幸福論

□幸福論Y
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………その雑木林は、良く気持ちのいい涼風が吹き抜ける場所だった。それと共に、薬草の宝庫でもあった。

雑木林は山のすぐ隣にあり、たまに鹿が間違えて彷徨ってしまうこともあり、

よく訪れている土地だった。何故なら、………この雑木林は、【奈良家】の領地だからである。




その場には重苦しい沈黙が降りていた。誰も言葉を発せず、静かに一点を見つめている3人の男達。

一人の鋭い眼の男が、その屈んでいる姿勢のままその見ていた一点を覗き込む。

………その男、今は奈良家の本家から離れてはいるが、紛れもない奈良家の頭首である。


その者の名、【奈良シカク】といった。         
         、、
男達が見ていたその一点。……それは、つい先ほどまで生きていた、少年である。

色鮮やかさを失いながらも、その存在を目立たせる金色の髪がさらさらと風によって揺れる。

もう閉じられた瞳からは、一筋の血が流れていた。───【血の涙】想像を超えるほどの絶望を感じた者の流す涙。

それを流した、まだ生まれて5年と経たない幼い子供。………その者の名は、【うずまきアスカ】といっていた。

………今はもう、ただの子供の死体であるが、木の葉で最も不幸な九尾という大妖怪の人柱力であった。




「終わったね」




3人の男のうちの一人が言った。……お世辞にも痩せているとは言えないが、優しい雰囲気をもつ色褪せた赤髪の男だった。


その者の名を、【秋道 チョウザ】という。


木の葉の名家の一つである、【秋道家】の頭首である。

彼は、身動きしない仲間を解すかのように、隣の金茶の髪に翡翠の瞳の男の肩に手を置いた。


その者の名、【山中 イノイチ】という。


彼もまた、先の2人に劣らない木の葉有数の名家、【山中家】の頭首である。

そのイノイチは、チョウザに揺すられているのにも気付かないのか、酷く茫然としていた。

チョウザの発した言葉にも、「あぁ…」と軽く相槌を打つだけでハッきりとした反応はしない。


と、ふいに屈みこんでいたシカクがゆっくりと立ち上がった。その黒曜石のような目も、

イノイチと同じく酷く茫然としているようだ。彼は、アスカを見下ろしながら微動だにしない。




「……終わった、ん…だよな?」




自分に問うように呟いたシカクの言葉に、答える者はいなかった。「終わった」と言っていたチョウザも、

それが分からなかったから……。シカクは、直に来るだろう死体処理班を待ちながら疑問に思った。


【復讐】


俺は今それを終えた。ずっと一緒に戦ってきた、絶対言わなかったが俺の大切な親友で、

自慢でもあった木の葉の火影4代目である【波風 ミナト】の命と引き換えに生き残った九尾に、

ずっと、ずっと【復讐】しようとしていた。柄にもなく泣いた、10月10日……ミナトの命日に……


忍びの日常は死と隣り合わせ、今日は生きていても明日は死ぬかもしれない日常だ、

仲間が死ぬのなんて茶飯事だった。だから覚悟していなかった分けでもなかった。

ミナトもイノイチもチョウザも……他の同期の奴等や俺の部下、忍びをしている限り必ず死ぬと、


    頭では分かってたつもりだった


ミナトだぜ?次の日にはヒョッコリ泣いてる俺の前に現れて、「HAHAHAただいまぁ〜死んだ波風ミナトだよぉ」とかふざけた事いって

笑いながら、連絡受けて任務からすっ飛んできて泣いてる俺達三人にさ、




「ウソ、チョウザかイノイチならともかくシカクも泣く!!??」


「やだ俺愛されてる(キャハ」




とか気持ち悪ぃリアクションで笑わしてくれるって事をさ、


信じて、疑わなかった


だからこそ認められなかったんだよ、現実を。棺の中で眠ったみたいな死に顔のミナトをさ、

なのに生きてる化け狐の九尾をさ、……なんで生きてんだよ?って

もうイノイチみたいに頭ん中の血が全部沸き立つような怒りよりさ………急激に怖いほど冷めていくようなんな感覚。

怒り?憎しみ?恨み?……全部が合わさって感情が消えたんじゃねーか?って思えるほどだったよ。

何で火影様がうずまきアスカを生かして屋敷にかくまってんのか本当に分からなかった。


…………これほどまで人を殺してーなんて思ったの初めてだった。


イノイチもチョウザも、言わなくても分かるぐらい殺気放ってさ……お前ら忍びだろ?さっさとその殺気隠せよ、

って突っ込みたいくらいだった。……俺も人のこと言えねーけどさ、な?分かるだろ?


ともかく死ぬほど憎かった、疎ましかった、死んだ方がマシだと思えるくらい地獄を味合わせて殺そうと、

3人で長い間ずっと機会を待ってた。たった4年だって?俺たちにとっては一日一日が地獄だったよ、

目と鼻の先に殺してー奴がいるのに殺せねーんだからさ……


シカクは静かに2人のほうに向き直った。…と、多分里の中心角のほうで、人の怒涛のようなざわめきと歓声の波がここまで伝わってくる。

………そうか、火影様の遠眼鏡の術でうずまきアスカが死んだのが分かったのか……3人とも瞬時に理解し、無感動に思った。

何故だろう?喜んでいいはずなのに………虚しい、空虚のようなこの感覚は??


それはこの場にいる全員が思っていることだった。もう一度心の中で3人は繰り返す。


【復讐】は終わった。達成した。果たした。


なのに?何故空虚以外感覚を感じることが出来ないのか??…………本当は3人とも既に分かっていた──


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