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□A happy bride?
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□A happy bride?





いったい、何が起きたというのだろうか。

あまりにも唐突過ぎて、何が言いたいのか分からない。



「何か足りないものとか、ない?」

「今はないからいいわよ」



にっこりと笑顔を浮かべて傍らに寄り添うロキと。



「腹減ってないか?飯、作ろうか?」

「空いてない」



どこか楽しげにエプロンを取り出しているグレイと。



「肩凝ってねぇか?何ならマッサージでも…!」

「ちょっと待て。それはNGだろ、ナツ」

「ルーシィの体に触れようなんて、言語道断だよ」



とんでもない事を口にして、即刻ロキとグレイに殴られているナツと。



「だから何なのよ、あんた達…」



帰宅早々、始まった意味不明な“奉仕合戦”にルーシィは深々と肩を落とす。

そもそもあんた達全員不法侵入だと告げてやりたい気分なのだが、それすら口にする隙もなく。

三つ巴の取っ組み合いが始まった騒々しい室内に、いい加減にしてくれとルーシィはため息をついた。



―…今日はゆっくりしたかったのに。



一日中、カラリと晴れていた空のおかげで、その熱気に抗えなかった体がすでに悲鳴を上げていて。

もうイスから起きあがるのさえ億劫になっているというのに、…この男達ときたら。

僕がオレがと意味不明な事ばかり叫びながら、どたばたと騒がしいことこの上ない。



今日の仕事は最低だった。

報酬もやっぱり散々だった。

だから、このもやもやした気持ちをお風呂に入ってすっきりさせて、小説でも書いて気分転換したかったのに。

この様子ではどうやらそれは夢のまた夢になったという現実に、ルーシィの中でふつふつと怒りが沸き上がる。



「あーもー!静かにしなさい、あんた達っ!」



ばん!と力任せにテーブルを拳で叩けば、しんと静まり返る室内。

見開いた目が一斉に向けられた事による居心地の悪さに、ルーシィは思わず“ごめん”と口にする。

それを耳にした途端、男たちはまるで仕方がない奴だと言わんばかりに肩を竦めて。



「あー、びっくりした」

「突然叫ぶなよなぁ、ったく」

「怒るのは美容に良くないよ?ルーシィ」



―…何故私が叱られる!?



どう考えても理不尽な言葉達に、再びルーシィの中で怒りが再燃する。

だが、やれやれと、どこか呆れているとさえ取れる男達の態度に、これ以上は何を言っても無駄だと本能で悟った。



「もういいから、早く帰りなさい」



心の奥底からの願いを込め、これが最後の勧告だと言葉を伝える。

だが、そんなナケナシの優しさすら、一斉に向けられた“イヤだ!”という返事であっさり打ち砕かれて。



「もう勝手にしなさいよ…」



何を言っても無駄であろう3人の態度に、ルーシィは力なく腰を上げる。

もういないものとして、自分の時間を有意義に使おう。

そう、心に固く決めて――…。



「ちょっと待った!」

「なっ!危ないじゃっ、―…って、なにこれ」

「見りゃ分かるだろ?投票用紙だよ」

「――投票用紙?」



僅かに顔を後ろへと引き、鼻先に突きつけられた紙に書かれた文字を読み取ろうと必死に目を凝らしピントを合わせる。

何やら、やたらとポップな文字で書かれているタイトルを読み取り、飲み込んで消化した次の瞬間。

ルーシィの眉間に、くっきりと鮮やかな皺が刻まれ、スッと瞳が細められた。

不穏な気配を纏い始めたルーシィに気付いたロキとグレイは押し黙るが、紙越しに対峙しているナツは気付かない。



「ルーシィはもちろん、オレだよなっ」

「――…さぁ、どうかしら…」

「んだよそれ。はっきりしろって」

「ナツっ、今はマズ…」

「おい、このバカ!」

「こんなの、簡単に決められるだろ?理想のだん――…」



「あー、煩いっ!さっさと帰れー!!」

「ぐぇ」「ちょ」「おいっ」



とりあえず一番近くにいたナツの鳩尾へ、渾身の力を込めた拳を1発。

それ自体にはたいしたダメージはないだろうが、油断しまくっていたせいで食らった衝撃を吸収しきれず。…結果。

ふっと3人の姿は掻き消え、それと同時に響いたどかっ、という落下音と通りを歩いていたらしい人の悲鳴。



まぁ、あの3人ならば、窓から落ちたところで何ともないだろうし、通行人にぶつかるようなヘマもしないだろうと。

未だ騒がしい階下を確かめる事もせず、ルーシィは窓を閉じて踵を返した。



「…ったく、バカバカしい」



ようやく静かになった室内、ぽつんと残された1枚の紙を拾い上げひらひらと左右に揺らす。

多分、ミラさん辺りが“暇ねぇ”の一言で始めたのだろう。

お祭好きなフェアリーテイルらしいと言えば、らしいのかもしれないが。



「“理想の旦那”、か」



『フェアリーテイル、理想の旦那は誰!?大投票!』

そんな派手な謳い文句の書かれた紙を見つめ、ルーシィは改めて溜め息を落とす。

理想の旦那と言われても、そもそも前段階であるはずの恋人すらいないというのに、一体何を判断基準にして選べと言うのだろうか。

白紙のまま投票してやりたいような気もするが、―…投票用紙にばっちり『ルーシィ』と書かれている辺り、それは許されない選択肢なのだろう。



「あー…、誰にしたらいいのかしらね」



下心ありありでまとわり付いていたあの3人だけは絶対に選ぶまいと心に決め、他の候補は誰だと思い描く。

ヘタな相手を選べばその人に迷惑がかかるだろうし、かといって厄介な人を選んでは自分の身が危うい。

あの3人をあっさりと押しのけられる実力者で、且つ私に対して一切何の感情も持っていない人と言えば――。



「…あ」



ぽん、と浮かんだ横顔に、ルーシィの頬が思わずにんまりと歪む。

ぶっきらぼうで無愛想だけど、性格は決して悪くなく、そして実力者。



「んっふっふっふ」



カリカリ、とその名前を書き上げ、丁寧に折りたたんでバッグへ仕舞う。

そして、どうせならとそのままドアを開き、外へと足を踏み出した。

投票用紙さえ渡してしまえば後は我関せず。開票結果をお楽しみに、だ。



「さーて。どんな反応をするのかしらねぇ」



鞄を勢い良くぶんぶんと振り回しながらギルドへと向かう。

結果発表がいつになるのかミラさんに確認してみなくてはと、うきうきと心底楽しそうなルーシィだった。

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2011.10
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