*イナズマイレブン*

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白い何もない空間にいるのは、小さな男の子が2人。1人はうずくまって泣き、もう1人は「元気だして」と慰めていた。

あ、れは。


気づいた時にはもうその男の子達は消え、たくさんの大人と、男の子。
さっきの、慰めていた子だ。


――君は泣かないし、しっかりしてるのねー
何でもできるし
ホント強い子だわ
迷惑もかけないし、いい子ね
ありがとうございます
これなら1人でも安心よね

そうだ、これは。
これは―……


ピピピという携帯のアラームで目が覚めた。ということは、今は6時、か。

ムクリと起き上がり欠伸を一つ。
(俺の、大嫌いな夢)
そう遠くはない、幼い頃の記憶。
泣く友達を慰めてやれば周りの大人は俺を高く評価した。

風丸君は泣かない子ね、強い子ね、迷惑をかけないいい子ね、と。

そうやって『風丸一朗太』ができた。

だから俺は、泣いちゃいけない。強くなければならない。迷惑をかけてはいけない。

それが『俺』。

それを示すこの夢を最近よく見る。というより4日連続この夢だ。
もうさすがに嫌になってくる。もうすでに嫌なのだが。

変な汗をかいたせいでびしょ濡れになったTシャツを脱ぐ。体のいたるところがベタベタしていて気持ち悪い。

「シャワーでも浴びるか…」

まだ朝食までには時間もあるし、と替えのTシャツやらタオルを持って部屋を出た。
もちろん、ちゃんと服を着て。

廊下に出ると不動が欠伸をしながら歩いていた。
多少ドキドキしながらも普通を装いおはようと挨拶をする。

「んぁ?ああ…はよ一朗太チャン」
「その呼び方止めろ…。不動、どうしたんだ?こんな朝から」
「今起きて喉乾いたから食堂行ってたんだよ」

ぺたぺたと可愛らしい音が足下からする。チラリと見れば不動は裸足だった。
うわ、寒そう。

「そうか」
「てか風丸クンは?何処行くんだよ?」
「汗かいちゃったからシャワー浴びようと思ってな。まだ朝食までには時間があるだろう?」

ほら、とタオルを不動に見せる。すると不動は軽く首を傾げた。
どうした、と聞いてみる。

「んでこんな朝から汗かくんだよ。まさかてめぇ朝からハードな自主練とかしてねぇだろうな。この前監督サンに厳重注意されたろーが」

そう。
ついこの前俺は練習中に倒れてしまった(らしい)のだ。自分ではよく覚えていないが。

原因は疲れがたまったから、だという。それから秘密にしていた朝と夜にやる自主練がバレてしまい、監督に厳重注意を受けた。

だが今回は違う。
あの夢、嫌な夢を見たから、


と言いかけてやめる。
そうだ、相手は不動明王だ。

嫌な夢を見たんだと言ったら笑うに決まっている。
いくら好きな奴でも―…

「…風丸クン?」
「え、あ!!いや、ぁ、暑かったんだ!!それで汗かいちゃってさぁ」

はははと笑い誤魔化す。
無理だろ、こんな誤魔化し。冬なのに暑かったんだ、って。自分ながらも呆れる。

こんなんじゃ不動は納得なんか

「そうかよ。じゃあな」

…した。

とりあえず何も聞かれなくてよかった。
ホッと胸を撫で下ろし不動と(強制的みたいになったが)別れ、俺は浴場へと向かった。


不動が何かを呟いたのも耳には入らずに。

「…隠し事がへったくそだなぁ」
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