―嵐の夜に





リムジンで連れられてきた高級ホテル



腰に手を添えられたままエスコートされてその最上階へ








どうしていいかわからずにいれば呼ばれる名前






「葵さん、もっとこっち」





葵「あ、…はい…」





「大丈夫、いきなり食ったりしないから」





葵「そんな…」




そんな心配していたわけではなかったけど





俺は男だしか弱い女みたいなことはない


逃げようと思えば逃げられるし




それに俺が男だってわかれば
引くはず




一回そういうことがあってからお店の大問題になった



それからというものアフターは断ってきた






今回は名前に驚いて
とっさに答えてしまったんだけど








「すげぇ綺麗なんだ」





そう言って大きいカーテンをシャッと開ける







葵「わっ…すごい!すごい綺麗や…!」





大きい窓




広がる大都会の夜景




「雨降ってなけりゃもっと向こうまで見渡せて綺麗なんだけどな」





確かに遠くの方はこの悪天候で霞んでしまっている






葵「でも、すごい…」






夜景にはしゃぐなんて
やはり自分は少し乙女っぽい部分があるのか


夢中になってたら
後ろから抱きしめられた





「綺麗だろ?」





葵「…は、はい」





「葵さんのが綺麗だけどな」




葵「お世辞がお上手ですね…」





ありがちな褒め言葉


耳元で囁かれてくすぐったくて下を向いて堪える






「もしかして耳、弱い?」






くつくつ笑われて
はっと顔を上げれば



窓越しに目が合った




笑う顔は少年みたい





葵「結構無邪気なんですね」




お店で見てた姿とは違う雰囲気



やんちゃで悪戯好きな少年みたい



「あんまり人には見せないけどな、こんな姿」





代表取締役という役職だから
へらへらも笑っていられないと




「葵さんすげぇ落ち着く」





心の拠り所もなかなかないのかもしれない





「しばらくこうしててい?」





葵「はい…」





抱きしめられたまま肩におでこ当ててしばらく静かな時間











顔が上がったと思ったら
また窓越しに目が合った




でも今回はすごく真剣な目






「葵さん……」





葵「…?」




腕が解かれてくるっと向き合わされた




「名前、呼んでくれねぇ?」





葵「す…」




名字を呼ぼうとすれば人差し指で唇を止められる





「下の名前でな」





葵「あ…れ、いたさん…」






れいた「うん、ありがと」






微笑んだと思ったら
そっとキスされた







最もキスされたと認識した頃には唇は離れていたけれど







葵「え………」





驚いて見上げれば
視線はまだ唇




再び塞がれると
後頭部を押さえられて食べられるようなキス





葵「ン…ッ…ゃ…っ」







逃げるも絡めて捕らえられる







れいた「ン…葵さん可愛い」




ヌルっと離れて撫でられる頭





可愛いの一言に一気に現実に引き戻された








葵「…葵は…、俺は男や…!」







れいた「え…………」







葵「気持ち悪いやろ



じゃあな」






呆然とするれいたさんをそのままに



一方的に言い放って
部屋を飛び出す




後ろから呼ばれた気がするけれど気にせずに走った





葵「またやっちゃったやん…」






あれだけ有名な企業の社長を逃すなんて



売上に響くな、と思うしかない







葵「早く帰ろ…疲れた」







タクシー拾って帰宅





麗「おかえり!」




支離滅裂で半泣きで迎えてくれた麗






何故かほっと、心が安らぐのを感じたのは
気のせいであってほしい
















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