イベントログ<book>

□One Way Date -Before-
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「おーい、ルーシィ?起きてるかー」



見慣れたドアに手を添え、こんこん、と軽くノックを2つ。

すぐに開かれると思っていたドアは、何故か閉ざされたままで。

まさか、と少しだけイヤな予感が脳裏に浮かぶも、聞こえなかった事を想定してもう1度強めに叩く。



「ルーシィ?」



途端に室内から聞こえてきた、ばさりという衣擦れの音とごとりと何かが落ちたような音。

どうやら聞こえてはいたらしい事にほっとしつつ、それでも開かないドアに首を傾げた。



「グレイ? ちょっと待って…!」

「あ?まだ用意できてねぇのか…、って何やってんだ?」



予告しておいた時間は、多分もう過ぎているはず。

ここへ向かう途中で確認した時計で後5分と迫っていたのは間違いなかったから。

それでもこの空白があるという事は、――もしかして。



予想が外れてなければ、さぞかし慌てて出てくるんだろうなと想像し、持て余した時間で身なりを整えドアを見つめる。

彼女が姿を現した時にどんな事を言ってやろうかと少しだけ意地悪な事を考えて。

室内からばたばたと騒がしい音が近付いてくると同時に、勢い良くドアが開け放たれた瞬間。



「ごめんね、お待たせっ」



候補に上げていた“意地悪”は、見事にすべて吹き飛んだ。



余程慌てて準備したのだろう。

狭い室内で走り回ったらしく、頬をピンク色に染めて。

服こそきっちり着込んでいるものの、いつも丁寧に手入れされている髪が、ぴょこんと。



「…お前、寝坊したんだろ。髪、面白い事になってるぞ?」



くすくすとこみ上げてきた笑いを抑えもせず、そっぽを向いている一房を手に取り、指先を滑らせる。

髪質で絡まる事はないらしく、引っかかったりはしないのだけれど。

寝癖を直しているほどの時間もなかったのか?…と、そんな珍しい姿を晒したルーシィにふと笑みが洩れた。



「ねね寝坊じゃないもん…っ!」



オレの手から髪を奪い取り、何とか直そうとしているらしく上下に忙しく動くルーシィの手。

恥ずかしくて視線を上げられないのだろう。

必死に髪先を見つめているけれど、こちらの気配を窺っている事はバレバレで。

何度直そうとしても跳ねる毛先に小さく溜め息を落とし、俯きながらちらりとだけオレへ視線を向けた。



――あぁ、そんな顔は反則なんだけどな。



「ふぅん?…そっか」



もぞもぞとこみ上げてきた思いを抑え込み、そっと差し出した手をルーシィのそれへと絡める。

途端、ぴくりと揺れ固まった体にくつりと笑い、くすぐるように甲を引っかけばきゅっと握り返されて。



「…な、なに、よ」



明らかに頑張って踏ん張っていると手に取るように分かったけれど、…もう少し。



「今日の事を考えて眠れなかったのかなぁ、とか思って。…オレと同じで」

「…っ」



引き寄せた手の甲にキスを落とし、上目使いにルーシィを見つめる。

するとルーシィは一瞬だけ驚いたように目を見開き、何か言いたそうに口を開いたが、無言のまま視線を落として。

それでも俯いた頬が見る間に真っ赤になっていく様子に、少し意地悪が過ぎたかなと思いながらも愛おしさが勝った。



「ほ…ほんと? グレイ、も?」

「あぁ、…当たり前だろ?お前とのデートだからな」



躊躇いがちに告げられた言葉が少しだけ胸を引っかき、思いを伝えようと唇を手首の内側へ。

日頃、陽に当たる事のないその場所は白く、滑らかな皮膚に覆われていて。

青く浮かんだ血の流れにそって唇を這わせれば、びく、と今度はあからさまにルーシィの体が震えた。



――このまま、食らい尽くしてやろうか―…。



脳裏にちらりとそんなよろしくない考えが浮かび、小さく歯を立て軽く噛みつく。

そんな行為にすら、ルーシィはぴくりと体を揺らしただけで反撃する様子はなく。

このまま進めば踏み留まれなくなるような予感がして。



きゅっと強く吸い上げながら、手の甲へとんとん、と合図を送った。



「も、もう行かないとっ…また買えなくなっちゃうからっ、そのっ」



ぐいと勢い良く引かれた手を、そのまま素直に離す。

取り返した手を胸の前で握り締めているルーシィの姿には、思わずくらりとくるものがあったけれど。

今は朝。そして、まだこれからデートする約束がある。



「おっと、そうだ。午前中限定なんだったな」



ひょいと体を離し、何事もなかったかのように両手をポケットへ突っ込んで。

くい、と顔だけで行こうと促せば、緊張が緩んだように浮かべられた安堵の笑み。



――だから、それが危険だというのに。



ほんの少し前までイタズラされていた事など、すっかり忘れてしまったかのような笑顔に心が折れた。

外へ踏み出そうとしていた足をくるりと180度回転。

離れていた1歩分をルーシィの方へと歩み寄り、すでに油断していた彼女の耳元へ唇を寄せて。



「続きは…帰ってから、な?」



目一杯の色気と本性を込め、耳朶に触れる程の距離で小さく囁く。

そんな触発するような事ばかりしていると、今ここで食われるぞ?…と、そんな警告を含んで。

それに気付いたかどうかは知らないが、今度こそ派手に飛び退いて振り向きもせず駆け出していくルーシィ。



「っ、…し、知らないもんっ」

「おい、待てよ。置いてくなってば」



逃げるように階段を駆け降りたルーシィを、通りに出てすぐに捕まえて。

ぶん、と半ばヤケのように勢い良く振り上げられていた手を空中でぱし、と掴む。

そのまま強引に横へと並んだオレへ横目で睨むように視線を向けた後、ふーっと軽く溜め息ひとつ。

ずんずんと歩いていたルーシィの歩幅が、ゆっくりとしたものへと変化していく。



「店まで、繋いでてもいいか?」

「…う、…」

「ま、嫌だって言っても離さないけどな」

「も、もうっ…、恥ずかしいんだってばっ…」



文句を言いながら、それでもゆるゆるとオレの手に触れて。

照れたように、気恥ずかしそうにしながらそれでも決して振り払おうとはせず。

そんな素直で誰よりも愛おしい存在が今、隣にいてくれる幸せにグレイはふわりと笑顔を浮かべた。



――絶対に、何があっても離したりはしない。



改めてそう心に誓いながら。

まずは、今日の彼女の望みを叶えようと目的の店へと急いだ。

********************

2011.10.17

ナギハラさんとの特別企画。

なり茶をお話にしてみよう!との事で書いてみました。

デート前のあーる、って案外あっさりしてたなぁ、と書いてて思ったり。(笑)

だって、これ以上いっちゃうとデートできなくなっちゃう…!(何)


私の無茶振りに乗って下さってありがとうございましたv

ナギハラ様に限り、お持ち帰り自由。

デート後のあーるも楽しみにしております。うふふふ。

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