恋する動詞111題<book>

□焦がれる
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01.焦がれる











好きだと自覚したのは、いつの事だったか。

時折、そんな事をふと思ってみるけど。

もうそんな事はどうでも良くて。

今、何よりも大切だという想いだけが重要で。



今日もまた。

いつもの後姿を、追い掛ける。



「よ、ルーシィ」

「グレイ。来てたの」

「…来てちゃ、悪いのかよ」

「そんな意味じゃないわよ」



その唇から飛び出してきた憎まれ口すら嬉しくて。

思わず緩みそうになる頬に気付かれないように。

くしゃり、と。その髪を掻き混ぜる。



“何よ”なんて、オレへと向けらえた笑顔。

“オレだけに”向けられた、笑顔。



ホッとする?嬉しい?幸せ?

―…違う。そんな想いじゃ、ない。



「よぅ!ルーシィ」

「ナツ!あんた、今日こそは仕事行くんでしょうね」

「あぁ?どうしよっかなー」

「私の家賃がやばいって言ったわよねぇ…?」



“どうすっかなぁー?”なんてからから笑い逃げるナツを。

ルーシィが、スツールから腰を上げて。

“行ってしまう”と思ったら、体が勝手に動いた。



「…グレイ?」



追い掛けようと足を踏み出したルーシィの腕を、後ろから捕まえる。

引き留められた事に、不満そうな表情を浮かべたルーシィ。

振り向いた反動で、さらりと揺れた髪から白い首筋が浮かび上がって。



どき、というより。

ぎゅう、っと。



鷲掴みにされた心臓が、悲鳴を上げた。



「なぁ、ルーシィ」

「なによ?」

「オレだけを、見てくれねぇか」

「なっ、何を突然…」



「…独占したいって、言っただろ?」



答えはまだ貰えていない。

それでも。拒絶は、されていない。



「…わ、分かってる。けど」



ゆらゆらと、視線が揺れる。

と同時に、今にも泣くんじゃないかと思える程、顔を歪めて。



―…あぁ、追いつめたい訳じゃないのに。



「すまねぇな」



俯いてしまったルーシィの頭に、そっと手を乗せる。

焦らないと決めていたのに。

求めてくれるまで、待つって決めたのに。



“私も、グレイが好き”…なんて、思わぬ返事を貰えたから。

我慢していた想いの分だけ、自制が効かない。



「行って来いよ」



とん、とルーシィの背中を押しだす。

求めて、焦がれて、全てをこの腕の中に閉じ込めてしまいたいと。

こんな醜いオレの想いに君が気付いてしまわぬように。



嫌われるのが、怖くて。

今日もまた、理解したフリで。



「じゃ、ね!」

「…あぁ。頑張れよ」



本当は、泣きたい程切ないけど。

君が、腕から離れていく事が本当に、辛いけど。



小さくなっていく背中を見送って。

その視線がオレ以外に向けられている事に、耐えられなくて。

そっと視線を外して、体を翻した。



どこまでが許されるのだろうか。

どこまでなら、君を求めても嫌われないのだろうか。



いつの間にか、こんなに臆病になって。

この腕の中に抱き止める事すら、躊躇われて出来ないなんて。

こんなに。―…涙が出てくるなんて。



「好きなんだ、本当に」



君に恋焦がれ。

君だけに想いを馳せる。



「…いつか、独占してくれるか?」



君がオレを独占してくれたなら。

この涙も苦しさ切なさも全て、幸せに変わるから。





オレの望みを。―…叶えて。

********************

2011.04.03

グレイ→→←ルーシィ。

好きだから怖くて。でも止められなくて。焦がれ続ける君へ。

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