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□SETSUNA
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今、隣にはうつむいている恋次がいる。ずっと昔からわたしは恋次に片想いをしてきた。恋次にはちゃんと彼女がいる。とっても可愛くて女の子らしくてわたしなんかでは敵わない。そんな恋次が同期のわたしを呼ぶときはなにかに落ち込んでいるとき。きっと良き友達、理解者と思われているのだろう。わたしは隣に恋次がいることにすごくドキドキして、いてもたってもいられないのに、そんな気持ちに気付いていないであろう恋次はずっと下を向いている。夜明け前のうっすらとした明るさの中で、わたしは横の恋次をただ黙って見つめている。わたしが会うことを拒まないから、恋次はよくわたしを呼び、ほんのちょっとだけ弱音をはく。わたしは、頼られている、という満足感に浸る。この時間だけがわたしの幸せだ。わたし達はきっとお互いがお互いに浸かっていた。恋次はこの関係にきっと満足しているだろう。でもわたしは違う。本当はわたしだって好きと言いたい。しかし恋次には彼女がいるし、フラれて今の関係までさよならになってしまうのはわたしには耐えられない。今のわたしは恋次が立ち止まる時、そっと手を差し出すだけ。それだけが今のわたしの役目。

恋次とは同期だった。なんかのきっかけからすごく仲良くなった。それからは、2人で遊びにも行っていた。わたしはその時からもう恋次のことが好きだったけれど、恋次はやっぱり友達としか見ていなかっただろう。恋次が副隊長にまで上り詰めて少し距離が遠くなった気がした。2人で遊ぶ機会なんてあっという間になくなった。それから恋次に彼女が出来て、周りの目を気にせずに会うことすら出来なくなった。過ぎていった時間は全てわたしの中の闇の部分が抱きしめたまんま。

恋次といるときは絶対に笑顔を絶やさない。涙が零れそうになることもよくあるけど、恋次の前では泣かない、と決めた。横に恋次がいるときはいつも同じことを考えている。時間よ止まれ、と何度も願う。そんなお願いもわたしの想いも絶対に叶わないと知っているけど願わずにはいられない。やっぱりわたしは恋次のことが本当に好きで、でもやっぱり好きもさよならも言えなくて。恋次が少しでもわたしを頼ってくれるならそれでいい。今日もそう思いながら恋次の隣に座っている。
相変わらず恋次はうつむいていて、たまに空を見上げている。目の前に咲いている花が風で少し散った。それはまるでわたしの変わりに花が泣いてくれているようだった。風も季節もわたしにはなにも与えてくれなくて、ただただ流れるだけだった。わたしはいつまでこの関係を保っていくのだろう。





さよならさえも言えなくて
好きとも言えないまま
そのうちきっとわたしは
恋次の記憶から
消えていくんだ
風と季節に流されて






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