気分がまだ抜けきってない今、それを耳にするのは正直言って悲しい以外の何でもない。
「ずーっとお正月だったらいいのになー…」
逃げ切れない現実から目を背けるように、椅子の背もたれに預けていた背中をんーっと伸ばす。
ぐるりと周囲を見回せば、何もなかったかのように始まっている日常。
その端々に、まだみんなが酒を飲み、笑い、大騒ぎしていた時の映像が重なって。
これはただの残像なんだと知りながら、そこに埋もれてしまいたい自分がいる事にルーシィは改めてため息を落とした。
「本当に、楽しかったですね」
「そうねぇ」
「また来年も、楽しいですよね…?」
「ルーシィ?」
「まだまだ先は遠いですけど。きっと、大丈夫ですよね」
何かを確かめるかのように言葉を繰り返すルーシィに、ミラは少しだけ寂しそうに笑顔を浮かべ。
ただゆっくりと、同意を示す為にこくりとひとつ頷く。
笑い、騒ぎ、たまには喧嘩もして。
(主に酔っ払い同士のどうでもいい喧嘩ばかりだったが)
みんなで一緒に過ごした、楽しい時間。
消えた訳ではない。終わった訳ではない。
この手から、すり抜けてしまった訳では、ない。
ただもう一周、ぐるりと回ってくるのを待てばいいだけなのだ。
「あーぁ、…先は遠いなぁ…」
1月、と書かれたカレンダーの後ろには、まだまだ沢山の紙の束。
全てが無くなった時、再び同じ時間が訪れてくれる事を願うしかない。
「大丈夫よ。きっとすぐだから」
「ミラさん」
「きっと、家賃の支払いに追われていたらあっという間よ?」
「もー!だからそれは言わないでっ」
1年365日。
目まぐるしく忙しなく過ぎる日々に、いつかその長さなんて忘れてしまうのだろう。
だから今は、ただ願う。
今年もまた、みんな笑顔で毎日を過ごせますように、と。
「さーて。それじゃ、仕事に行きますか!」
「これなんて、家賃の支払いにはもってこいかもしれないわよ?」
「ミラさーんっ、もう家賃の事は言わないで下さいよー…」
差し出された紙を受け取りながら腰を上げ、もう1度しっかり背筋を伸ばす。
目の前にはもう、いつもと変わらない日常が広がっていた。
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2012.01