テニスの王子様
□長雨に閉ざされた空間で
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ぽたり、
一粒がたくさんの雨粒を呼ぶように、一人ぼっちのコートに次々と染みが出来て行く。
「ちぇっ…」
さっきまで晴れてたくせに!
愚痴をこぼしながら、器具はそのままに取り合えず部室の軒下に避難する。
『誰だ』
ふいに部室の中から声がした。
この低音ボイスは、跡部?
ガチャッ
「私ですけど」
「お前まだ帰って無かったのか」
机で何かを綴っている跡部が、呆れた顔をしていた。
「自主練だよ。つーかそれはこっちのセリフ。」
「部長様は忙しいんだよ」
「ふうん…何か出来ることがあれば私も手伝うけど?」
「取り合えずシャワー浴びて着替えて来い。ひどい格好だぞ」
「はーい」
髪はびしょびしょ、ウェアも濡れて、肌にべったりとくっついている。
「つか私着替え持ってきてない」
今日は休日の部活。制服も無い。
「はぁ…」
盛大にため息を吐かれてしまった。
「(´・ω・`)」
「俺のロッカーに替えのジャージが入ってる。ハーフパンツで良いなら使え」
「マジか!さんきゅ、借りるねー」
まあ、結局優しいのが我が部長、跡部な訳だ。
ロッカーの中には、跡部が言った通りジャージ、白いTシャツ、ハーフパンツが入っていた。
「Tシャツと短パン借りるねー」
「ああ。」
既に跡部は視線を落とし、部長様のお仕事に勤しんでいる。
大人しくシャワールームに入り、しつこく肌に張り付くウェアを脱ぐ。
「きしょっ…」
頭からシャワーを被って、すぐに着替えた。
跡部のTシャツと短パンは思った通り、ひと回り以上大きい。
Tシャツなんてチュニック状態じゃないか。
短パンは紐を締めれば大丈夫だけど。
最後に、バッグに入れていて無事だったジャージの上着を羽織る。
これで帰れる位の格好にはなっただろうか。
シャワールームを出て、跡部に目をくれる。
相変わらず仕事をしている。
「いつ終わるの?」
「その内終わる。」
「そっか。手伝えること、ある?」
「じゃあ書類の整理してくれ」
「うん、分かった」
「それと、」
「ん?」
「仕事が終わったら、家まで送ってやる」
「おお、それは嬉しいねえ」
「だから―――――」
“仕事が終わるまで、側に居ろ”
雨の音、
雨の匂い、
跡部の色、
跡部の声、
二人の瞬間、
「寂しがりめ」
本当は一人が嫌いなんでしょう
長雨に閉ざされた空間で
(雨、止まないね)
(…ああ。)